第38話 千獣の王 VS 幻惑の狐
ラヴィは黒い光を飛ばした後もニヤニヤしているハルの胸ぐらを掴んだ。
「お前!今何をした!?」
「僕の狂気の力を悪の宝玉に飛ばした。神の復活のためにね!」
「神の復活だと!?」
「悪の神の復活!それがミユミユの目的さ!キャハハハハハ!!」
黒い光が飛んでいった方向をラヴィが見つめる。
「じゃああの光が向かった所にミユミユがいるんだな。ルル!ガイアス!ここは頼んだぞ!」
「分かった!ラヴィちゃんも気を付けてね!」
「キャハハ!行ったって無駄だって!ミユミユを見つけたとしてもお前なんかが勝てるわけないだろ!あいつは僕なんかよりずっと強いからね。」
「だからどうした!私は必ずお前達の企みを阻止する!」
ハルの言葉など意に介さずに、ラヴィは黒い光の飛んだ先を目指すために走り出そうとする。
そのラヴィの背中に向けてルルが気になっていた事を1つだけ聞いた。
「あの…ラヴィちゃん…今聞こうか迷ってたんだけど…。ネネさんは無事なの?」
ルルの質問に心臓の鼓動が早くなる。今はまだ本当の事を伝えるべきではないとラヴィは考えて、濁したような言い方で答えた。
「ルル…全部終わった後にみんなでネネを迎えに行こう。」
「そっか…分かった!」
そんな2人の会話を聞いていたハルが吹き出すように笑うとネネの真実を話そうとした。
「ブフー!!ネネを迎えに行くって!?だってあいつ………」
ハルがネネについて喋ろうとした所で、急に意識を失ったように縛られたまま地面に横になる。
ラヴィがルルの方を見ると、ルルがハルに向けて手をかざして何か魔法を使ったようだった。
「睡眠魔法だよ。ちょっとうるさかったから眠らせておくね!」
「ルル…。」
ルルは本当の事に気付いているのかもしれない。ミユミユや四天王が街に散らばっている事や、ラヴィがネネを連れずにここにやって来ている事を考えれば自ずと答えに辿り着いたのだろうか。
それでも気付かないふりをしてこの戦いに挑むルルの姿は、ラヴィの胸に痛みを走らせると同時に勇気を与えてくれた。
そしてルルから光が放たれて宝玉に吸い込まれる。
【善の力を手に入れました。 種類は激励。】
「頑張ってね!ラヴィちゃん!信じてるから!」
「あぁ!行ってくる!」
こうしてラヴィは宝玉から伝わるルルの複雑な気持ちを理解する。
しかし、そのもやもやとした気持ちを上回るルルからラヴィへの応援と信頼の想いが伝わり、その想いを力に変えてラヴィは悪の宝玉の所へと向かうのだった。
――そして時間は少し遡り、オタックロードでレナとキョウが睨み合っている。
「さて!そろそろいくよ!早く行かないとだからね!」
「いつでもどうぞ…。」
レナが四足歩行からのダッシュという特異な構えからキョウへ真っ直ぐ向かって突っ込んでいく。
そのレナの重心の低さが剣士からすると、標的が低過ぎるので剣での攻撃がやりにくいのである。
今まではそういった利点がこの構えにはあったのだが、キョウの持つ長刀はそんなレナの有利を薙ぎ払ってくるかのような圧を与えてくる。
(ニャニャ〜、あの長刀は厄介だな〜。正面からは間合いに入れる気がしないよ。)
あのラヴィに対しても一瞬で間合いに入るレナが一気に距離を詰める事ができなかった。
レナはキョウの間合いに入る寸前で、キョウの長刀を構える手とは逆方向へ直角に曲がる。曲がった後はその勢いの力を利用して踏み込み、刀とは逆側から一気にキョウの間合いの内側に入る作戦を取った。
しかし、レナが踏み込むと目の前にはすでに自分を斬ろうとするキョウの刃が迫ってきていた。
それをレナは類まれなる格闘センスによる超反応で避けた。迫る危機に対して脳を介さずに無意識に体が反応している。
むしろレナの超反応がなければ、今のキョウの一閃で勝負がついていただろう。
レナはギリギリでキョウの長刀を躱した後、すぐに一旦距離を置くために離れる。
「あっぶなー!一瞬でやられる所だったよ!レナの動きを読んでたの!?」
「おかしいでありんすね…。斬ったと思いんしたのに…。」
「ニャハハ!面白くなってきたね!でも…急がなきゃダメだから…本気でいくね…。」
キョウとの戦いが楽しくてニコニコ笑っていたレナから笑顔が消える。そして再度低く四足歩行の構えに移行するが、先程と違う部分が1つあった。
それはレナの足の太さである。レナの太ももや脹脛がメキメキと音を立てながら隆起して異様な程太くなっているのだ。
それに加えて、百獣の王ライオンの血が滾ったレナは、キョウにとてつもないプレッシャーを与えている。
キョウの目にはレナの背後に牙を剥き出しにしたライオンの恐ろしい姿が見えているようだった。
「凄い威圧でありんすね。しかし、どんなスピードで来ようがわちきの刀からは逃げられんせんよ。」
いつものように脱力して長刀を構えるキョウに対して、レナは少し口角を上げて笑う。
「よーい……ドンッ!!」
レナは掛け声とともに先程とは比べ物にならないスピードでキョウに突撃する。ラヴィとの試合でも、相手にケガを負わせるといけないと思って使わなかったレナの一撃必殺の攻撃である。
勝負は一瞬だった。レナの鋭い爪がキョウの胸に深く突き刺さり、真っ赤な牡丹の花びらが散るように血が舞う。キョウはレナの動きに指1つ動かす事ができずに地面に倒れてしまった。
「結構深くいっちゃったけど獣人なら死なないでしょ。ごめんね!」
相手が確実に倒れた事を確認したレナは、自分の手に付いたキョウの血を払う。だが、払ったはずの血が地面に落ちない。
不思議に思ったレナが自分の手を確認すると、レナの手には先程まで付いていた血が一切付いていなかったのだ。
「ニャ?どういう事?」
すると、レナの後ろから寒気のする声が聞こえた。
「はい…背中からズバッと終わりでありんす…。」
そして、倒したはずのキョウがいつの間にか自分の後ろにいる事を理解できないままレナは背中を長刀で斬られてしまう。
「な…!なんで!?」
レナはなんとか超反応で体を前に反らして致命傷は避けたが、かなりの深手を負ってしまい、地面に片膝をついた状態でキョウを見上げる事しかできなかった。
そんなレナを見下ろしながら妖しく笑うキョウは種明かしを始める。
「『幻惑』の力でありんす。主さんが攻撃したのはわちきの幻。職業柄…昔から人に幻を見せるのは得意でありんしたので…。」
「あんな本物同然の幻を作れるなんて…。感触も匂いも本物だった…。」
「そうでありんしょう。幻と言うよりは分身に近いものでありんすから…。」
これでキョウが晩餐会の会場でラヴィ達の後ろを簡単に取れた事も説明がつく。出口に自分の幻を置いてラヴィ達を騙し、そちらに気を取られている間に気配を消して近付いたのだ。
「幻を見せるには何か動きがあったはずだ。」
レナはキョウと対峙してからの事を必死で思い出してその技の始まりを探す。
「あっ!そうか…あの脱力した構え…あれがそうだったのか!長刀を振りやすい構えってだけだと思ってたけど、あの独特なダラリとした動きに幻を見せる仕掛けがあったんだな!」
「御名答でありんす。でも…分かってもどうしようもありんせんでしょうが…。目を閉じて戦ってわちきに勝てるわけありんせんから…。」
そして、キョウがユラユラと揺れる幻惑の赤いオーラを纏い始める。
(ニャー…これはちょっとピンチだな〜。レナの1番苦手なタイプだよ…。)
幻惑に打ち勝つ手立てが思い浮かばないまま、流血によってフラフラする体を無理矢理起こしてレナは立ち上がる。




