第50話 魔王、苦戦の末に…
アメーバのような黒いオーラを身に纏った瑠偉に向かって、アルマは何も臆する事無く真正面から戦いを挑む。
アルマのスピードに反応できていないのか分からないが、瑠偉は何も抵抗せずアルマに顔面を掴まれる。
右手で顔面を掴んだアルマは、その勢いを利用してそのまま20階はあるビルの屋上から飛び降りる。
そして、落ちるスピードを自分のオーラで加速させて瑠偉を道路へと叩きつけた。
その衝撃は道路に広範囲でヒビが入る程で、普通の人間ならば原型を留めてはいないだろう。
しかし、瑠偉はオーラをクッション代わりにして衝撃を吸収し、アルマの顔面を掴む手越しでもニヤニヤと笑っているのが分かる。
この程度で瑠偉を仕留められるとは鼻から考えていなかったアルマは、その状況を見ても冷静であったが、ふと自分の右手に違和感を覚えて急いで瑠偉から離れる。
その違和感の正体を確かめるために右手を確認すると、手のひらから肘を越えた辺りまでがドス黒く変色していた。
「ふむ…呪いのようなものか…。手から全身へと広がろうとしているな。
その気色悪いオーラに触れたからか?」
「あは!惜しいね!僕の力は『恐怖』なんだ。
その恐怖の力は本人の心だけじゃなく、触れた部分の細胞一つ一つを急速に侵食していく病のようなものでね…。
いずれそれに全身を侵された時、その者は恐怖によって廃人と化してしまうんだ。
オーラもヤオ様が強く創り過ぎたせいでさ、赤が色濃くなり過ぎて黒に変化しちゃった!全ての色は黒に通じてるんだよ…。
こんな僕を倒せる者なんて現れるわけないよね!」
「恐怖か…、貴様から感じていた悍ましさはそこから来ていたのだな。
以前の我が貴様に冷や汗をかかされたのも納得だ。」
2人が喋っている間も右手の侵食が止まらず、肩の位置まで真っ黒になっている。
「あ〜あ…アルマちゃんでもやっぱり無理か…。ごめんね、あっさり終わっちゃって。」
「何を謝っているのだ。我はまだ終わってなどいないぞ。」
すると、アルマは左手で自分の右肩から先を躊躇せずに切り落とす。
切り落とされた右手は地面に落ちると黒い灰になって崩れていき、吹いた風によって散っていく。
切り口からは大量の血が流れ落ちるが、アルマは眉一つ動かさずに一連の流れを終えた。
「えー!迷わずそんな対処するなんて凄いね!今までそんな人いなかったよ!」
「我は人ではないからな。」
「そうだった!魔王だもんね!
でも片腕で大丈夫?もうやめてあげようか?」
「貴様はいちいち癪に障るな!こんなもの傷の内に入らんわ!」
瑠偉の挑発にイライラしながらも、アルマが切り落とした右肩から先を一瞬で再生させる。
断ち切られたスーツの肩口から真新しい腕が生えると、アルマは感触を確かめるためにグルグルと腕を回す。
「すっご!魔族ベースだとそんな事もできるんだね!でも腕に粘液みたいなのがベッタリついてると気持ち悪いね…。」
「貴様に気持ち悪いとか言われたくないわ!
さぁ!仕切り直しといこうか!」
と、アルマは言ったものの。黒いオーラに触れるだけで発動する能力に攻めあぐねる。
(厄介な能力だな。あいつはオーラを出して立っているだけで攻撃した相手は勝手にダメージを受ける…。
今回は腕だけだったから良かったが…至る所から侵食されれば対応できんぞ…。)
アルマが攻め手を考えていると、遠くで凄まじい爆発音が聞こえて地面が震える。
その音の発生源を見ると青いオーラが柱のように空へと立ち昇っているのが見えた。
「あれはラヴィか!?あそこまで力を取り戻しているというのか!?」
「向こうも激しくなってきてるねー!あの様子だとミユミユもやばいんじゃないのかな。
悪の宝玉の力を解放してない所を見ると…まだ時間がかかるのか…。助けに行ってあげないとダメかな?」
「行かせるわけがなかろう!」
瑠偉がラヴィ達の方に気を取られている隙をついて、アルマが分厚い赤いオーラを全身に隈無く纏って攻撃を開始する。
オーラを分厚くすることによって、恐怖の侵食を防ごうと考えたのだ。
アルマは右足で思いっ切り瑠偉の胴体を蹴り砕こうとするが、自分のオーラと相手のオーラが触れた瞬間、恐怖の力によってオーラごと侵食が始まる。
「くっ!オーラすらも侵食するのか!?」
侵食のスピードは早く、気付けば足の甲からドス黒く変色しだした。
それを見たアルマは攻撃の動きの流れのまま足先を切り落とし、瞬時に再生させる。
そのまま止まることなくアルマの連撃は続く。殴った手や足が侵食されれば切って再生を繰り返し、怒濤の勢いで瑠偉を追い詰めようとする。
黒いオーラをものともせずに殴ってくるアルマの攻撃は、アメーバ状の性質をもってしてもダメージや衝撃を吸収しきる事ができず、瑠偉の身体に直接打撃が叩き込まれ始めた。
「あはははは!なんていう戦い方なんだ!僕は生まれて初めて痛みを感じる事ができているよ!」
「まだ笑う余裕があるのか!こっちの苦労も分からんくせに!」
幾度となく四肢を再生したせいか、アルマの再生スピードが格段に落ち始める。体力の限界を感じたアルマは一旦瑠偉から距離を取る。
「はぁ…はぁ…。このままでは我の力が先に尽きてしまうな…。」
アルマは新しい瑠偉への対抗策を考えるが全く何も思いつかない。
「いやー!斬新な戦い方を経験できて楽しかったよ!でもごめんね。ちょっとミユミユの所に行かなきゃダメだからそろそろ終幕といこうか!」
瑠偉が両手を広げると、それに連動するかのように黒いオーラが大きく膨れ上がる。今のアルマからすれば絶望的な光景だった。
(後少し我の力が戻っておればなんとかなりそうなのだが…ラヴィはどうやってあれだけの力を取り戻したのだ!?)
このまま退くのも魔王のプライドが許さず、何も手はないが、アルマがもう一度瑠偉を攻めるために玉砕の覚悟で構えた時だった。
『ンニャーーー!!』という叫び声と共に、大きなコンクリートの塊が、瑠偉目掛けて上から振ってきた。
それを瑠偉はオーラで受け止めずに後ろへと飛び退いて避ける。
声がした方へとアルマが振り向くと、そこにはレナ、シルヴィア、ノンノの3人が立っている。
レナは手についた汚れを落とすようにパンパンっと手を払いながら声を掛けてきた。
「ニャニャ!君がアルマ?セリーナちゃんから頼まれて助けに来たよ!
って…なんで半袖半ズボンみたいなスーツ着てるの…?裸足だし…ファッションセンスないのかな?」
「うるさいわ!戦ってたらこうなっただけだ!
いや!そんな事どうでもいい!ク…女神に言われて助けに来ただと!?そんなものいらぬわ!」
戦いに関しては他人の助力を好まないアルマは当然レナの申し出を断る。
すると、レナの横からシルヴィアが口を挟んできた。
「セリーナ様がアルマなら断ってくるだろうから、その時はこう言えって教えられた言葉があるの…。」
「な…なんだ…?」
「『断ったらグッチャグチャ』。これを言えば快く共闘するって教えられた。」
その短い言葉により、アルマの中でセリーナに肉団子にされた記憶が蘇ってくる。それは瑠偉の力など足元にも及ばない恐怖であった。
「そ…そんな言葉…わ…我は…なんとも思わんが…。丁度猫の手も借りたかった所だ…。し…仕方ないなぁ…。」
「ニャ!レナはライオンだから!あと、ビビって膝ガクガクしてるのにイキった感じが面白いね!」
「それでは共闘という事で良いみたいね。私は弓で援護するから遠距離は任せて!」
「ケガしたらノンノの所に来るんだよー!治してあげるからね!」
アルマの横へレナがボキボキ拳を鳴らしながら並び、その後方にシルヴィアとノンノが控える。
誰かと共闘するなど初めてのアルマだったが、イヤイヤながらもどこかレナ達を心強く思っているのかもしれない。
そんな感情を知らないアルマは心のむず痒さに頭を悩ませる。
だが、レナ達が参戦しても瑠偉の不気味な笑顔を消す事は叶わず、瑠偉は全方位に悪意を振り撒く笑顔で近付いてくる。
「何人来ても一緒なんだけどなぁ。
まぁいっか!まとめて消せるなら楽チンだしね!」
「瑠偉よ、ここにきて下ネタとは余裕だな!」
「そのチンじゃないんだけど…。アルマちゃんは締まらないなぁ。」
「ニャハハ!聞いてた通りバカなんだね!」
「うるさいわ!猫娘が!」
「レナはライオンだって!」
まったく息の合わなさそうな4人は、果たして瑠偉を倒す事ができるのだろうか。




