第37話 勇者と巨大な狂気の鉈
「ボコボコに殴られたって僕が『ごめんなさい』なんて言うわけないだろうが!!」
ボタボタと流れる鼻血を押さえながらハルが叫んでいる。
「やってみないと分からないだろ。ほら、どうした?まさか一発で動けなくなったんじゃないのか!?」
ラヴィがそうやっておちょくるように煽ると、ハルはダメージによって震えた足で無理矢理立ち上がり、激怒した顔でラヴィにまた攻撃を仕掛けようとする。
「僕をナメてんじゃない!!ぶっ殺してやる!!」
赤い狂気のオーラを纏い、ダメージが残っているとは思えない動きと速さでラヴィに向かっていくハルだったが、勇者の力を取り戻しつつあるラヴィに完全に見切られている。
ラヴィの首に狙いを定めて、狂気に染まる鉈を振り下ろそうとするが、また『グシャリ!!』と顔面に拳を叩き込まれる。
「ぐはぁ!!!」
ハルはラヴィの右ストレートを受けてゴロゴロと転がりながら吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がって大量の鼻血と口からも血を流しながらニヤニヤと笑っている。
「キャハ…ハ…♪な…何度殴ったって無駄だよ…。ぼ…僕が諦めて…お前に頭を下げる事なんて無い!!」
「結構本気で殴っているのに…なんという強靭な肉体と精神力だ。だがその心が折れるまで!私は殴り続けるぞ!」
「うるせーよ!!僕の真の力を見せてやるよ!!」
ハルが両手で2本の鉈を重ねるように持ち替えると、そこに赤い狂気のオーラがどんどんと流れ込んでいく。
そのオーラを鉈が吸収すると2本の鉈は1つになり、赤い血管のようなものが刃に浮き出るとドクドクと脈打ちだした。そのまま狂気を糧に大きくなっていく鉈は、とうとう高さ10メートルの建物を超えるほどの大きさになる。
巨大化した鉈の禍々しさもさることながら、その巨大で歪な鉈を振り上げているハルも全身に赤い血管が浮き出ていて、目から正気の光は消え、ただラヴィを殺すためだけに狂気を暴走させているようだった。
その様子を見ていたルルとガイアスは、ハルの発する膨大なエネルギーが生む突風に顔を伏せる事しかできなかった。
「これが…現四天王って言われる人の力…。こんなバカげた力を持っているだなんて…。」
「ラヴィ殿は大丈夫でござるか!?さすがにこの力を受けるのは危ないでござる!」
ルル達がハルと相対するラヴィの方を見ると、ラヴィは宝玉から聖剣を取り出して構えている。
「ラヴィちゃん!ダメだよ!1回退いた方が良い!こんな力を真正面から受けたらラヴィちゃんが!」
「ルルよ!大丈夫だ!私は受け切ってみせる!私が退けばどり〜むは〜とがあの鉈に斬られてしまう!それに…信念を受け継いだ私は全てを守るんだ!!」
ラヴィも全力で青いオーラを纏う。そのタイミングでハルの鉈も完成したらしく、ハルはラヴィ達に向かってその巨大な鉈を振り下ろしてきた。
「ギャハハハ!!狂気の鉈でブチ斬れろ!!」
「私は負けない!勇者と英雄の力で打ち砕く!」
迫る巨大な鉈に向かって、ラヴィは全力の力で聖剣をぶつける。狂気の力を存分に吸った鉈の力は凄まじく、勇者の力をもってしても、一瞬でも気を抜けばやられてしまう程だった。
青い聖剣の力と赤い狂気の力がぶつかって生まれたエネルギーが周りの物をどんどん吹き飛ばしていく。
このままでは、鉈を止めていてもこの衝撃波によってどり〜むは〜とも壊されかねない。
「どうだどうだどうだ!?僕をナメてるからこんな事になるんだよ!!ギャハハハ!!終わりだな!!」
「くそっ!私に力が完全に戻っていれば…!このままでは…押し切られる…!」
上から振り下ろされた巨大な力を下から跳ね除けるにはラヴィの力がまだ足りなかったのか、全く鉈を跳ね返せる気配がない。
鉈を聖剣で受けるラヴィの足元のアスファルトは砕けて、ラヴィはどんどん砕けていく地面に押し付けられるように沈んでいってしまう。
それでも必死に耐えてみんなを守ろうとするラヴィの頭にある人の声が聞こえた。
『あなたは…必ず立派な勇者になれるわ。』
その声を聞いたラヴィは、ネネから託された想いを力に変える。
「うおぉぉぉぉぉ!!!私は!!!勇者だ!!!みんなを!!!必ず!!!守る!!!」
ラヴィの纏っていた青いオーラが一段と膨れ上がると、それに呼応した聖剣が相手の力を上回り、巨大な鉈を一気に粉砕する。
バラバラになった鉈を唖然とした顔で見ているハルは、もう狂気の力は使い果たしており、その場に力無くヘタリこんでしまった。
「そんな…僕の…力が…狂気が…負けた…。」
心が折れてヘタリこんでいるハルに、何故かラヴィは追撃のドロップキックをぶち込んでいく。
「おらぁぁぁ!!!!!!!!」
「ぐはぁぁ!!!」
ラヴィのドロップキックによって吹き飛んだハルは地面に大の字に寝っ転がって動かなくなった。
そこにルルがラヴィを止めるのに飛び出してくる。
「ちょっと!ラヴィちゃん!オーバーキルだって!」
「す…すまん。ついつい盛り上がってしまってな…。」
「でもみんなを守ってくれてありがとうね。あとは私の束縛魔法でハルを捕まえておく。あれだけ弱ったハルなら私にも抑えつけられるはずだから!」
ルルはそう言うと、手をかざして光の紐のようなものでハルの体をぐるぐる巻きにして捕縛した。
しばらくしてハルが目を覚ますと、ラヴィがある質問をする。
「おい!お前達の黒幕である神はどこにいる!?」
「知らねーよ。知ってんのはミユミユだけだ。」
「そのミユミユはどこに行ったんだ!?」
「だから知らねぇって!」
「くそ…ならば他の四天王から聞き出すしかないのか…。」
「他の奴らも知ってるわけねーだろ。ただな、お前らはそんな悠長に時間を使ってる余裕はねーんだよ。」
「どういう事だ!?」
「悪の宝玉…ミユミユはあれを使ってとんでもねー事をするんだとよ!キャハハ!今はそれの準備をしてるんじゃねーかな!所詮僕達はそのための時間稼ぎをしてるだけなんだよ!キャハハハハハ!!」
そう言って笑い続けるハルの体から黒い光の塊が現れて、どこか遠くに向けて飛んでいく。それと同時に『狂気』の力がハルから消えてしまったような気がした。




