第46話 魔王と魔王
「貴様が魔王だと…どういう事だ…。」
「僕はね、この世界で創られた魔王なんだよ。だから君と一緒って事さ!」
瑠偉が魔王であれば、あの人間離れした禍々しいオーラを出せる事に納得がいくとアルマは思った。
「ならばどこかにこの世界の勇者が居るという事か?」
「それがねー…。居ないんだよね。というかヤオ様は勇者を創る事ができなかった。それこそ何千年もね。彼の思い描く勇者は現れなかったのさ。」
「ヤオとはこの世界の神の事か?」
「そうだよ!そのヤオ様は勇者を求めてあらゆる異世界に行って、善の心を持つ才ある者をこの世界に連れてきた。
けどどの子も魔王である僕に勝てるような子は居なかった。
ヤオ様は僕を強く創り過ぎたのさ!」
アルマが感じてきた瑠偉のオーラなどを加味すると『強過ぎる』という事に偽りがないことが分かる。
「そしたらヤオ様自身が悪に染まりだして、とうとう他の世界の魔王候補まで一本橋に連れてくる始末さ!まさに暴走さ!」
「魔王候補…四天王と呼ばれておった者達の事か?」
「あの子達は元いた世界で魔王の立ち位置になる予定だったんだよ。
まぁ…さっきから3つも黒い光がミユミユの所へ飛んでいったのを見ると…君達側の誰かが倒したのかな。これはちょっと予想外だったよ。」
「そんな者達まで集めて混沌を作りだしたのか…。だが我らには関係ないであろう!」
「あるんだよねー。ヤオ様が最後に頼ったのは親友の女神だった。
悪神になるまで止まらぬ自分を止めてくれる最後の希望。その女神の世界の勇者と魔王の噂を聞いてそこに頼った。」
「我らの噂だと!?」
「君のオーラは紅、あのラヴィちゃんのオーラは蒼。そんな濃厚な色をしたオーラを持つ者など君達しか居ないさ。
君達と女神なら、神が暴走して生まれたこの混沌とした世界を終わらせられると思ったんだろうね。」
「なるほどな。それがこの前話していた『新生』に繋がるのか。で、我にどうしろと?」
「僕と一緒にこの世界を支配しようよ!2人の魔王でさ!善だの悪だのどうだっていいじゃないか!本能のままみんなが自由に生きる世界を創ろうよ!殺したくなれば殺し、犯したくなれば犯し、それらを救いたければ救い!ややこしい感情なんていらないのさ!
僕達が神になるんだ!僕達ならできるさ!」
「断る。」
「え?」
瑠偉の提案を即答で断ったアルマの目には、それらの事に対して一切の興味の色は見られなかった。
その意外性に驚いていると、なんの躊躇もせずにアルマは瑠偉へと攻撃を仕掛ける。
「貴様らの話などどうでもよい!!我は我のために生きるのだ!!
我と貴様を同列に語るな!!」
我が道を進んできたアルマらしい答えであった。しかし、アルマの攻撃はいずれも瑠偉に届く事はなく、全て軽く躱されてしまう。
「アハハハ!『我は我のため』だって!?女神から頭を押さえつけられながら善の力を集めてる君がかい!?魔王でありながら善行などしているくせに!どの口が言ってるんだい!?」
「黙れ!!貴様はグッシャグシャにされた事があるのか!?あれは…本当に…辛いんだぞ!」
「何それ?」
アルマは攻撃の手を一旦緩めて、セリーナからされた拷問の様なお叱りの時間を思い出して涙目になっている。
ポカーンとしている瑠偉をアルマが指差すと高らかに宣言する。
「だがな!今我のしている事は!我のしたい事に繋がっておるのだ!」
「したい事?魔王が世界征服以外に何かやりたい事でも?」
「ラヴィとの決着だ!我は奴と決着をつけるために今の苦行を耐え忍んでおる!
決してクソババ…女神が怖いからとかではないぞ!」
「そんな事のために…。」
「後は、貴様は我の大事な配下を脅かす存在…。そんな事を我が許すとでも思っているのか!
優愛はどこにいる!?あいつに何かあれば…細切れでは許さんぞ…。」
アルマの語気に段々と怒りがまた見えてくる。それに伴って纏うオーラも深く赤くなり、とうとう地面から足が離れて空中に浮かびだした。
「あれ?アルマちゃんってオーラ出せたっけ?」
「くくく…。我の怒りで力が戻ろうとしておるのだ!」
「いやぁ、違うんじゃない?」
瑠偉がアルマのスーツのポケットから溢れ出る光を指差す。
それは宝玉が、アルマの善の心に呼応して放っている光だった。
「な…なんだこれは!」
驚くアルマの胸へと小さな光の塊達が入っていくと、ラヴィの時と同じ様に今まで手に入れた善の力の想いが頭の中を駆け巡る。
(これは!?今まで我が手に入れた善の力の記憶のようなものか!?……おい…待て…。
『トイレ掃除ありがとう』とか、
『ヘルプでいっぱいお酒飲んでくれてありがとう』とかばかりだぞ!!
『家賃払ってくれてありがとう』に関しては白石しかおらんだろ!!)
小さな光に紛れて大きな光が2つ放たれた。それも同じ様にアルマの胸へと吸い込まれる。
(ほう…ユウナの気持ちか…本当にあいつは我のおかげで変われたのだな…。こういうのを待っていたのだ!
そして…これは優愛か!?えっ!?ウソウソウソ!?あいつ我の事を!?いつからなのだ!?いつから我の事を愛して!?)
はぁはぁ言いながら目まぐるしく変化するアルマの顔を少し気持ち悪く感じていた瑠偉が、何か良からぬ事が起きようとしているのを察知して、先手を打つためにアルマへ鋭い飛び蹴りを放つ。
だが、瑠偉の飛び蹴りをいとも容易くアルマは掴み、そのまま放り投げる。
「ふ〜ん。それが善の力によるものなのか…。魔王という者がそんな力に頼るとか格好悪いね。」
「そうだな。こればっかりはお前の言う通りだ。だがな、ホストという人間の職を通じて学んだ事もある。」
「そんなものある?」
「『魔王』として善き事をするのも悪くないって事だ。いずれ我の配下にするためと思えばな!
特に!『愛』は良いな…。我…今凄いドキドキしてる…。」
「ホストクラブに本当の愛なんてあるわけないじゃん!アルマちゃん笑わせないでよ!」
「それは貴様が気付いてないだけだ。こういった事を気付かせるためにあのクソバ…女神はこちらへ我を送ったのだろう。癪だが…魔王としてまだ成長できることに気付かされたわ。」
「人間なんてどうでもいいでしょ!害虫となんら変わらないじゃないか!」
「阿呆が。人がおらねば魔王が存在する意味もないだろうが。」
「くっ…。」
「さて…ではそろそろいくか…。優愛も心配だが、どっちみち貴様を倒さねばいかんみたいだしな。」
アルマが宝玉によって取り戻した力を全身に漲らせると、誰よりも赤いオーラを纏っていく。
そして、魔王の風格を漂わせながらゆっくりと瑠偉へと歩き出す。
「瑠偉よ、この世界でお前の店で働けた事を感謝するぞ。そのおかげで大事な事に気付かされたからな。だから貴様への褒美でこれから我はこう名乗ろうと思う。」
「最強の『ホスト魔王』とな!!!!」
「いやいや。アルマちゃん…それはさすがにダサいって…。」
「ダサくなどないわ!ぶっ殺してやるぅ!!」
思いつきで言ってはみたものの、自分でもダサいと思っていたアルマは顔を真っ赤にして瑠偉との決戦に挑む。
それを迎え討つ瑠偉は、赤でも青でもない黒いオーラをアメーバのように全身から気持ち悪く放つと、また不気味に笑うのだった。
――そして、アルマと瑠偉がぶつかり合った頃、ラヴィはとうとうミユミユのいる場所へと辿り着いた。




