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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第三章 悪神との戦い 始まり編
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第41話 武の拳士、目覚める

――『天代てんだいの住処』と呼ばれ、暗殺を生業とする者達が住む隠れ里が別世界にあった。

 その里は大小関わらず数々の暗殺依頼を受け、『天誅』と称して自分達の行いを正当化していたが、実際は金さえ積めばどんな事でもする非情な集団だった。


 ある年、里に史上最高傑作と評される女の子が産まれる。その女の子はたった7歳で里に伝わる技や術を全て習得し、そこから数多の困難な依頼を完遂すると、15歳になる頃には里長の側近としての地位を確固たるものにしていた。


 そして女の子が20歳になった時、暗殺の技は極限にまで研ぎ澄まされて、もはや彼女の暗殺術は誰も気配を意識できないようなレベルにまで到達する。

 彼女はその技を『天誅の力』と名付け、神からの天罰という―人が抗うことが叶わない力を手にした事を周りに誇示し始める。


 そんな彼女にある依頼が舞い込んでくる。それは里に恨みを抱く国からの依頼で、内容は里長の暗殺であった。

 自分を育ててくれた里長の暗殺、恩義があるだとか情があるだとか彼女には関係がなかった。むしろこの暗殺依頼が来る事をずっと待っていたのだ。

 里で最も強いと言われる里長に対して自分はどこまでやれるのだろうか。

 そんな実力を試すには最上の暗殺依頼に彼女は気分が高揚していたのだが、結果はあまりにも陳腐なものだった。


 『天誅の力』を使えば難なく里長の背後を取り、何の苦労もなくその首を掻っ切れてしまった。

 そして彼女は里に落胆した。こんなにも弱い者が里長として君臨していたかと思うと反吐が出るようだった。


 そこから彼女は里を出るが、期待していた自分を殺すための追手が来る事も無く―広い世界で実力を試すために多くの修羅場や死線に自ら飛び込むも『天誅の力』を使えば全て無傷で生還する事ができた。


 せっかく手に入れた力を持て余す事態に彼女は飽き飽きしていた。

 『天誅の力』を使って本格的に世界を統べてみようかと考えていた矢先、『神』を自称する男が彼女の前に現れ勝負を挑んできた。

 その男に何の期待もしていなかった彼女だったが、いざ戦いが始まってみると『天誅の力』がその男には全く通用しなかったのだ。


 今まで習得してきた技を全てぶつけるも男にかすり傷1つ付ける事ができず、一昼夜続いたその戦いは彼女が男に跪く形で終わりを迎える。


 その後、『神』を名乗る男から依頼を申し込まれる。それは異世界での依頼であり、内容を聞いた彼女は、新たな強敵を見つける好機と見てその依頼を了承する。

 そして、男と共に次元を越えて彼女は一本橋にやって来たのだった。



――赤いオーラを纏ったヨルカの双掌が、隙だらけに立つアヤネの脇腹に触れようとしていた。


(これで終わりアル。期待もしていなかったが、こいつも私の敵ではなかったアルな。)


 ヨルカの気配も何も察知できていないのか、アヤネはまだピクリとも動かない。

 そして戦いの終わりを告げるであろうヨルカの攻撃がアヤネの体に触れた。


 ヨルカの中ではこれで決着だった。双掌が触れた瞬間にアヤネの右半身の骨も内臓もグシャグシャにし、そのまま吹き飛ばされたアヤネは建物の壁を突き抜け自分の視界から消えるだろうと思っていた。


 だが結果は違った。


 ヨルカの双掌が触れた瞬間を狙ってアヤネは反撃を仕掛けてきたのだ。

 意識できない不可避な攻撃であれば受けてから反撃すれば良いというアヤネの判断だったのだろうが、ヨルカの攻撃の威力を知った上で実行に移すというのは常軌を逸する行動だった。


 レナが使った超反応レベルの反射神経で放たれたアヤネの反撃の左拳は、ヨルカの身を引かせて双掌の踏み込みを浅くさせるには充分な一手だった。


 しかし、それでも双掌に触れてしまったのは間違いなく、浅いとはいえ右半身に充分なダメージを与えてきたため、アヤネの反撃はヨルカの頬を掠めるだけで終わってしまう。


「ぐはっ!ゲホッ!くそっ!もう少しで当たったのに!」


 吐血しながらも倒れずに両足で立って悔しがっているアヤネを見ていると、ヨルカは頬にできた傷を撫でながら気付く―驚愕よりも感嘆の気持ちが自分の中で大きくなっているという事に。


「お前、頭おかしいアルか?私の技をそんな戦法で返してきたバカはいなかったアル。」


「うっせーよ。てめぇの天誅かなんかって力に対抗するにはこれしか思いつかなかったんだよ!」


「私の攻撃を食らってはいるアル。ダメージはあるんだからいつまでも続けられる方法じゃないアル。」


「これぐらいなら内気功である程度まですぐ治せるんだよ。」


「カーッ!本当に面倒臭い奴アルね!!」


 ヨルカが言った『面倒臭い』は先程までとは違い、嬉々とした雰囲気が含まれている気がする。


「でも私も四天王筆頭を任されてるアル。お前になんか負けてられないアル。」


「こっちもアルアルアルアルって聞き飽きたんだよ!ノイローゼになる前に絶対攻撃を当ててやるからな!一撃さえ当てられれば!」


 手応えを感じていたアヤネはまた精神を集中し、体を脱力させて自然体で立ったまま目を瞑る。

 それを見たヨルカが『天誅の力』を使うために一本足で構えようとした時だった。突然ヨルカを目眩が襲い体がヨロけたのだ。


(なっ!?さっきのあいつの攻撃のダメージアルか!?頬を掠めただけのはずアル…!あの拳に纏っていた白いオーラの範囲が広かったせいアルか!?まさか白のくせにこんなに威力があるなんて…。)


 ヨルカが驚くのも当然である。


 異世界の人間が纏っているオーラは現在2種類確認されている。

 それには青系と赤系があるのだが、白というのはまだ青にも赤にもなれていない前段階のオーラの色である。

 言い換えれば、まだ未熟なオーラと捉えることができ、そんなものが掠っただけでここまでダメージを受けるなどヨルカは考えてもいなかったのだ。


 ついでに余談だが、どり〜むは〜とに在籍している異世界人の中でアヤネの攻撃力はNo.1である。

 オーラを纏ったアヤネの拳撃は、レナがキョウに放った隕石パンチを凌ぐ威力を持っている。


(オーラの量がバカげているとここまで威力が変わるアルか…。あれが白から変化する前に勝負を終わらせるアル…!)


 あれこれ思考を巡らせて中々『天誅の力』を使わないヨルカに、片目を開けてアヤネが尋ねる。


「あん?どうした?ビビってんのか?それならこっちから行くぞ!」


 そう言うとアヤネは自然体を止めて白いオーラを放つ。ヨルカの目にはそのオーラが心なしか量が増えているように映る。

 それに加えてアヤネのオーラの先が薄っすらと青みがかってきている事にも気付く。


(こいつ…今まで強敵と戦う機会がなかっただけアルか…。ここまで戦いの最中で成長する奴は初めてアル…。)


 ヨルカの予想は正解であった。


――なぜなら、ネネがセリーナに語った通り、アヤネはろくな修行も受けず、僅か10歳で戦場の前線に送られそのままこちらの世界にやって来た。

 その後も元々あった才能で身体能力は高かったが、オーラが成長するような修羅場など当然無く、レナが来てからの練習相手ぐらいでしか戦ってこなかったからだ。



 戦争に出る事なく、まともに修行していれば武の国の頂点に立っていたであろう天才が、神技を扱う暗殺の天才に反撃の狼煙をあげる。

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