第53話 魔王、絆を手に入れる
【善の力を手に入れました。 種類は絆心。】
アルマが手に入れた善の力は、人の心を、想いを深い繋がりで結ぶ力であった。
それは命を賭けてレナ達を守ったアルマだからこそ手に入れる事ができた善の力である。
そして、手に入れた『絆心』に込められたレナ達の想いが宝玉を介して伝わってくる。
「ほー…。なるほどな…。貴様らは我に絆を感じてくれたのか。あれだけ我をバカにしておったのにな。貴様ら簡単だな。」
「ニャ!?なんで分かったの!?恥ずかしいんだけど!」
「く…悔しいけどちょっと格好良いとさえ思ってしまった自分が恥ずかしい…。でも命を賭けて他人を救うっていうのは簡単な事じゃない!」
「ノンノは…アルマに…恋を…。」
ぼーっとしながら頬を赤らめて近付くノンノをアルマが払いのけようとする。
「お…おい!引っ付こうとするな!
礼は我の働く店で金を落とすが良い!!」
「行く行く!戦いが終わったらすぐ行くね!ノンノお金はいっぱいあるから!」
「あ…店のオーナーは瑠偉であった…。
で…どうする?瑠偉?」
瑠偉は大技を使った後だからなのか、それとも先程のアルマの姿を見て心に揺らぎが生じてしまったからなのか、どちらか分からないがその場に立ち尽くしている。
「盛り上がっている所に申し訳ないけど…状況は何も変わってないじゃないか…。君は僕の恐怖の力に侵されて終わりだよ…。」
瑠偉の言う通り、善の力を手に入れたがアルマの身体から黒い斑点は消えていない。
「貴様の恐怖の力…中々に手強かったぞ。だがもうその力は通用せん!」
「は!?何を言っているんだい!?現状君は僕の力に屈しているじゃないか!!」
「我はさっき善の力を手に入れた時に確信したのだ。その事を証明しよう。」
すると、アルマは動かないはずの体に鞭打って、ふらふらしながらも立ち上がり、レナ達にある質問をした。
「おい、貴様らよ。瑠偉がまだ怖いか?」
アルマの質問に、少し間を置いてレナ達は等しく薄ら笑いを浮かべる。
「ニャハハ!なんだかもう全然怖くないね!やっぱ仲間って大事なんだな!皆が居ればもう大丈夫って思うよ!」
「そうね。改めて気付かせてくれてありがとう。アルマが命を賭けてくれたんだもの…恐怖してる暇なんてない!」
「もうノンノはアルマの下僕だよ!」
ノンノだけ少しズレてはいるが、全員の眼から恐怖の色は微塵も残っていないようだ。
そして、レナ達は倒れそうなアルマを3人で支える。それを見た瑠偉は勝ち誇ったように高笑いを上げた。
「あははは!触ってしまったね!その黒い斑点に触れたら君達も侵食されて終わりさ!」
しかし、瑠偉の勝ち鬨を上げるような笑い声が段々と小さくなっていく。その原因はレナ達の様子にあった。
「あ…れ?なんで君達は侵食されてないの…?」
一向に黒いオーラに侵食されないレナ達を見て瑠偉は無意識に一歩後ろに下がってしまう。
「まだ気付かぬようだな。我らはもう貴様にも能力にも一片の恐怖も持ち合わせておらん!」
アルマが命を賭して手に入れた一蓮托生の絆の力が、全員から恐怖という感情を取り除き、代わりに勇気を仲間に与える。
すると、アルマの身体を蝕んでいた黒いオーラがその力によって浄化されていく。
そして、完全に恐怖の力が霧散すると、膨大な量の赤いオーラがアルマから溢れ出る。
「うむ。全開とはいかんが、魔王の力がさっきよりも増したようだな。さて…瑠偉よ、第2ラウンドといこうか!」
想像を超えるアルマの魔王の力に、勝機を見出せない瑠偉は背を向けて逃げようとする。
「そうはさせないよ!」
そう叫んだのはノンノであり、腐敗の力で瑠偉の足元を泥濘みにして動けなくする。
瑠偉の立っている場所はアスファルトが剥がれて土肌が見えていたため速攻で腐敗の力を伝達できたのだ。
「こんなもので僕を足止めなんてできるわけないだろ!」
すると、瑠偉は足元を崩すために、両手を高く上げて黒いオーラを放つ体勢をとる。
だが、その行動を封じるかの如く、振り上げた両手をシルヴィアの矢が貫く。
「ふー!やっと当たった。そろそろ弓の自信が無くなる所だったわ…。
でもこれで動きは止めた!今よ!レナ!」
そうシルヴィアが号令を掛けるよりも早くレナは動き出しており、すでに万歳の格好をした瑠偉の目の前に居た。
「ニャハハ!かなり痛いけど頑張ってねー!」
レナが右腕に力を集中させると、キョウ戦で見せたものよりも太く逞しい豪腕が姿を現す。
そして、それを完全に無防備な瑠偉の腹部へと全霊の力で打ち込んだ。
レナのショートアッパーを食らった瑠偉の身体は見事なくの字に曲がる。その勢いは凄まじく、ノンノの力で繋ぎ止めていた足元をパンチの威力だけで剥がしてしまう程だった。
瑠偉は口から大量の血を吐血しながら宙を舞うと、その目線の先に空中に浮かぶアルマの姿が見えた。
「さぁ!アルマ!トドメをお願いね!」
レナは宙を飛んでいく瑠偉を気持ち良さそうに見上げながらアルマに最後を託す。
「ククク…。貴様ら!良くやったぞ!後は我に任せよ!」
空中に浮かびながらアルマが掌を上に向けて片手を上げると、その先に赤いオーラでエネルギー玉を作り上げる。
『バチバチ』と赤い電撃を纏ったその玉は、大人一人を包み込んでしまう程の大きさに成長する。
「4対1でしか追い詰める事のできなかった貴様の強さに敬意を払って魔王の力で屠ってやる。
これが汚いと言うのなら、力を取り戻した我が今度はタイマンで相手をしてやろう。生き残る事ができれば…の話だがな!」
そして、アルマが手を瑠偉に向けて振り抜くと、赤い玉はゆっくりと離れて目標に向けて放たれる。
瑠偉の身体はその玉の光に照らされて白いスーツが真っ赤に染まる。
その照らす光に目を細めながら瑠偉はアルマに答えた。
「汚いなんて…思わないよ…。ここまで完敗したら文句もない…。やっと僕を倒してくれる者達が現れてくれて…むしろ幸せかもしれないな…。
やっと…魔王としての宿命を終わらせる事ができるよ…。」
そう呟き、達観したような表情を浮かべた瑠偉を、アルマの放った赤い玉が地面へと押し潰すように飲み込んでいく。
その威力は膨大で、竜巻のような突風が辺りに巻き起こり、地面とぶつかった衝撃で周りの建物は破壊され吹き飛ばされていく。
すでにその場から遠く離れていたレナ達は魔王の力にただただ驚くばかりであった。
そして、それは散々暴れた末に目標を破壊すると、この戦いの終わりを告げるように弾けて消え去った。
一瞬の静寂の中、そこに残ったのはアルマのエネルギー玉が作った深い穴の底で、沈黙して横たわる瑠偉の姿だけだった。




