第42話 拳士、高みへと…。
「お前を認めるアル。戦いを素直に楽しませてもらうアル。」
「さっさと来いよ。なんだか今…凄い所までいけそうな気がするんだ…。」
ヨルカは目を細めて笑うと天誅の力で気配を完全に消す。
対してアヤネは自然体のまま、巨大なオーラを内側に押し込めた。
(ん?オーラを消したわけじゃなさそうアル。あれだけのオーラを一体どこに…。)
アヤネの行動にヨルカは警戒をしつつ、ゆっくりと近付いて背後から赤いオーラを纏わせた正拳を突き出す。
そして、ヨルカの正拳は狙い通りアヤネの腰骨を砕こうとしたが、予想通りにヨルカの拳が触れた瞬間、アヤネが反撃を仕掛けてくる。
しかし、1つ予想と違ったのはアヤネの反撃のスピードが桁違いに上がっていた事である。
反応自体は先程と大差ないのだが、体の動きに明らかに違いが見える。
ヨルカは予想を超えるアヤネの動きを避ける事は叶わないと見て、始めてアヤネの反撃の後ろ回し蹴りをガードする羽目になった。
片手でガードは無理だと判断し、十字に組んだ両手で防ぐが、ビリビリと痺れが残る手がアヤネの重い蹴りの威力を物語っている。
「なるほどアル。オーラをどこにやったか気になってたけど…体内の筋肉や神経経路にオーラをまとめたアルか…。じゃないとその爆発的なスピードは実現できないアル。」
「あぁ、そうだよ!ってか腰が痛ぇなぁもう!触れただけでなんでこんなダメージくるんだよ!」
「そんなオーラの使い方をすぐに実行できる才能は驚嘆に値するアル。でもそんな燃費の悪い動きなんて短時間しか無理アルよね?」
「全部バレてんのかよ。いちいちムカつくな!やってみて分かったけど必要な集中力が段違いだ。だがな!もう次は必ずてめぇを捕らえる!」
「それならこっちも短期決戦に切り替えるアル。お前のオーラを削るのに最適な戦い方は…。」
すると、ヨルカは天誅の力を使わずにアヤネを攻め始める。
「普通に攻める事アル!一撃一撃を集中させなければその技は使えないアル!」
物凄いスピードで繰り出されるヨルカの連撃に、アヤネは防戦一方になってしまう。
当然ヨルカの言う通りオーラを内包した戦いをアヤネはできないでいる。
「くそっ!まだこんな実力を隠していたのかよ!?」
「私が天誅の力を使えなければ弱いと思ったアルか!?地獄のような修行で身につけた暗殺拳法は力を使わずとも最強アル!!」
その言葉通りヨルカは赤いオーラを全身に纏い、アヤネが息をつく暇もない程の猛攻をみせる。
内気功で傷を治す余裕も無く、アヤネはなんとか致命傷を避けて防ぐのが精一杯の状況である。
(くそっ…!このままじゃどんどん削られてやられてしまう…!ママの所に行かなきゃダメなのに…!)
アヤネはがむしゃらにヨルカに向かって回し蹴りを放つが、そんな当てずっぽうな攻撃が当たるはずもなく、逆に腹に手痛い正拳突きを食らってしまう。
「ガハッ…!」
「さて、もう終わりアルね。最後はなんだか味気なかったけど、それも仕方ないアルね。」
ヨルカは立っているのがやっとのアヤネに静かに近付いていく。全力で赤いオーラを手刀に集めてトドメの一撃を打つ構えを取った。
「結局お前はネネのようにはなれなかったアルな。ママと呼んでいるのが不思議なぐらいアル。」
(違う…!ママはうちの事を本当の娘のように育ててくれた…!うちはママみたいになりたくて今まで生きてきたんだ…!ママの期待に応えるために!
諦めない!諦めるな!うちはこんなとこで終われない!もう一度ママに会うために!)
ネネへの感情を爆発させ、アヤネは自分の命を燃やすかのようにオーラを全開にする。
「バカな!お前は無限にオーラを生む事ができるアルか!?」
「はぁ…はぁ…。
これはうちの居た国に伝わる『終の型』って技だ…。絶対に負けられないと心の底から思った時のみ使える…。命削って得る力だからな…これが本当に最後の力だ…。」
「まぁ良いアル!オーラが戻った所でさっきと同じアル!」
ヨルカが手刀の構えのまま、また猛スピードでアヤネの周りを駆け回る。
そして、隙を見つけるとアヤネの胸目掛けて緋色の槍と化した手刀を放つ。
さっきまでならこの一撃で終わっていただろうが、今回はアヤネがその手刀を軽くいなして逆に掌底をヨルカの胸に打ち込む。
手刀にオーラを集中していた分、ヨルカのダメージはかなり大きい。
「ぐはっ!!何だと!?私の動きを見切ったアルか!?」
「次はこっちからも行くぞ!」
そこからはアヤネの『終の型』から放たれる様々な技がヨルカに襲いかかる。
しかし、体術に関してはヨルカが一枚上手で、アヤネの全力の反撃でも思ったように決定打が与えられない。
(そのまま必死で攻撃してくるがいいアル!お前が踏み込み過ぎた時―天誅の力で一瞬で勝負を決めてやるアル!)
そして、ヨルカはわざと隙を見せてアヤネの大技を誘う。
必死なアヤネはその誘いに騙されてしまい、大きく踏み込んで背中と肩で体当たりのように気をぶつける『靠撃』を打つ。
八極拳の『鉄山靠』に似たその攻撃は、当たればヨルカとてタダでは済まないのだが、放ったその場所にはすでにヨルカの姿は無かった。
完璧なタイミングで天誅の力を使って姿を隠したヨルカは、完全にアヤネの虚を突き、背後からこの戦いの終わりを告げる手刀を放つ。
(さぁ!終わりアル!)
勝利の喜びで思わず笑顔になったヨルカだったが、その顔が一瞬で驚きの顔に変わる。
なぜなら、アヤネが『靠撃』を放った勢いのままヨルカの方へと体の向きを変えて、まるでヨルカが見えているかのように掌底を放つ構えを取ってきたのだ。
「お前!私が見えているアルか!?」
「あぁ、どうやらうちも高みにいけたみたいだな。」
ヨルカがアヤネのオーラを見ると青白い色に変化していた。
「ネネと同じオーラ…まさかお前も『英雄』の力を手に入れたというアルか!?」
「まさかじゃねーんだよ!!うちはママの娘だ!!当たり前なんだよ!!」
そしてアヤネの渾身のオーラを込めた掌底がヨルカの胸部にそっと触れると、アヤネのオーラが相手の内部に入り込み、体の内から全てを破壊するように衝撃波を与える。
「終の型奥義『内壊掌』。」
「ゲホァッ…!!そんな……バカな……アル……。私が…負ける…。」
アヤネの奥義を食らったヨルカは、そのまま地面に倒れ込んで沈黙する。
「か…勝った…。ママと同じオーラで…!」
あまりの嬉しさに思わずガッツポーズするアヤネだったが、勝ったとはいえ自分も命を削るほどの満身創痍の状態である。
「ぶっ倒れそうだけど、急いでママの所に行かなきゃ!」
アヤネは建物の壁に手をつきながら急いで晩餐会の会場へと向かう。ネネが生きていると信じながら…。
――そして、アヤネの姿が見えなくなった頃、倒れるヨルカの体から天誅の力が黒い光となって悪の宝玉に向けて飛んでいくのだった。
――10分後、アヤネがやっとの思いでネネのいる会場に着く。
建物中から何の物音も聞こえない様子はアヤネの不安な気持ちを強くする。
そしてホールへと続く扉を勢いよく開け、中の惨状を目の当たりにして足が震えそうになる。
「ママ!!どこ!?いるの!?」
アヤネはそうやってネネを呼びながら広いホールに足を踏み入れる。
すると、壇上の上に女性の人影が2つ見え、その人影がアヤネの声に反応してこちらへ振り返ってきた。
新手の敵かもしれないと思ったアヤネはガタガタの体にムチを打って構えを取る。
しかし、その人影は意外な言葉をアヤネに投げかけてきた。
「おっ!その格好は…もしかしてあんたはネネの所の子か?」
「あら?ほんとね〜。良い所に来たわね〜。」
遠くからでも2人が天使のシルエットと獣のシルエットをしている事は確認できる。
果たしてその正体は敵か味方か…。




