第49話 勇者、ビンタされる
ミユミユが空中から悪の宝玉の近くに行くが、その力を使うには時間がもう少し掛かりそうだった。
(まだ早いか…!どうする…あたしの支配の力を宝玉に渡すか…。でもそうしたらあのガキを止める術が無くなってしまう…!こうなったら…!)
ミユミユは支配の力で辺りに散らばった建物などの残骸をありったけ操って持ち上げる。
その数は大小合わせると数百は下らず、ラヴィは無茶苦茶な力の解放によって自分の首を絞める形となった。
「これだけの数があればてめぇでも近寄れねぇだろう!」
「おぉ〜、さすがに壮観だな!だが!今の私はこんなものでは臆さんぞ!」
「言ってろ!クソ勇者が!!」
そしてミユミユは、持ち上げた残骸を弾丸のようにラヴィへ向けて発射する。常人では避けきることのできない弾幕は、『ドガガガガッ!!』という音をたてながら、ただ一つの目標を粉々にするため流星が如く撃ち込まれる。
四方八方から迫りくる脅威に慌てふためくかと思いきや、ラヴィは涼しい顔で全ての塊を斬り落とす。ちょっと鼻歌交じりな所が余計にミユミユの怒りを買っているようだ。
「てめぇ!!おちょくってんじゃねーぞ!!」
「さっき言っただろう!私はもう負けないと!悔しかったら直接かかってこい!!」
そのラヴィからの言葉に応えるように、ミユミユは数多の残骸の雨の中に紛れるように滑空すると、黒い霧で形成した長く鋭利な爪を使い、ラヴィの首元を薙ぎ払おうとする。
それすらも見切っているラヴィは聖剣でその攻撃を受けるが、全方位からの残骸の弾幕は続いており、ミユミユに気を取られていると急所にそれが撃ち込まれる恐れがあった。
両手両足 尻尾など、使えるものは全て使い、ありったけの力を使った玉砕覚悟のミユミユの攻撃は着実にラヴィへダメージを与えている。
ハルと戦っていた頃のラヴィならここで倒れていたかもしれない。だが、ネネの想いの真意を理解した今の彼女には通用しなかった。
ラヴィはミユミユの猛攻の刹那の隙を突いて、聖剣に溜めたオーラを斬撃のように放つ。
それをまともに食らったミユミユは、その斬撃を受け止めるも大きく後方に飛ばされていく。
翼を使ってなんとかブレーキをかけようとするが、それでも勢いは収まらず、建物をいくつも貫くように叩きつけられる。
とてつもない衝撃に、血を吐き撒き散らせながら数棟先のビルの壁にめり込む形でやっと止まる事ができた。
「ガハッ…!!!!
たった…一振りの…斬撃だぞ…。たった…それだけであたしを…。」
大ダメージにより直ぐ様動けないミユミユを横目に、ラヴィは悪の宝玉へと近付いていく。
その様子を見ていたミユミユは、骨折などで動かない手足を支配の力で無理矢理動かして、ラヴィと宝玉の間に急いで向かう。
その移動の時間を使って、ミユミユが残骸を操り一箇所に集めると、数メートルの巨大な石のつららを作る。
それをラヴィの歩みを止めるため、今持てる全力の力を振り絞り、黒い霧で作られた巨大な手でつららを掴むと、思いっ切り振りかぶってそれを撃ち込んだ。
音速を超えそうなスピードで撃ち込まれた巨大なつららは、ラヴィでも避ける事は難しく、勇者のオーラを纏った聖剣で真正面から受けるしかなかった。
当然そんなスピードで撃ち込まれた岩のつららは、ラヴィの聖剣とぶつかると粉々に砕け散るが、その衝撃で彼女を吹き飛ばして宝玉から遠ざけるという使命は果たす。
「はぁ…はぁ…。てめぇにこの宝玉を壊される訳にはいかねぇんだよ…。」
フラフラしながらも、ミユミユがまた宝玉を守るためにラヴィの前に立ちはだかる。
「なんていう物を撃ち込んでくるんだ…。おかげで手がボロボロになったぞ…。」
吹き飛ばされたラヴィは聖剣を杖のようにしながら立ち上がる。彼女の指は数本折れ、右肩は脱臼しているようだった。
それでもラヴィの目は死んでおらず、左手一本で聖剣を構える。
「もう一度…!勇者の力を解放して…!」
ラヴィがそう言ってまた青いオーラを解き放とうとした瞬間、一つの小さい影が彼女の前に現れると、
『バチーーーーーン!!!』
という炸裂音を響かせ、頬が弾け飛ぶかと思うぐらいの平手打ちをラヴィに食らわせる。
「こんのバカ勇者がーーー!!!」
ラヴィをそう叱責する小さい影の正体は、怒りでほっぺたをプクーっと膨らませたセリーナであった。
「め!めめ!女神様!?何故私をひっぱたくのですか!?
ハッ!?まさか支配の力で操られて!?」
「違うわい!お主!調子に乗って勇者の力を解放したじゃろうが!!」
「え…なんでその事を…。」
『バチーーーーーン!!!』
またセリーナがジャンピングビンタをラヴィに食らわせる。幼女の姿のため、ジャンプしないとビンタが届かないのだ。
その愛らしい姿を、セリーナに付いてきたシルバ、エンジュ、アヤネの3人がほっこりした顔で見ていた。
「お主はバカか!?いや!バカじゃったの!忘れておったわ!
あれだけ派手に力を解放させたらバレるのは分かっておろうが!大爆発を巻き起こしながら天に昇る青いオーラが丸見えじゃったわ!!」
「しゅ…しゅみません…。肉塊の刑だけは勘弁して下さい…。」
そうやってラヴィは大粒の涙を流しながら懇願し、『肉塊の刑』という聞き慣れないながらも恐ろしい事だけは分かる言葉を言う。
そんなラヴィの様子を見ていたアヤネ達にまでその恐怖が伝わってくる。
「なんなんだ…肉塊の刑って…。あーしまで怖くなってきたんだが…。」
「あの子の様子を見てるととっても恐ろしそうね〜。」
「うちもラヴィのあんな姿初めて見たぞ…。」
「お主らは気にせんでいい!!しかし…」
セリーナはチラリとミユミユの方を見る。
「お主が勇者の力を使わざるを得ない状況になるほど…あやつは強かったか…。」
「そ!そうなんです!使うしかなかったんです!」
「本当は?」
「え…いや…本当です…。」
セリーナがグイッと近付き、ドスの利いた声でもう一度同じ質問をする。
「本当は?」
「ヒグッ!エクッ!しゅみません…ちょっと気持ち良かったんです…!うわぁ〜〜ん!!」
詰められて子供のように泣き喚くラヴィを見て、アヤネ達は『うわぁ〜…』とドン引きしている。
「まぁもうよい!あの強敵を1人で抑え込んでいた功績もあるのでこれぐらいで勘弁してやろう!
街の被害もこれぐらいで済んで良かったわい!」
「え…これぐらいでって…。」
アヤネがそう言って周囲を見ると、クレーターを中心にまぁまぁの広さが荒地になっている。
「こんなの大爆発が起きたレベルっすよ…。」
「わしの世界ではこの数十倍の威力の被害が各地であったんじゃ。
そんな事よりアヤネよ。ラヴィのケガを治してやってくれんか?」
「そんな事よりって…。
まぁ分かりました。色々触れないでおきます…。
おい!ラヴィ!こっちに来い!」
シクシク泣いていたラヴィは、アヤネに呼ばれると腕で涙を拭いながらやって来る。
そのラヴィをじっくり観察するとアヤネは治療に取り掛かる。
「う〜んと…右肩が外れてんな。よし!入れるぞ!
―それ!!」
「痛ーーーーーーっ!!」
「ほんで次は両手の指だな。バキバキになってるがうちの内気功でマシになるだろ。ほれ、貸してみろ。」
聖剣を置いたラヴィの両手をアヤネが優しく包み込むと、自分の気を送り込んでなんとか手が動くように回復させる。
「凄いな…。ありがとう…アヤネ…。」
「気持ちわりーな!うちではここまでが限界だ!後でルルに診てもらえ!」
「そうだな!じゃあ気を取り直してもう一度勝負だ!ミユミユ!!」
ラヴィが聖剣を手に取り、ミユミユのいる方向へかざすが、それを無視してミユミユの目線はシルバとエンジュに向けられていた。
「シルバ…エンジュ…なんでてめぇらが生きてる…。」
「よう!久しぶりだな!ミユミユ!元気そうじゃねーか!」
「お久しぶりね〜。15年ぶりだものね〜♪」
こうしてレジェンドの3人が再会することによって、15年前に止まった時計の針がまた動き出す。




