第45話 女神と親友から託された想い
晩餐会の会場にセリーナとシルヴィアを連れたノンノが帰ってきた。
「エンジュさ〜ん!ノンノ帰りましたー!任務もしっかり成功させましたよー!」
「ノンノちゃんは凄いね〜!よしよ〜し♪」
帰るや否や飛びつくノンノをエンジュが受け止めて頭を撫でている。
その様子をちょっと引いた顔で見ていたセリーナにシルバが話しかけた。
「おー!女神様ってこんなにちっちゃいのか!あんたをずっと待ってたんだよ!」
「ずっと?どういう事じゃ?わしに気付いておったのなら接触してくれば良かったじゃろ。
あとお前。タメ口をやめるんじゃ。」
「まぁまぁ良いじゃねーか!細かい事は!
でも…女神様に接触できなかったのには理由があるんだよ。この事件が起きてからじゃないといけねー理由が…。」
「ヤオが関係しておるのか?」
「そうだ…。あの方は本当に優しかった…でもある時から段々と悪に染まり始めてな。今回はとうとう自分が悪神になる事を選んだ…。」
「信じられん…。この安定した世界を創りあげたヤオがそんな事になど…。」
「安定か…。そんな事ないんじゃないかな。深い事はバカなあーしには分かんねぇから、その辺は直接ヤオ様に聞いてくれ。」
「そう…じゃな…。」
セリーナはとても悲しそうな顔で俯く。親友の変貌が真実であるのが確定してしまったのが心を重くする。
「で!女神様と接触するのがこのタイミングしかなかった理由は、ヤオ様が完全な悪の神になってもらわないと困るからだ。あーしらが女神様に接触してバレちまったら全て台無しになるからな…。」
「言いたい事はなんとなく分かる。ヤオが悪神になってしまわんとお主らも倒せんという事じゃろう。だから事件を事前に止めれたにも関わらず止めんかった…。」
「そうだな…。それもあるが…創造した神が消えればその世界は同時に消える。そうなんだろ?」
「その通りじゃ。お主、何故そこまで詳しい?」
「あーしの世界はそうやって消滅したからな…。」
「そういう事か…。ではお主らがわしを待っていた理由は…。」
「ヤオ様に代わってこの世界を司る神になって欲しい。そのために女神様がやって来るのをずっと待っていたんだ。
あんたが居ればヤオ様が倒れた後もこの世界は維持されるんじゃないか?」
「そこまでの答えに辿り着いたという事は相当な時間を使って練っておるな。お主らだけでは不可能じゃ!この宇宙全ての真理に近付くなどな!
まだ裏に誰かおるのであろう!?」
「あぁ…あーしらにこうするよう命じたのもヤオ様だ。」
「なんじゃと!?矛盾しておるではないか!」
「直接聞いたのはあーしらじゃねぇ。まだ悪に染まりきる前のヤオ様にネネが頼まれたんだ。
『もし自分が悪神に堕ちた時は迷わず殺してほしい。』ってな…。
あの人は悪に染まり続ける自分を止められなかったんだろう…。そのためにあんたを呼んだり、ネネの周りに正義感の強い異世界人を集めたんだ。
そんなこんなでさ。
あーしらもネネに言われて悪に染まったヤオ様に見つからないよう、死んだふりをしてずっと潜ってたんだ。この時のために!」
横たわるネネを見ながらシルバは悔しそうな表情を浮かべる。
それを見たシルヴィアが慌ててネネに駆け寄った。
「ネネ!ネネは死んでいるのか!?」
「シルヴィア…ママは…もう…。」
「嘘だ…。間に合わなかったのか…。」
膝から崩れ落ちるシルヴィアをアヤネが支えているとノンノが話しかける。
「一応ね、ノンノの力で傷も治したし腐敗も防いでいるの。エンジュさん達に新しい神様がなんとかしてくれるんじゃないかって言われてね。
ごめんね…私は戦いに参加しない事が精一杯だった…。ミユミユにバレたら全部台無しになっちゃうから…。」
ノンノのその言葉を聞いて、アヤネ達はセリーナの方を不安気な目で見る。
「すまぬな…。今のわしではどうする事もできんし、もしヤオの代わりにわしがこの世界を引き継いだとしても…お主らの望む事をやってやれるか分からん…。
こんな神の代替わりなど今まで聞いた事もない。」
セリーナは申し訳なさそうに答えるが、アヤネ達に変な希望を持たせるよりかは良かったのだろう。
だが、アヤネはそっとシルヴィアから離れて堂々と立ち上がる。
「うちはやれる事を全部やりたい!その結果がダメだったとしてもこんな所でじっとなんてしてられない!だからセリーナ様もできるだけ力を貸してほしい!」
そう宣言するアヤネからネネと同じ青白いオーラが見えると、セリーナは優しく微笑む。
「英雄のオーラを引き継いだのか。そうじゃのー。諸々話し合いは必要じゃが。やれる事はやるかのー!」
「ありがたいぜ!女神様!まずはどうする!?」
「ふむ。どれだけ作戦を練ろうが悪神となったヤオを倒さねばならん。本来ならわしぐらいしかあやつを倒せる者などおらんが…。
わしは力を解放することができん。」
「本来なら?」
「善の力によって勇者の力を取り戻しつつあるラヴィなら…もしかすると…。」
その時、会場の扉が勢いよく開いてそこからレナが姿を現した。
「ニャニャ!レナがちょっと寝てる間になんか凄い事になってない!?」
「レナ…あなたは本当に…。こちらへ来なさい。全部説明するから。」
シルヴィアがレナを呼んで分かりやすく噛み砕いて説明する。こういった所がどり〜むは〜とでお姉さんのように慕われる理由だろう。
「ンニャ〜。たぶんなんとか理解できた!簡単に言えばラヴィをフォローして!悪い神様やっつけて!そしたらセリーナちゃんがネネをなんとかしてくれるかもって話だよね!」
「いや…まぁそうなんだけど…お前は本当にバカだな…。うちらがどんだけ悩んだと思ってんだよ…。」
「アヤネにバカって言われたくない!」
そんなレナとアヤネのやり取りを見ていたシルバとエンジュが声を上げて笑う。
「ガハハハ!ネネは本当に良い子達に恵まれたんだな!」
「本当ね〜。羨ましいわ〜♪善の神の頃のヤオ様が最後に残してくれた希望ね!」
そして、セリーナが『パンッ!』と手を鳴らすと全員が注目する。
「よし!全て合点がいった!
ヤオがわしに異世界人が多く存在する事を隠していた理由、悪神の居所が掴めんと言っておった理由、この事態に全く姿を見せん理由。
あやつ自体が悪神だというなら全て辻褄が合う。
そこでじゃ!お主らに頼みたい事がある!ちゃんと聞いておくのだぞ!」
セリーナのその一言に全員が『はい!』と答えるが、セリーナの中でミユミユやヤオよりも気がかりな事があり、その事が嫌な予感を加速させる。
(後は…あの瑠偉という男じゃが…。境界からこちら側に入って色んな気配を探った結果、奴と相対しておるのはアルマのようじゃな…。もしかしたら1番荷が重いかもしれんが…頼んだぞ…!)
こうして、ミユミユやヤオの企みに対して一致団結したどり〜むは〜とのメンバーだったが、セリーナの思う通り、1番不穏な空気が漂っていたのはアルマと瑠偉の所だった。
――時は少し戻り、セリーナとシルヴィアが合流した頃、オタックロードより西に位置する高層ビルの上でアルマと瑠偉が対峙している。
「ちょろちょろと逃げ回りおって!我に臆したか!」
「アハハ!やだなぁ!アルマちゃんと2人っきりになるためじゃないか!どうしてもあのラヴィちゃんと引き離したかったからね!」
「何を考えておるか知らんがな、今ここでお前を消し去ってくれるわ!」
アルマができる限りの力を放つが、それに対して瑠偉は全くと言っていいほど動揺がない。
本調子になれないアルマなど眼中にない様子だ。そこで瑠偉は白スーツの内ポケットから一輪の花を取り出した。
「ガーベラの花…僕も好きだなぁ。」
「貴様…!まさか!優愛に何かしたのか!?」
「まだしてないけど…、話を聞いてくれないとしちゃうかなぁ♪」
「貴様だけは…!」
「そんな怒らないでよー。僕達の仲じゃないか。」
「ホストとしても貴様と仲良くなった覚えはない!」
「ホストとしてじゃなくてさぁ…。」
瑠偉が常人なら狂ってしまうほどの悪意を撒き散らせながら不気味に笑う。
「だって僕達は同じ魔王じゃないか…。」
突然の瑠偉の一言で、アルマは寒気を感じ、この場の空気が凍りついていくのが分かった。




