第55話 女神と変わり果てた友
アルマ達が瑠偉を倒す15分程前の事、ミユミユが焦燥感が見える表情でシルバとエンジュに問いただしている。
「なんでてめぇらが生きてるんだって聞いてんだよ!!」
「あーしらがなんで生きてるかって?今日のためだよ!」
「ミユミユ〜、そろそろおイタは止めましょうね〜。私達の時代は終わったんだから〜。」
「うるせぇ!!てめぇらに何が分かるっていうんだよ!!あたしがヤオにどんな仕打ちを受けたか知ってんだろうが!!」
「あぁ…知ってるよ。だからと言って何の関係もない者達を巻き込んで良いって理由にはなんねーだろうが!」
「黙れよ…。あたしはヤオの世界を無茶苦茶にできればそれで良いんだよ!!
そのためならなんだってやる!新たに悪の神と契約してでもな!!」
「シルバ…もう教えてあげたら〜?」
エンジュはミユミユを気の毒そうな顔で見た後、シルバに真実を語る事を促す。
「そう…だな…。もう頃合いかもしれねーな。ミユミユ!心して聞けよ!」
「真実?何の事だ…?」
「15年前にお前を焚き付けてネネやあーしらと戦わせたのはヤオ様だ。そして…今回の事件の黒幕…お前の言う悪の神の正体もまたヤオ様なんだよ!」
「は?何を言っている…?そんな訳…ないだろうが…。」
ミユミユは、シルバの語る真実を受け止めるどころか意味さえ理解できていない。
「お前は今回もヤオ様に騙されてこの事件を起こしてんだよ!あのホストの瑠偉って野郎も知っていたみたいだがな…。」
「嘘をつくな!!」
「嘘じゃねーよ!!こうなる事はネネも知っていた!!」
「ネネが!?じゃああいつは何で知っていたのにあたしを止めなかったんだ!」
「止められなかったんだよ!もうヤオ様が悪神に変貌する事を止める事ができなかったんだ!
時期が来て…全てが揃ってから悪神のヤオ様を倒す以外に手は無かった!」
「じゃあ…なんだ…。あたしはまた踊らされていただけだと言うのか…。」
ミユミユは、シルバの語る真実の意味が徐々に分かってきたのか、ゆっくりと地上に降りるとそのまま膝をついて項垂れる。
「本当はお前も協力してくれたら一番良い形だったんだが…お前は聞く耳を持たなかっただろ…。
でもな…ネネはな…、最後までお前が正気に戻る事を信じてたんだぞ…。
またあーしらが仲良かった頃みたいに手を取り合える夢をずっと見てたんだ!」
「もう…遅いんだよ…。
手遅れなんだよ!!何もかもな!!あたしはネネを手に掛けた!!こうなったのも全部ヤオのせいだ!!
てめぇらの言うように悪の神がヤオだってんならもういい!!あたし自身がこの悪の宝玉の力を使って世界を無茶苦茶にしてやる!!15年前のヤオがあたしにさせようとしてた事を今やってやるよ!!」
そう叫ぶとミユミユは、異様な空気を醸し出しながら浮かぶ悪の宝玉の元へと飛んでいく。
「キャハハハ!!あたしの『支配の力』に『狂気』『幻惑』『天誅』の力を取り込んで最強の悪になってやる!!ヤオが望んだ『悪者』になってやるよ!!てめぇら英雄や勇者と対を成す『魔王』にな!!」
「ミユミユ!いい加減にしなさい!!」
おっとりと喋っていたエンジュが子供を叱りつけるようにミユミユを叱責する。
「まだ間に合うでしょ!ここにいる全員でヤオ様を倒す!そうすればネネの想いに応える事もできる!やり直す事を諦めないで!!」
「分かんねー…分かんねーよ!もう自分が何で今こんな状況に置かれているのか!何で…大好きだったネネを殺してしまったのか…。
もう全てを消し去ってリセットするしかないんだよ!」
正気を失ってしまったミユミユが悪の宝玉に手を掛けた瞬間だった。突然空高くに絶大な力を持った者の気配が現れる。
その気配の持ち主は、この場にいる全員を圧し潰す程の圧力を発してくる。ラヴィを含めた全員がその圧に屈してしまい、立っている事も難しく、地面に膝まずく形で動けなくなってしまった。
その光景はまるで神を敬い崇める信徒のようにも見える。
(この…!力は…一体なんなのだ…!今扱える勇者の力を全開にしても体が全く動かないぞ…!
私の体の細胞全てが怯えているような感覚だ…!)
ラヴィでさえ抗う事のできない絶大な力だが、これはこの者が自然と発しているだけであり、決して攻撃を仕掛けている訳ではないというのがまた全員に絶望を与える。
気配の正体にいち早く気付いたのはセリーナであった。セリーナは圧に屈する事なく空を見上げると相手に向かって怒号を浴びせる。
「ヤオ!!お主であろう!!威嚇のような事は止めて降りてくるのじゃ!!
何もかもを説明せんか!!大馬鹿もんが!!」
「やっぱり力を抑え込まれているとはいえ、セリーナには通用しないか。」
空中から聞こえたのは紛れもなくヤオの声であった。しかし、男児の声ではなく、成人男性の声に聞こえる。
ゆっくりと空から降りてきたヤオの姿は、古墳時代の服装を思わせる『黒い神御衣』を纏っており、『草薙の剣』とそっくりな剣を腰に差している。
声から想像していた通り、ヤオは大人の姿をしていた。
「そろそろ悪の宝玉に力が溜まった頃合いかと思ってね。みんなご苦労様でした。」
「何故元の姿に戻っておる!?悪の宝玉の中に身を隠していたのではないのか!?
そんな姿で外におればわしの力と合わさり、大き過ぎる神の力で世界が崩壊するではないか!」
「別に…したら良いんじゃないかな?僕はそのつもりでいるんだし。
それに宝玉の中にいてそこのラヴィちゃんに斬られでもしたら終わりだしね。」
「お主は一体どうしてしまったんじゃ!神の中でも最も慈愛に満ちた優しい神であったではないか!」
「君の知ってるヤオは消失したんだよ。人格とでも言えばいいのかな?
僕はもう一人のヤオ。善のヤオが世界を諦めた時に生まれた異なるヤオさ。」
「なんということじゃ…。どおりで神御衣の色も純白から漆黒へと色が変わっておるのか…。
まさか一番の友が悪神に堕ちていた事に気付かなかったとは…。」
セリーナとヤオが会話している間も、ラヴィ達は顔を上げるどころか声を発する事さえできなかった。
だが、そんな中でたった1人だけその圧に負ける事なくヤオに攻撃を仕掛ける者がいた。
「ヤオォォォォ!!!!」
巨大な怒りが込められた叫びを上げるのはミユミユであった。
そのままヤオの背後から支配の力で形成された黒い爪で一矢報いようとする。
「この状態で動けるなんて凄い怒りだね。でももう君は用済みなんだよね。」
ヤオは笑顔でゆっくり振り返りながらそう告げると、『フ〜ッ!』と息をミユミユに向けて吹きかける。
その息をまともに食らったミユミユは、まるで激しい突風に吹き飛ばされたかのように離れた建物に叩きつけられる。
ただのため息が自然災害レベルの攻撃力を有している事に、改めて神と人には絶対に越えられない壁がある事に気付かされる。
「ち…くしょ…。てめぇだけは…てめぇだけは…。」
ミユミユは、ラヴィとの戦闘でのダメージも相まって、たった一度の攻撃でその場に倒れ込んでしまう。
しかし、ミユミユの恨みの力は凄まじく、ゆっくりと這いずりながらまだヤオの元に向かおうとしている。
「本当に君はずっと僕の操り人形として良く頑張ってくれたよ。もう楽になりなよ。」
「ヤオ!その者にもう手を出すでない!
お主が黒幕であったという事は受け入れる。だからせめてこうなってしもうた理由をわしに聞かせるんじゃ!」
セリーナはヤオの意識をミユミユから逸らせるためと、友がこうなってしまった原因を聞くために質問をした。
なんとかセリーナ自身も納得できる理由が欲しかったのだろう。
「はぁ〜。面倒臭いな。まぁ良いか…セリーナとはずっと仲良くさせて貰ってたから教えてあげるよ。」
そして、ヤオの口から今までの経緯が語られる。それは神が人を諦めた物語であった。




