第47話 勇者 VS 支配の大悪魔
一本橋の最南端に位置する巨大な平面駐車場の真ん中で、浮かぶ悪の宝玉を前にミユミユが両手をかざしてそれに力を溜め込んでいる。
『狂気』『幻惑』『天誅』の力を取り込んだ宝玉は3倍ほどの大きさに膨れ上がっており、周囲に黒い電撃を走らせている。
「もう少し…もう少しであたしの神が復活する…。そうすればこの世界を…。」
野望に一歩ずつ近づいている実感を感じ、ミユミユは目に復讐の炎を燃やしながらほくそ笑んでいる。
だが、その野望を打ち砕く剣がその場に現れる。
「待て!もうこれ以上好きにはさせんぞ!ミユミユ!」
聖剣に勇者の力を纏わせたラヴィがミユミユに待ったをかけた。
「クソが…。あいつらも役に立たねーな。『腐敗』の力が飛んでこねーって事は…ノンノは裏切りやがったか。」
「そこをどけ。私がその悪の宝玉を叩き斬ってやる!」
「どくわけねーだろうが鼻垂れ勇者が!」
「あ、すまない。気を遣わせたようだな。」
そう言ってラヴィは鼻をすすりながら鼻水を気にする様子を見せる。
「そういう意味じゃねーよ!本当に鼻が垂れてるのを指摘するかよ!」
「く…惑わせおって!さすが悪魔だな!」
「てめぇふざけてんのか!?
ネネのあの姿を見たんだろ?そうやってふざけていないと心が保たないのか?」
「ネネからは大事なものを受け継いだ。そして思う存分いっぱいネネの胸で泣いてきた。
だから悲しんだりするのは後だ。今は前を向き進むしかない!」
「チッ…。ネネをやればてめぇらは心が折れると思ったが…鬱陶しいな。」
「いや、お前が1番鬱陶しいぞ。」
「クソガキが!あたしの神の贄になれ!!」
怒りでミユミユが赤いオーラを身に纏ったのを確認すると同時に、ラヴィも青いオーラを纏って聖剣でミユミユに斬りかかる。
しかし、走り出した足に突然黒い霧が絡みつき、思ったように動かなくなる。そして、そのままラヴィは足がもつれて地面に転倒してしまう。
「くっ…!これはあの時の力か!?」
「キャハハハ!あたしの『支配』の力だよ!晩餐会の時に見せてやっただろ?」
「こんなに細かく相手の身体を支配できるとは…。油断していた…。」
「お前の攻撃はあたしに届かないんだよ。」
「少しいいか?」
ラヴィが申し訳なさそうな顔をしてミユミユに質問をする。
「なんだ?今さら何をしても遅いぞ。」
「晩餐会の時にお前は会場の人間を操ったよな?」
「それがどうした。」
「なら私にもそうしたら良いんじゃないのか?それならもう勝負は終わりだろ?」
「てめぇ…。」
「ハッ!?もしかしてできないのか!?私が強過ぎるからか!?勇者だからか!?そうなのか!?」
「調子に乗ってんじゃねーぞ!支配の力をナメるな!!」
ラヴィの言う通り、強大な勇者の力に邪魔をされ、ミユミユは支配の力でラヴィを内部から操る事ができなかったのだ。
図星を突くラヴィの煽りに怒髪天のミユミユは、黒い霧で辺りに置いてある車を数台持ち上げると、ラヴィに向けて物凄い力で放り投げる。
「物体も支配するのか!?」
ラヴィは驚いたが、冷静にその車を避ける態勢に入る。
だが、足が先ほどと同じで思うように動かない。よく見るとミユミユの黒い霧がまた足に絡みついていた。
「避けさせねーよ。潰れて死ね!」
「そうはいかない!」
四方から押し寄せる車に向かって、ラヴィは聖剣でそれらを斬ろうとする。
しかし、次は黒い霧が両腕に絡んでいて剣を振ろうとしても動かなかった。
「しまった!」
「だから避けさせねーって言ってんだろ!これで終わりだ!」
ラヴィは身動きも取れないまま、凄いスピードで押し寄せた数台の車に押し潰される。原型を留めていない車を見るとどれだけの破壊力でぶつかり合ったか想像に難くない。
その無残な光景を見ていたミユミユは、鼻で笑うとまた宝玉の方へと向き直る。
「これは…効いたなぁ…。めちゃくちゃ痛いぞ!」
スクラップ状態の車の塊から、微かにラヴィの声が聞こえたミユミユは驚いて振り返る。
すると、ガラガラと車を除けながら埃まみれのラヴィが出てきた。
「は!?なんで生きてる!?」
「こればっかりは私もオーラが戻っていないと死んでいたかもな!」
元の世界でアルマからの攻撃を受け続けたラヴィのオーラは、生半可な攻撃では一切ダメージが通らない程堅固なものだったのだ。
これはラヴィが軽装の鎧だけでアルマと対峙していた事にも納得である。
「なんてバカげた耐久力だ!仕方ない…支配を極めた力を見せてやる…。」
ミユミユは黒い霧を自分の元へと凝縮すると、それらをドレスのように身に纏う。真っ黒なドレスに大きな黒い翼、額からは2本の黒い角が生えたように見える。
それらは全て支配の力による黒い霧で形成されており、最後に竜のような黒い尻尾が作られると正に大悪魔の様相になった。
見た目だけではなく、大気からビリビリ伝わるオーラの強大さからも、ミユミユの強さが本物であると証明している。
「ハルが言っていた通り規格外の強さのようだな!」
「ネネにすら見せる事のなかったあたしの最終形態だ。お前の全てを支配してやる!」
「お前を倒すのは時間が掛かって骨が折れそうだし、まずはその宝玉から斬ろうかな。」
ラヴィが悪の宝玉を先に壊そうと思った時、自分の持つ宝玉から頭に直接セリーナの声が聞こえる。
『ラヴィよ!聞こえるか!?』
「女神様!?こちらに入ってこれたのですか!?」
ラヴィはセリーナと話すためにミユミユから一旦離れて大きく距離を取る。
『そうじゃ!詳しい事は後で話す!だがまず至急お主に頼みたい事がある!』
「なんでしょうか?今目の前にごっつい悪魔が居て、そいつが今にも襲いかかってきそうで時間がないのですが…。」
『忙しい所すまんが、わしがそちらに着くまで悪の宝玉は壊すな!』
「えっ!?何故でしょうか?連絡が来なければ真っ先に壊そうと思ってました…。」
『さっきも言うたが、詳しい事はまた後じゃ!
今言える理由としては…わしの我儘じゃと思ってくれ…。その悪の宝玉の中におる奴にちょいと用事があっての…。』
「分かりました!では女神様が到着するまで時間稼ぎをしましょう!」
『頼んだぞ!そちらへはわし以外に3人応援を連れて行くからな!待っておれ!』
「心強いです!ありがとうございます!」
『ではまたの!』というセリーナの言葉を最後に宝玉の通信は切れた。
「話はもう終わったか?」
「優しいんだな、わざわざ待っててくれるなんてな!」
「いや、待ってなんかいないぞ。お前はもう詰みだ。お前がコソコソしている間、あたしはこの一帯に支配の力を散りばめた。お前はもう私に近付くことすらできない。」
言われてみれば、ラヴィ達の立つ場所一帯から異様な空気を感じる。少しでも動けば絡め取られてしまうような圧がラヴィを襲う。
「抜け目がないな…。このままでは動けないか…。」
「どうやら分かったようだな。動けないてめぇをあたしがなぶり殺しにしてやるよ!」
「このままでは…な!!」
何か作戦があるのか、ラヴィはそう言うとただ聖剣を高く振り上げるのだった。




