第44話 女神と堕ちた友
別世界で腐敗の魔女が住む森があった。そこは人から忌み嫌われる場所として隔離され、『そこに住む魔女は全てを腐らせ葬り去る』、そんな噂からか人が近付くことなど滅多になかった。
しかし、そこに住む魔女はずっと外の世界に憧れていた。理由も分からず『腐敗』の力を持って産まれ、その力が原因で人から嫌われても魔女は人との交流を望んでいた。
ある日、森の外へと繋がる道を歩いていると、1人の少女が魔物に襲われていた。
魔女は何も迷うこと無くその少女を助けるために力を使い、魔物を撃退する。
少女の『ありがとう』の言葉が魔女の心に潤いを与える。そのまま魔女は少女を空飛ぶ箒に乗せて近隣の村へと送る事にした。
そして、魔女は少女を送り届けるために荒れ果てた村の入口に降り立つが、村人達は彼女の姿を見るや、武器を持ち出して石を投げ始める。
『その子を離せ!』『魔女め!殺してやる!』そんな村人達の罵倒が魔女を苦しめる。
耐えられなくなった魔女は、腐敗の力を使うために地面に手をかざす。その赤いオーラを見た村人は自分達が腐らされるのを恐れるが、目の前に広がった光景は違うかった。
色とりどりの花が、荒れて枯れた大地に咲き誇る。その素晴らしい光景に村人は一瞬心を奪われるが、すぐに魔女の使った力に恐怖し、『これは幻だ』『騙そうとしている』などを口々に叫びだしてまた魔女へ攻撃を始める。
悲しくなり、涙を流しながら箒に乗って逃げようとする魔女は、村人に復讐して皆殺しにしたい感情に襲われる。
その悪の感情に支配される寸前で、助けた少女は魔女に『凄いね!』と言って笑顔を送る。
その純粋な少女を見た魔女は、なんとか正気に戻って闇に堕ちる寸前で思い留まった。
寝床に帰った魔女は、満天の星空を眺めながら、この望まぬ人生を変える天使がやって来ないかと思いを馳せる。
そこへやって来た神を名乗る者に、『腐敗の力』を貸せば願いを叶えてもらう約束をし、一本橋へと魔女はやって来たのだった。
――「やめろーー!!!!」
シルヴィアの叫びを無視してノンノは御神木の根元に両手をかざす。
そして、ノンノは赤いオーラを纏うと『腐敗』の力を使う。
「いくよー!腐敗の力で御神木の復活を促進させるよ!」
「えっ!?」
シルヴィアが考えていた事とは真逆の事を言い出したノンノは、腐敗の力を全開にして御神木の復活を助けようとしている。
ノンノの力を借りて巨大な御神木はもっと大きく育っていくと、青々とした葉をつけて全盛期の姿を取り戻していく。
そして、御神木が力を取り戻した事を確認すると、ノンノは『ふ〜っ!』と言いながら額の汗を拭うのだった。
一仕事を終えたノンノにシルヴィアは、目の前で起きた事が信じられずに警戒しながらノンノに近付く。
「一体お前は…。」
「ごめんねー!説明してもどうせ信じてもらえないだろうから無理矢理やらせてもらっちゃった♪」
「味方なの!?でもお前は四天王でしょ!?どういうつもりで…!」
「待って待って!その前にやる事あるんでしょ?事情はその後で♪」
「わ…分かった…。怪しい動きをすればすぐに拘束するから…。」
「はいはい♪」
ノンノの行動は謎のままだが、今は御神木を使ってセリーナをこちら側に入れる事が最優先だった。
シルヴィアは御神木に手を当てると、世界樹魔法で木に宿った神の力を増幅させる。
すると、時空分離の境界線の向こう側からも同じく神の力を感じた。その力は次第に大きくなり、境界線にヒビが入る。
『パリーン!』というガラスが割れたような音がすると、ヒビのできた部分が割れてそこからセリーナがこちら側に入ってきた。
しかし、セリーナが入った瞬間には時空分離の境界線は修復し閉じてしまう。
「でかしたぞ!シルヴィア!念のためお主に頼んでおいて正解じゃった!
…ん?その横の者は誰じゃ?」
「腐敗の魔女ノンノでーす!お初です!女神様!」
「異世界人か!?何故わしの存在を知っておる!?」
「この者が力を使って儀式の手助けをしてくれたのです…。私も事情はまだ聞いておらず分かりませんが、この者が居なければこんなに早くセリーナ様をこちらに迎え入れる事はできませんでした…。」
「そう…なのか…。で、お主は一体何故こちらに手を貸したのじゃ?」
「それじゃあ時間も無いしササッと説明しちゃいますね!」
そう言うとノンノは今までの経緯を全て話し出した。
「まず、今回の事件が起きる事は全部分かってた事なんです。ヨルカ、キョウ、ハル、そして私がここに連れて来られた時点で時はもう近いと危惧した人達がいました。」
「それは誰なのじゃ?」
「ネネさんと15年前の元四天王の2人であるシルバさんとエンジュさんです。」
「ふむ、その3人が警戒しておった理由は?」
「15年前の事件の黒幕と、今回私達を異世界から連れてきた人物が同一人物の可能性があったからです。」
「まさかとは…思うが…。もしかして…。」
「はい。この世界の神―ヤオ様が私達をこちらに連れてきて、ミユミユを先頭に今回の事件を起こしました。」
「なんじゃと!?ヤオが!?適当な事を言っておると女神パンチじゃぞ!」
「今回に関しては証拠があるとかではないんですけどね!でも15年前の事件はヤオ様が扇動していたとミユミユは言っていましたから…。
そしてシルバさん達が言うには、今回ミユミユが出会った悪の神というのは姿を変えたヤオ様なのではないかと予想したんです…。ミユミユはまだその事を知らずに動いていますが、今回もまた都合良く使われていると思われます…。」
「『今回もまた』とはなんじゃ?」
「ミユミユはヤオ様に騙されて15年前の事件を起こしたと聞きました。
その事でミユミユはヤオ様にとてつもない恨みを持っていて、ヤオ様の世界を無茶苦茶にするために今回こんな事を…って感じみたいです!」
「お主もそのためにこちらに連れてこられたんじゃろ?何故裏切った?そこが分からねばお主の言う事を全て信用するのは無理じゃ。」
「えっとですね〜…。しょうもない理由なんですが良いですか…?」
「言ってみよ!」
ノンノは頬を赤らめながら恥ずかしそうにその理由を語り始める。
「エンジュさんが!推しなんです!ほんとすんごい可愛いんです!
私は前の世界に居た頃から天使に助けてもらう事が願いだったんです!
だから今回の裏切りの話をされた時に速攻オッケーしました!ミユミユがとかヤオ様がとかどうでもいいっす!って感じです!」
「なんじゃ…それは…。シルヴィアよ…これは信用に足る理由なのか…?」
「推しの力は偉大なので…本当なら信用できるかと…。」
「だよねー!というわけで!ノンノの任務は完了なので!女神様達はシルバさん達の待ってる所に連れていきます!詳しい話はまたそこでしてもらいましょう♪」
「ぬぬぬ…よく分からん!」
「まぁ簡単に言ってしまえば『私は心まで腐ってない!』って事ですね!
さぁ!レッツゴー!!」
箒に乗ってフワフワと先導するノンノに対して、半信半疑のままついて行くセリーナとシルヴィア。
だが、セリーナの頭の中はヤオの事でいっぱいであり、色んな予測はするが全く整理できないでいる。
(あの優しいヤオが黒幕だとは到底信じられん。しかし…あやつが企んだ事だというなら…今まで疑問だった事は全て解決する…。
何かの間違いであってくれ…。)
自身が神なため、神頼みすらできないセリーナの願いを聞き入れるのは一体誰なのだろうか…。
全ての真実を聞くために、セリーナはただ前に進むしかなかった。




