第43話 真実と2人のレジェンド
「誰だ?」
暗がりの会場の中で姿はよく見えないが、壇上の2人が大物の空気を纏っていることはよく分かる。
「まぁまぁそう構えるなって!あーしらは敵じゃねーよ!」
「そうよ〜。落ち着いてね〜。」
そう言いながら2人が少し前に出てくると、その姿が明らかになった。
一人称を『あーし』という女性は、黒髪に太めの白のメッシュが数本入ったショートボブをしており、犬のような耳と尻尾を生やした獣人だった。タンクトップに黒ジャージというラフな格好で男らしい立ち姿をしている。
もう1人のおっとりとした話し方の女性は、メイド服に似た白色のドレスを着ており、白いシュシュで緑色の髪を束ね、背中からは閉じた状態の白い羽根が生えている。獣人かどうかは分からないが、この羽根が先ほどのシルエットで天使に見えた要因だろう。
姿を見てもアヤネは2人が誰かは分からなかったが、異世界人ということだけはハッキリと分かった。
「あーしは狼の獣人の『シルバ』っていうんだ!昔にケモノっ子コンセプトのコンカフェのオーナーをやってたんだ!よろしくな!」
「あたしは〜元天使コンセプトのコンカフェをやっていた〜『エンジュ』って言うの〜。よろちくび〜♪」
「よ…よろちくび…。」
「ガハハ!ごめんな!こいつはギャップ萌えを勘違いして下ネタに走っちまった可哀想な奴なんだよ!」
「って…えっ!?ちょっと待って!シルバとエンジュって!?ママと同世代の元四天王の!?」
「あら〜!知ってくれてるの〜?嬉しいわね〜!嬉しさビンビンね〜!」
「あ…はい…ビンビン…ですね…。
いや!そんなのはどうでもいいんです!あなた達2人は15年前に死んだって…。」
「そうそう!死んだ事になってるんだけどな!当時は諸々の事情でそうしないといけなかったんだよ。で…時期がやっと来たから出てきたってわけだ!」
「ず〜っとコソコソしながら生きるの大変だったわ〜。コソコソって言っても男の子が夜中に1人でこっそりする…」
「あー!!その話はいいですいいです!色々と聞きたい事はあるんですけど、ここにうちのママがいるはずなんですが…。」
アヤネのその一言に、明るかったシルバ達は一転して暗い表情になる。
「壇上に上がってきな。ここにネネはいる。」
シルバが道を譲るように体を横にする。その態度にアヤネは無言で答えて壇上へと向かった。
足取りは重く、心臓の鼓動がやけにうるさい。
そして、アヤネが壇上に上がると、目の前には綺麗に寝かされているネネの姿があった。
「嘘…でしょ…。嘘だよね!?ママ…死んでないよね!?」
不安が的中して、号泣しながら横たわるネネにすがりつくアヤネの肩にシルバが優しく手を置いた。
「残念だが…。」
「嘘だ!嘘だ!ママが死ぬなんて有り得ない!だって!こんなに顔色も良いのに!傷だってないのに!」
「元はボロボロだったんだ。見ただけで戦闘の激しさが分かる程にな。」
「元?元ってどういう意味なんですか…?」
「あたし達のね〜、仲間がネネの事を綺麗にしてくれたのよ〜。死体が傷まないように〜。」
「どういう…事…ですか?うちには何を言っているのか…。」
「しゃーねーな!ちょっと時間あるか?分かりやすくかどうかは分からねーが、ちゃんと説明してやる。お前はネネの娘のアヤネだろ?たまにネネと会った時によく自慢気に話をされたよ。」
「ママがうちの事を…。お願いします。全部教えて下さい!」
「よっしゃ!まずは15年前の戦いから話していかなきゃならねぇからな!ちょっと長くなるぞ!」
そして、アヤネはシルバから真実の歴史の話を聞く。15年前の戦いから始まり、今現在なぜシルバ達がこの場所にいるのか、それらの話はにわかには信じられないような事だらけであった。
「そんな…。話が大き過ぎて…よく分からないです…。」
「だろうな!だけどな、もうすぐ今の話が全て繋がる出来事が起きる。必ずな。」
「そうですか…。
でもママの身体を綺麗にしたっていうのが理解できなくて…。」
「それはね〜、ほんの少しの可能性に賭けたの〜。こればっかりはあたし達もどうなるか分からないんだけどね〜。」
「ネネには1番苦労をかけたからな…。本当に良くやってくれたよ…。あーしらも力にはなるが、最も大事なのは今の世代のお前達の力だ!
だから今の話を信じてついてきてくれないか?」
「分かりました。ママの仇も取りたいし…一緒に戦います!」
アヤネはそう返事をすると、力が入ってしまったのか、青白いオーラが少し出てしまう。
「おっ!ネネにそっくりなオーラだな!さすが娘だな!」
「懐かしいわね〜!英雄のオーラね〜!」
「えっ!?そ…そうですか?」
2人にそう言われるとアヤネは少し照れくさそうにするが、本当は心の底から嬉しかった。
「じゃあ後はあーしらの仲間が帰ってきたら動くぞ!それまでゆっくり体を休めてな!」
「分かりました!」
ネネの死はアヤネの心に深く傷をつけたが、シルバ達の話を聞いたらほんの少しだけ希望が見えてきた。
その希望を胸に、アヤネは一度悲しむのを止めてもう一度立ち上がる決意をする。
――場所は変わって、ここはシルヴィアが向かった御神木のある神社。
そこでシルヴィアが早急に御神木の力を復活させるために全身全霊で儀式を行いパワーを送っている。
(急がなきゃ!事前の話通りなら、このおかしな空間の外でセリーナ様は必ず待っているはず!そのためには御神木を復活させないと…!)
世界樹魔法をフルに使って、御神木の根元に両手をかざしながら必死でパワーを送るシルヴィアの背後に人の気配が近付いてくる。
その尋常じゃない気配にシルヴィアは一旦儀式を中断して振り返る。
「誰!?」
シルヴィアの問いかけに反応は無かったが、用心のため、世界樹の枝でできた弓を召喚して警戒態勢をとる。
すると、気配は空からゆっくりと近付いてくる事に気付いてシルヴィアは空を見上げた。
そこには魔女の格好をした女が箒に乗って降下してくる所だった。
「お前は!四天王の…!」
「はいはーい!四天王の一角の『腐敗の魔女』ことノンノちゃんでーす!!」
「それ以上近付いてくるな!」
そう言ってシルヴィアが弓から矢を放つが、ノンノに当たる前にグジュグジュと矢が腐り落ちる。
「えっ!?世界樹の矢が…!」
「ちゃーんとオーラを込めて打たないとノンノちゃんには効かないぞ!テヘ♪」
「じゃあお望み通りにするね!世界樹の矢に貫けないものはないんだから!」
シルヴィアが青いオーラを矢に纏わせて発射しようとした時、ノンノが箒から降りて地面に手を触れる。
すると、そこから腐敗の力が伝染してシルヴィアの足元が沼地のようになり始めた。
足を取られたシルヴィアは矢を発射するどころか、沼地に飲み込まれないように木の上に逃げるのがやっとだった。
「くっ!厄介な力を使うんだね!」
「エヘヘー♪ごめんね!ちょっと邪魔だからそこにいてね!私は頼まれたお仕事があるので!」
「まさか…!御神木の存在に気付いたから腐らせるつもりか!?」
シルヴィアはノンノの歩みを止めるために、木の上からオーラを纏った矢を連発で放っていく。
しかし、ノンノは腐らせた地面を操ってオーラを含んだ壁を作り、その強力な矢を防ぐ。
そしてとうとうノンノは御神木に辿り着き、その根元に両手で触れる。
「はい!これで任務完了♪」
「やめろーーー!!!!」
余裕の笑みを浮かべるノンノにシルヴィアの叫びは届かない…。




