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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第三章 悪神との戦い 始まり編
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第32話 勇者と虚ろな心

「なんじゃこれは!?一本橋に入れんじゃと!?」


 ここは一本橋との境界線の大通り。その入口でセリーナが見えない壁に阻まれている。


「目の前に街は見える…しかしまるで時が止まったかのように存在が朧げになっておる…。まさか時空分離をやりおったのか!?周りにバレずに異世界の力を使うためか!次元の切り離しをできるという事は…やはり悪神が中におるのか…。

一本橋を取り囲むように警備しておるのは『支配』の力で操られておる警察と言われる人間達…。ヤオの姿も見えん…無事なのか…。」


 セリーナはこの場所に居ても埒が明かないと思い、ある場所へ向かうために移動を始める。


「ラヴィ達に賭けるしかないの…。あの子らを信じてわしがやれる事は1つのみ…。頼んだぞ、必ず勝つのじゃぞ…!」


 一本橋の中で今から悲惨な戦いが行われる事は分かっているが、それにラヴィ達が勝つ事を信じてセリーナは歩みを早めた。



――そして、ミユミユ達から無事逃げ切れたラヴィとアルマが一本橋のオタックロードを走っている。

 すると、ラヴィが走る足を段々と緩めてその場で立ち止まってしまう。


「どうした?急がねば追手が来るぞ。」


「……。私はやはりネネの所へ戻る…。勇者としてネネを見捨てる事などやはりできん!」


 それを聞いたアルマが、今にもきびすを返してネネの所へ戻ろうとするラヴィの肩に手を掛けて、ラヴィが戻らないように制止させた。


「おい…アルマ…手を離せ。」


「それはできんな。貴様にはユウナを安全な所へと連れて行ってもらう。」


「お前が連れていくべきだろう。私はネネの所へ戻る!」


「気付かんのか?この気味の悪い気配に…。」


 ラヴィはネネの事に気を取られていて、アルマの言う気配に気付いていなかった。

 改めてラヴィが集中すると、アルマの店で感じたあの気持ちの悪い瑠偉の気配を少し離れた場所で感じる。


「これは…。」


「ククク、やはり瑠偉も来ておるようだ。我は奴に借りがある。だからユウナを貴様の仲間がおる場所へ連れて行け。」


 アルマはそう言うとユウナをラヴィに預けた。しかし、ユウナは自分の身に起きた非現実的で恐ろしい出来事を飲み込む事ができず、不安を隠す事ができない。


「アルマ!?どこに行くの!?」


「安心しろ。我と居るよりラヴィについて行った方が安全だ。」


「無事に…帰ってくるよね…?」


「フハハハ!当たり前だ!我は魔王だぞ!ではユウナよ!また後でな!」


 アルマは不安そうに見つめるユウナにそう告げると、あっという間に建物を飛び越えて行ってしまった。

 アルマがユウナを安心させるために取った態度が心なしか虚勢に見えてしまう。それほどまでに瑠偉が危険な人物なのだろうとユウナは静かに察した。


 ラヴィは、本当はネネを助けに戻りたかったが、瑠偉の事を放っておいては必ず自分達に災厄をもたらすと思い、断腸の思いでまずはどり〜むは〜とに戻る方を選んだ。


「ユウナ、行こう。この先に私の仲間達がいるはずだ。」


「うん…アルマは大丈夫だよね?」


「奴なら大丈夫だ!必ず帰ってくるさ!」


 そうやって励ましてくれるラヴィにもぎこちなさを感じてしまうが、ユウナはアルマを信じてラヴィと共にどり〜むは〜とへと急ぐのだった。



――そして10分後、ラヴィはユウナを連れてなんとかどり〜むは〜とに辿り着いた。

 店の前には心配そうに辺りをキョロキョロしているルルが居る。


「あっ!ラヴィちゃん!無事だったの!?あれ?ネネさんは…?」


「ルル…ネネは私達を逃がすためにミユミユの所に残っているんだ。私はすぐにネネを助けるために戻る!だからこの子を頼んだ!」


 ラヴィがユウナをルルに預けると、ユウナは丁寧にルルにお辞儀をする。


「よろしくお願いします…。」


「こちらこそ!どうぞ中に入って下さい!」


 ルルはユウナを店の中へと案内する。そしてユウナが居なくなるとネネについて詳しくラヴィに聞く。


「一体何があったの?ネネさんは無事なの?」


「分からん…あの場に居た奴らはみんなとてつもない強さを感じた…。だが!ネネなら必ずまだ戦っているはずだ!」


「そうなんだ…じゃあ急がないと!今の一本橋には緊急避難命令が出されてて人はほどんど居ないんだけど、取り残された人達がいて、今はその人達をどり〜むは〜とで匿ってるの。何かおかしな結界も張られてるから出る事ができなくて…。」


 ラヴィとルルが話をしていると、店の中からアヤネとレナとシルヴィアが出てきた。

 すると、怒りが混じっているような深刻な表情でアヤネがラヴィに詰め寄った。


「おい、詳しく説明しろ。」


「それは…。」


 ラヴィがミユミユの晩餐会であった事を細かく説明した。説明が終わると、ラヴィの右頬をアヤネが本気で殴る。そのままの勢いでまだアヤネはラヴィに殴りかかろうとするので、レナが羽交い締めで止めている。


「お前な!!ママをしっかり守れって言っただろ!!なんで守れてないんだよ!!」


「すまない…。」


「何が勇者だよ!!大事な人すら守れてねーじゃねーか!!」


「もうやめなよアヤネ!ラヴィも大変だったんだよ!そんな状況だったら誰が居ても一緒だったって!」


「うるせー!レナ離せよ!!」


 『大事な人すら守れない勇者』、前いた世界でもそうだった、今の世界でも誰も守れないのか。そんな事をラヴィは考えていると、今すぐにでもネネの所へと駆けつけたい気持ちに拍車をかける。

 そして何も言わずにラヴィは晩餐会の会場に足を進めようとする。


「ラヴィ!どこに行くんだよ!まだ話は終わってないぞ!!」


「私が全ての責任を取る。命に代えてもネネを救い出してくる。」


「てめぇはここにいろよ!うちが行く!!」


「もういい加減にしなさい!個々で動いてどうにかなる状況じゃないでしょ!!」


 シルヴィアは、いつまでもケンカを続けて意地を張り合うラヴィとアヤネに喝を入れる。

 みんなの前で大声など出す事の無かったシルヴィアに驚いたアヤネは、一旦冷静さを取り戻した。

 そしてシルヴィアは続ける。


「まず大事なのはネネさんを助ける。そのためにはミユミユと四天王をどうにかするしかない。私達がそれぞれ撃破するしかないの。」


「それは分かってるがどうするんだよ?」


「このどり〜むは〜とから晩餐会の会場に通じる道は3つある。その道全てを防がないと、どれかの道からここまで敵がやって来て詰んでしまう。だからその3つの道からラヴィ、アヤネ、レナの3人を分けて会場まで向かってもらうわ。」


「ルルとシルヴィアはどうするんだよ?」


「ルルはここに残ってどり〜むは〜とのみんなを守ってほしいの。それで私は神社の御神木に行くわ。セリーナ様ならそこに来る可能性が高いから合流できるかもしれない。」


 シルヴィアは、今できる範囲での的確な指示をみんなに出す。それに関して誰も反対の意見を言わなかった。


「ニャハ!そしたらレナは右の道から行くね!」


「じゃあうちは真ん中の道を行く。ラヴィは左の道から行けよ。」


「あぁ…分かった…。」


「じゃあ急ぎましょう!私はセリーナ様と出会えたらすぐに会場に向かうから。」


「みんな…気を付けてね!ここの事は心配しないで!絶対に守り切るから!」


 こうしてみんなはそれぞれの任された所へ散開していく。

 しかし、ラヴィだけは何かを心に抱えた浮かない表情で左の道を進んでいた。


(大丈夫だ。ネネはきっと無事でいるはずだ。だが…私はもう勇者を名乗るのをやめよう…。全てが終われば女神様に頼んで―私はこの世界から消えるべきだ…。)


 勇者としての自信を無くしたラヴィは、空虚の表情をしながら、少し重たく感じる足を動かしてただ歩いていく。

 自分に出来る事が何かも分からぬままで…。



――そして、ラヴィ達が合流した頃、晩餐会の会場では紅い血の海の上で横たわるネネの姿があった。

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