第35話 勇者と魔剣王
ラヴィは晩餐会の会場から出ると、一本橋全体に広く散らばっている強いオーラを感じるために目を瞑って集中する。
(今にも戦いが始まりそうなオーラが2つあるな…これはアヤネと…レナか…。シルヴィアは…これはあの神社に向かっているみたいだ…。気持ちの悪い黒いオーラは瑠偉だな…アルマのオーラも感じる…。この中で私が今すぐに行かなければならない場所は…。)
そしてラヴィは、聖剣と宝玉のおかげで少し戻った力を使って建物を駆け上がり、急いでその場所へと向かうのだった。
――その頃、どり〜むは〜との前にはゾンビのように群がる操られた人達が集まっていた。
しかし、その人達は店に近付くこともできず、見えない壁に阻まれているかのようにその場で何もない空間をドンッドンッと叩いているだけだ。
なぜなら、店前で両手を突きだして『防壁魔法』を使っているルルが居たからだ。
「この人達だけなら防壁魔法で防げる…だけど新手が来る事を考えると魔力を無駄に使えない。どうにかしないと…。」
店全体を取り囲むように張った防壁を維持するにはとてつもない魔力を使わなければならない。
このままでは四天王の誰かがここに来ればすぐに防壁を破られて中の人に被害が及ぶ。
そうならないためにルルが必死で解決方法を探していると、店の入口が開いて誰かが外に出てきた。
「ルル殿、少し下がるでござるよ。拙者がこの人達を退けてみせよう!」
その現れた人物は、ラヴィ達が転移した時に出会った『魔剣王ガイアス』を名乗るオタクであった。
「田中さ…ガイアスさん!?ダメですよ!中に居ないと!危険ですから!」
「ルル殿は一体何をしているのでござるか?」
「こ…これは…えっと…両手を伸ばして『来るなー!』ってしてるんです…。決して不思議な力がどうとかではないです…。」
「ワハハハ!隠さなくて良いでござるよ!何を隠そう…拙者も異世界から来た人間の1人でござるからな!」
「えっ!?田中さ…ガイアスさんが!?」
「田中は仮の名前でござる…。真の名は魔剣王ガイアス!!魔剣使いの頂点に立っていた男でござる!!」
「まさか…田中さ…ガイアスさんが…魔剣王…。設定だと思ってた…。」
「もう田中でいいでござる…。では見せるでござるよ!拙者の魔剣の力を!!いでよ!『魔剣パーリーナイトゥ』!!」
「名前がダサい…。」
ガイアスの呼びかけに応じて、茶色い光を纏いながら魔剣が召喚される。その姿は名前に反して禍々しい紫色をした立派な魔剣であった。刀身は真っ直ぐではなく、不規則に枝分かれしていてそれが異様さに拍車をかけている。
「汚い色の光から現れたとは思えないマトモな魔剣だ!」
「ルル殿…さっきからちょいちょい失礼でござる…。では、防壁を解いてもらえるでござるか?」
「わ…分かりました…。」
ルルが言われた通り防壁魔法を解除すると、ガイアスは臆することなく前に出る。
「さぁ!すぐに防壁を張り直すでござる!」
「で!でも!本当に良いんですか!?危険です!相手は100人近くいますよ!」
「フフフ、拙者も伊達に王を名乗っていないでござるよ。修羅場を幾度も乗り越えてきたでござる!実力も股間も魔剣王でござる!!!」
「はい、閉じまーす。」
「おほ…冷たい顔…。」
ルルは魔剣王ギャグにピクリとも笑わずに防壁魔法をかけ直した。その冷たい表情に何故かガイアスは『ドゥフwドゥフw』言っている。
その時、敵から目を離していたガイアスの隙を見逃さずに敵が襲いかかってきた。
「ガイアスさん!!危ない!!」
ルルがいち早くそれに気付いて大声で警告するが、そんな心配をよそに、ガイアスに襲いかかった敵はバタバタと倒れていく。
ガイアスは相手を見もせず、背を向けたまま素早い剣速で敵を斬ったのだ。
「心配するな…峰打ちでござる。」
「え…斬ったとこ…全然見えなかった…。」
「ドゥフフw見た所この人達は操られているだけの一般人でござろう。だから全員峰打ちで倒していくでござる。
拙者の魔剣パーリーナイトゥは属性攻撃などはできない代わりに、体力を犠牲にして身体能力を大幅に上げてくれるでござる!相手を殺さずに制圧するにはもってこいでござるよ!」
「惜しいな〜。これでカッコ良かったら完璧だったのに…。」
「ぐはwwその口撃wwクリティカルヒットでござるww」
そして、ガイアスはおふざけを止めて相手に向き直ると、突風のように相手の隙間を縫って駆け抜ける。すると、ガイアスが通り過ぎていく度にどんどんと敵は倒れていく。
赤いバンダナを巻いたポッチャリ体型からは想像できない戦いぶりである。
ガイアスが戦い始めてまだ10分も経たない内に立っている敵はいなくなった。
「ぶひーー!久々の運動はやはり疲れるでござるなー!」
「凄いですよ!ガイアスさん!」
「惚れたで…ござるか…?」
ガイアスがイケボでルルにセクハラしていると、凄まじい殺気が猛スピードで近づいてくる。
「ん!?この殺気はなんでござるか!?」
殺気の迫ってくる方向へガイアスが警戒し魔剣を構える。すると、路地から真っ赤なメイド服のハルが飛び出してきてそのままガイアスに二本の鉈を振り下ろす。
「はーい!まずは豚一匹もーらい!!」
『ガキーン!!』という金属音が鳴り響き、相手を舐めきったハルの一撃をガイアスはなんなく受ける。
「ぬおっ!その真っ赤なメイド服はハル殿でござるか!?何度かお店に行ったでござるよ!」
「あーん…?なんだこの豚。僕に話しかけるなよ。今とっても機嫌悪いんだ!僕!!」
一旦離れたハルであったが、またすぐ突進するかのようにガイアスへ突っ込んでいく。それにしっかり反応しているガイアスは魔剣で受けの体勢を取る。
だがハルは、ガイアスにぶつかる直前で直角に曲がり、突然標的をルルに変える。
そんな予想外の動きにガイアスは面食らってしまって反応が遅れる。分かっているのはハルの一撃が防壁を破ってしまう可能性がある事だ。
「アハハハー!!メガネメイドは退場願いまーーす!!」
(油断してた!防壁を強くしたいけど間に合わない!)
ルルは心の中でそう後悔しながら目を瞑る。そして『ズバッ!!』という斬撃の音がしたが防壁が崩れる気配はない。
恐る恐るルルが目を開けると、そこには背中でハルの斬撃を受けているガイアスの姿があった。
ガイアスは急いでルルを守りにいったが、魔剣で受けるには遅く、そのままルルを庇うように背中で受けるしかなかったのだ。
背中で受けた傷からはボタボタと大量の血が流れている。
「ま…間に合ったでござる…。ケガは…ないでござるか…?」
「ガイアスさん!なんでそこまで!」
「どり〜むは〜とは…みんなの癒しの場所でござる…。拙者もこの世で1番好きな場所でござるよ…。そんな場所を守れるなら…この命惜しくはないでござる!!」
もう動く力も残っていないガイアスだったが、最後の力を振り絞り、ハルの方へと体を向ける。
さっきまで軽かった魔剣も今は重たく感じ、剣を肩の高さまで上げるのがやっとだった。
「さぁ!ハル殿!まだ終わってないでござるよ!」
「ウッザ。僕機嫌が悪いって言ったよね。ねぇ?言ったよね!?邪魔すんなよ!!豚!!」
ハルは発狂したように叫び散らかすと、ガイアスにトドメを刺すためにまた勢いよく突撃を仕掛けてくる。
その攻撃を受け切る事は不可能と感じたガイアスは覚悟を決めてニヤリと笑う。一か八か魔剣を振り上げたその時だった。
ガイアスとハルの間に空から何かが振ってきて、『ズドーーン!!』という落下音を響かせて土煙を上げる。
さすがのハルも警戒して後ろへ飛び退くと、ゆっくりと晴れていく土煙の中から現れたのは聖剣を携えたラヴィの姿だった。
「なんとか間に合ったようだな。感謝するぞ。魔剣王よ。」
「ラヴィちゃん!!」
「ラヴィ殿…!助かった…で…ござる…。」
ガイアスはそう言うとそのまま気を失って前のめりに倒れそうになる。それをラヴィがしっかりと受け止めてゆっくり地面に寝かせた。
「ルル。魔剣王を頼んだぞ。」
「うん!分かった!」
ルルはガイアスを防壁魔法の内側へと入れると、すぐに治癒魔法でガイアスの傷を治そうとする。
防壁魔法との二重詠唱なので魔力の消耗は激しいが、自分を守ってくれたガイアスの命を助けるために必死でルルは魔法を唱える。
それを見ていたハルの顔にはピキピキと血管が浮き出てくる。ネネとの戦いからずっと自分の思い通りにいかない状況に怒りが頂点に達しているようだ。
「お前は…!邪魔しやがって…!誰なんだよ!!」
「私か?私は勇者だ。」
「メイド服を着た勇者がどこにいるんだよボケ!」
「さっき誕生したんだよ。私を守った英雄の想いと共に…装いも受け継いだ…」
「最強の『メイド勇者』がな!!」
聖剣を構えたラヴィが纏った青いオーラは、狂気の切り裂きメイドを圧倒する。




