第5話 勇者 VS 獄炎鳥テキーラ
ネネと出会った次の日のお昼前、疲労で爆睡をかましているラヴィの元へネネともう1人女の子がやって来る。
「ラヴィちゃん!そろそろ起きてね!お給仕の時間ですよ!」
ネネの元気な声と、窓のカーテンが開けられて差し込んできた陽の光でラヴィは目を覚ます。
眠い目を擦りながら起き上がったラヴィは、ネネに気怠そうに挨拶をした。
「おはよう…。」
「あらあら!寝起きは悪いタイプみたいね!はい!これはあなたのメイド服よ!それと歯磨きセットとかはそこの洗面台に用意してあるから使ってね!着替えたら下に降りてくるように!じゃあルルちゃん、後は頼んだからね!」
ネネと一緒にやって来た女の子は名前を呼ばれると『はい!』と返事をしてラヴィの着替えや化粧を手伝う準備を始める。
ネネが部屋から出ていくとルルは改めてラヴィに自己紹介を始めた。
「ラヴィちゃんだよね!昨日は突然倒れたみたいだけど大事なくて良かったね。私の名前はルルって言うの。まぁお店だけの名前だけど…どり〜むは〜との副メイド長をしています!よろしくね!」
「うん、よろしく頼む。」
ラヴィがルルを見た印象は、黒色の三つ編みに大きな丸メガネをした大人しそうな女の子だが、メガネの奥は端正な顔立ちをしているのがよく分かった。
「じゃあまずは顔を洗ったりしてきてね。こっちでお化粧の準備とかしてるから。」
まだ完全に目が覚めていないラヴィは言われるがままルルの指示に従う。そして顔を洗い、自分のいた世界とはちょっと違う歯磨きセットで歯を磨いてからベッドの方へと戻ると、ルルに椅子に座るよう言われる。
「うわ〜、凄く肌綺麗だし…やっぱレベルが違うね…。」
「化粧か…そんなものした事がないな…色々と教えてくれると助かる。」
「まかせて!じゃあ始めるね!」
ルルは手際良くラヴィの化粧を始めるとあっという間に終わってしまう。それはラヴィの顔にはあまり化粧は必要ないということだろう。
「うん、こんな感じのナチュラルな感じで良いんじゃないかな?じゃあ次はメイド服だね!はい!どうぞ!」
ラヴィが手渡されたメイド服はネネのようなロングタイプではなく、今時の短めのスカートに可愛い装飾品が付いたタイプだった。
それをルルに手伝ってもらいながら着替えると世にも可愛いメイド勇者の完成だ。
「いや…可愛いね…。これはほんと…ヨダレが…た…食べたい…」
可愛いメイドさんや地下アイドルに目がないルルは、ヨダレを垂らしながらラヴィの全身を舐めるように見る。
「お…おい、エロいおっさんのようになっているぞ…。」
「ハッ!ご…ごめんね!ついつい可愛い子を見るとこんな感じになっちゃうの!じゃあみんな待ってるし下に行こうか!」
ラヴィはルルに連れられて下に降りると、広い店内にメイド服を着た他の女の子たちが数人とネネが待っていた。
メイド姿になったラヴィを見て、ネネを筆頭にみんな『か…可愛い』とザワザワする。こんなにも可愛いと言われた事の無かったラヴィは少し恥ずかしい気持ちになったが満更でもなさそうな顔である。
「はい!みんな静かにしてね!昨日の事で知ってる子もいると思うけど、今日からうちで住み込みで働いてもらうラヴィちゃんです!拍手!」
そうやってネネがみんなにラヴィの事を紹介をすると、『よろしくねー!』と拍手が起こり、暖かい空気で迎えてもらう事ができた。そんな中、ラヴィに色々と質問が飛び交う。
『フルネームはなんていうのー?』
「ラヴィ・ラグナロクだ。」
『ラグナロク!カッコいいー!!』
『何歳ですかー?』
「にじゅういっっさいっっ!!!」
『おぉー…拳で抵抗する人みたい…』
みんなからラヴィへと色んな質問が飛び交う中、ネネがパンパンッと手を叩くと、ガヤガヤするのをすぐに止めてみんなそちらへ注目する。
「はいはい!みんな聞きたいことはいっぱいあると思うけど、もうお店のオープン時間だから準備してね!」
ネネがそう言うとみんなは『はーい!』と返事をしてオープン準備を始める。
何をして良いか分からず、戸惑っているラヴィの元へネネが近付いてくる。
「今日はみんながどんな風に働いているか見てるだけで良いからね!私が色々と教えてあげたいんだけど、今日は一本橋界隈の寄り合いがあってそっちに行かなきゃダメなのよー…。気になる事があったりしたらルルに聞いてね!えっと…名前はラヴィのままでいいのかな?」
「私は自分の名前を偽るつもりはない!!」
「そ…そうなのね!じゃあメイドのラヴィちゃん!これからよろしくね!」
見た目は可愛い外人金髪メイドなのに対して、まだ男らしさが抜けないラヴィに、ネネは苦笑いを浮かべつつ店を出ていった。
ほどなくして店はオープン時間を迎え、どんどんとお客様、もといご主人様たちがご帰宅してくる。
コンカフェの意味を理解していないラヴィは、大量のご主人様発生イベントに驚きを隠せていなかった。
「こ…この数のご主人様は一体どこから…メイドを雇うほどの金持ちには見えないが…この辺りにはご主人様の巣が存在するのか!?こ…怖くなってきたぞ…。」
続々と現れるご主人様で店内がほぼ満席になった頃、店の入口からメガネをクイクイッと上げながら、細身の黒髪マッシュルームカットの男が入ってきた。その男は不敵な笑みを浮かべながら店内を見渡すとズカズカと一番奥のテーブル席に着席した。
マッシュ男の異様なオーラのせいか、メイドの子達も今までとは違うぎこちない接客になってしまっている。
「おい、ルル。あの男は一体何者だ?周りのご主人様とは少し毛色が違うように感じるが…。」
「あー…あの人は高柳さんって言ってね…ネネさんが居ないのを見計らって来るんだよ…。何故かって言うと…。」
ルルが高柳についてラヴィに説明を始めようとするのを遮るかのように、高柳の接客をしていた女の子が2人に向かって走ってくる。
「あの、ルルさん。高柳さんがラヴィちゃんを連れてこいって…。」
「えっ!?ダメだよ!まだラヴィちゃんを高柳さんのとこには連れてけないよ!」
高柳からの無茶な注文に慌てているルルを横目に、ラヴィは自信満々に前へと出る。
「ルルよ、私に任せるが良い。何故なら私は勇者だぞ!遠くから見ていても分かる。皆あの者が苦手なのであろう。私をご指名とあらば受けて立とう!」
ラヴィはそう言うと嬉々として高柳の方へと向かっていく。『ラヴィちゃん待って!』というルルの声はこうなったラヴィにはもう聞こえなかった。
そして高柳の席に到着すると、ラヴィが挨拶をする前に高柳はニヤニヤと笑いながらある言葉を放ってくる。それはラヴィを戦慄させるのには十分な言葉だった。
「テキーラのショットをどうぞ。はじめましてのメイドにはみんなこれをプレゼントしているんだ。嫌だとは言わせないよ…」
『テキーラ』。その言葉にラヴィの背中に冷や汗が流れる。ラヴィにはテキーラという言葉に覚えがあったのだ。
(な!何故こんな弱そうな男が『獄炎鳥テキーラ』の名を出すのだ!?四大天災と呼ばれる4匹の魔獣の一角だぞ!そのテキーラをプレゼントする!?まさかこの男が討伐したというのか!?私でも討伐には至らなかったというのに…。
良いだろう…受けて立とうじゃないか…高柳とやら…。)
こうしてラヴィの勘違いのもと、マッシュ高柳との壮絶な戦いが始まるのであった。




