第54話 魔王から友への鎮魂曲
アルマはゆっくりと地上へ降り立つと、穴の中で仰向けに倒れる瑠偉の元へと行く。
穴から覗くとそこには小さく笑う瑠偉の姿があった。
「我のあれを食らって原型を留めているどころか…意識まであるとは大したものだ。」
「あはは…なんとかオーラでガードしようとしたけどダメだったよ…。もう…立ち上がる力も残ってないや…。
良かったね…。僕を倒す事でヤオ様の野望を少し遅らせる事ができたじゃないか。」
「ふん!そんなものはどうでも良い!我が貴様に聞きたい事は一つだけだ!優愛はどこにいる!?」
「あー…。そういえばあの子を引き合いに出してそんな煽りもしたっけ…。」
「早急に答えよ!我はこの街がどうだとか悪神がどうだとか興味は無い!」
優愛の無事の確認を急ぐあまり、アルマは穴の中へ飛び降りて瑠偉の胸ぐらを掴むと怒りを露わにする。
「もしも…もしも もうすでに優愛を手に掛けていたとしたら…!!」
「優愛ちゃんがどこにいるかなんか知らないよ。いつも通り花屋で働いてるんじゃないの?」
「は!?何を言っている!?」
「アルマちゃんさ…、僕は魔王である前にホストだよ?うちの店の大事な姫に手荒なマネなんかすると思うかい?
アルマちゃんを倒す手段であの子を使うならとっくにそうしてるよ。」
「ならなぜお前は優愛の事を仄めかしたのだ!?」
「そうしないとアルマちゃんが本気を出せないと思ってさ…。
後は…少し羨ましかったのかもしれないね…。五右衛門町という騙し騙されの汚い水商売の街で…本物のキラキラした愛を手に入れたアルマちゃんがさ…。
しかも魔王なのにだよ!ほんと笑っちゃったよ…。」
瑠偉は手で目周りを隠しながら笑ってはいるが、流れる涙までは隠しきれていない。
そんな瑠偉を見たアルマは彼を不憫に思い、掴んでいた胸ぐらを離した。
「貴様も相当なバカなのだな。なんでも我に相談すれば良かったであろうが…。こうなる前に…。」
「今思えばそうだったんだろうけど…。戦ったからこそここまで君を理解できたんだ。
特にあの3人がやってきてからのアルマちゃんの行動は凄かったよ…。色んな大事な事を学ばせてもらった。」
「我もこの世界に来てから学んだ事だ。貴様もこれから学んでいけば良いだろう。」
「うーん…。それはちょっと難しいかな…。」
「何故だ?貴様がこのまま死ぬなど有り得んだろうが。」
「違うんだ…。たぶん…もうそろそろ…。」
すると、横たわっていた瑠偉が突然跳ね上がるように胸を前に突き出す。
そして胸から黒い光が現れると、その光は物凄いスピードでどこかへ飛んでいく。
その光が向かったのは、恐らく先程ラヴィの青いオーラの柱を確認した辺りのように見えた。
「今のはなんだ!?どうしたのだ!?」
黒い光を失った瑠偉のオーラがどんどん弱々しくなっていくのをアルマは感じる。
「あれは…ね…。僕の恐怖の力さ…。用済みになった僕から悪の宝玉が回収したんだよ…。」
「ヤオという神がそうしたのか?」
「うん…。たぶんそうだろうね…。ノンノ以外の四天王の力も回収しているはず…。
今の僕の力でとうとうヤオ様が悪神に変貌するはずさ…。」
「そうか…。貴様はこのまま死ぬのか?」
「そうだね。他の四天王のみんなは知らないけど…僕はあの力を失ったらもう魔王ではないからこのまま存在が消えると思う…。」
「……………。」
アルマはその瑠偉のセリフに答える言葉が見つからず、ただ同情に満ちた目で見つめる事しかできなかった。
「あはは!そんな悲しそうな顔しないでよ!これでも結構満足してるんだよ!
でも…アルマちゃんとラヴィちゃんは…ちゃんとハッピーエンドを迎える事ができると良いね…。
魔王と勇者の結末なんて…酷い話ばっかりだからさ…。」
「あいつとハッピーエンドだと!?そんな事有り得んだろう!」
「そうかな?仲良さそうに見えたけどな…。まぁでも…後はあの女神様を信じるしかないよね。」
「あの女神を?どういう意味だ?」
アルマは瑠偉の言う『女神を信じろ。』という言葉が理解できず、その真意を知るために質問をするが、急にピキッ…パキッ…と瑠偉の身体にヒビが入り始める。
「お…おい!どうしたというのだ!?」
「もう…時間みたいだね…。さっきの僕の言葉の意味は、アルマちゃんが今と変わらず進んでいけば必ず答えに辿り着くはずさ。」
「そう…なのか…。」
「あ!言い忘れる所だった!
実はさ…僕が万が一アルマちゃんに倒された時のために、白石に封筒を渡してあるんだ…。
もしも君達がヤオ様の野望を打ち砕き、この世界を救う事ができたならその封筒の中身を確認して欲しい…。」
「一体なんだ?ここで言えば良いだろう!」
「あは…は…。それ…は…勝ってからの…お楽しみだよ…。
それじゃあ…アルマちゃん…楽しかったよ…。」
『バイバイ…。』
別れの言葉を告げた瑠偉の身体がヒビ割れてサラサラと崩れ去っていく。
瑠偉の魔王としての孤独で長い旅路は、最後の最後でアルマという『友』を得たのかもしれない。
その証拠に、瑠偉の最後の顔は満足そうに笑っており、それを見たアルマの胸は締め付けられる。
「瑠偉よ…魔王として立派な最期であったぞ。今の我と貴様なら良き友になれたのであろうな…。
貴様が成し得なかった魔王としての想いは我が連れて行ってやる。
それまで先にあの世で待っているが良い!」
アルマは弔いの言葉を述べると、スーツの内側のポケットに大事に仕舞っていたあるものを瑠偉の崩れた身体の上に置く。
それは優愛から貰ったガーベラの花であった。ガーベラは『友情』という花言葉も持っている。
アルマはその事を知っていてそうしたわけではないが、その偶然がこの熾烈な戦いに美しい幕引きをもたらした。
アルマが穴から出ると、そこにはすでにレナ達が待っていた。
「ん?聞いておったか?」
「ニャ〜…。聞くつもりは無かったんだけど…邪魔したら悪いと思ってみんなで待ってたら自然と…。話を聞いてるとなんだか悪い奴には思えなくなったな…。」
「ククク…。奴は魔王だったのだ!悪い奴に決まっておるだろう!」
「でもアルマも魔王だけど良い奴じゃない。」
シルヴィアの返しを聞いて、アルマの胸の辺りがムズムズするような感覚に襲われる。
「うるさい!!貴様らを配下にするための行動だったのだ!!勘違いするなよ!!」
「はいはい。本当にラヴィと一緒で不器用よね。」
「あいつと一緒にするな!我はもう帰るぞ!」
「アルマ様!ノンノもついて行きます!」
「貴様!引っ付くなと言っておるだろうが!」
「ニャニャ?でもこの街は今隔離されてるから、元凶をどうにかしないと出られないみたいだよ?」
「く…!それは本当か?いや…まぁそうであろうな…。面倒臭い…。」
アルマがガックリと肩を落とした瞬間、さっきまで遠くに感じていたラヴィ達の気配が一瞬で消えてしまった事に気付く。
「おい…一体何が起こったのだ!?」
その答えは…今より少し時間を遡る…。




