第30話 勇者と魔王、ネネに託す
ラヴィとネネは、今にも襲いかかってきそうな操られた人間と睨み合いをしている。
(くそ、アルマの正確な位置が分からん!いつもはあんなにうるさいのに今に限って…!)
ラヴィがアルマの位置を察しようと神経を集中させている最中、突然真逆の方向から『ズドーーン!!』という爆音と共に人間が宙を舞う。
そしてこの危機的状況で、不本意ながらラヴィが安堵を覚える声が会場に響き渡る。
「フハハハ!!こんな人間如き我に差し向けてどうしようというのだ!我が道を邪魔する者は全員排除するのみだ!!」
「ア…ア…アルマ!怖い怖い怖い!」
アルマは、恐怖と混乱でバタバタしているユウナを小脇に抱えたまま、次々と襲ってくる人間を何の躊躇もなく弾き飛ばしている。
「あらあら!やっぱりあの魔王君は頼りになるわねー!じゃあラヴィちゃん、合流しにいきましょうか!」
「あのバカが役に立つ時が来るなど…。認めないからな!」
目的地が定まったラヴィとネネは早速その場所に向けて走り出す。
ネネが右手に青白いオーラを纏って『ちょっとごめんなさいね〜!』と目の前の人間を振り払うと、複数人の敵が吹き飛んでいく。
「おい!ネネ!それだけの力があれば出口の扉に向かった方が良いんじゃないのか!?」
「無理ね〜。その扉はもう四天王のキョウさんが守っちゃってるもの…。」
ラヴィが出口を確認すると、そこには狐面の花魁の女性がとてつもなく長い日本刀をダラリと力を抜いて構えている。その刃の長さは150cmに迫り、普通の日本刀の2倍ほどの長さである。
「あんな刀を振れるのか!?」
「振れちゃいそうだから困るわよね〜。ほら!魔王君が見えてきたわ!」
ラヴィ達は群衆の中を無理矢理進んでなんとかアルマの所へ辿り着いた。
「なんだ貴様らは、結局我の力を借りに来たのか?」
「好き好んで来たわけではない!お前も分かっているだろう?本来の力を発揮できない私達には奴らの相手は荷が重いという事を!」
「だから魔王君協力お願いね〜♪その女の子も守らないとでしょ?」
「チッ…そんなに我を欲するなら今回は力を貸してやろう。で?どうするのだ、あの狐の面の女を片付けるのか?」
アルマがそう言いながら出口を確認するとそこにキョウの姿は無かった。
「はい…4人まとめてズバッと終わりでありんす…。」
その声に気が付いた時にはすでにキョウが4人の背後を取り、長刀をラヴィ達に向けて振り抜こうとしていた。
「こいつ!?いつの間に!?」
迫る刀から一番近い位置のラヴィがなんとかその刀を受けようとするが、一目見てそれが無理だと悟った。
歴戦を重ねてきたラヴィだからこそ分かるのだ―この刀をどう受けようが真っ二つになる未来しか見えないと。
それでも勇者としての本能なのか、自分の身を挺してでも後ろの3人を守ろうと腕を十字に組んで身体を固める。
そして、ラヴィに刃が届こうとした瞬間、『キーーン!!』という金属音が響く。
その音の正体は、ネネがナイフでキョウの刀を止めた音だった。ナイフにはさっきの青白いオーラを纏わせている。
「ふ〜…たまたま食事用のナイフが落ちてて助かったわね〜。」
「ナイフで…わちきの刀を止めるでありんすか…。」
ネネがキョウの動きを止めた隙を見逃さず、ラヴィとアルマが一撃を食らわせようと瞬時に動く。
だが、キョウが素早い身のこなしで距離を取ったのでその攻撃は虚しく空を切った。
「ネネ…すまない…。助かった。」
「いいのよ〜♪おかげで出口が素通りになったし、行きましょうか!」
ラヴィ達はキョウと壇上のミユミユ達から目を離さぬよう警戒しながら出口の扉を目指そうとする。
「逃がすわけねーだろうがボケナス共!!『時空分離』を発動させる!!」
ミユミユがそう言うと、高柳が舞台袖から出てきて、人の頭ぐらいはありそうな『黒い水晶』を持ってくる。その黒水晶の発する異様な空気にラヴィ達は足を止めざるをえなかった。
そしてラヴィとアルマはその水晶を見てすぐに気付く。それが自分達の持っている宝玉に似ているという事に。
「高柳!?あなたが何故ここにいるの!?」
アルマに抱えられているユウナが高柳の姿を見て驚いている。
「社長…これが私の発案したプロジェクトですよ!私はミユミユ様達と共に世界を牛耳るんです!我が社の多額の投資でここまで来れました!ありがとうござ…!?」
『ズバッ!』
高柳の首が寒気のする音と同時に空中を舞う。血を撒き散らせながらクルクル回転して床にゴトリと落ちると、頭の無くなった体も壇上にドサリと倒れた。
高柳を斬ったのは切り裂きメイドのハルであった。返り血を浴びて一段と赤くなったメイド服を手で撫でながら恍惚の表情を浮かべている。
するとハルから黒い光が現れて、黒水晶に吸い込まれていく。
突然起きた殺人にラヴィ達は呆然としていたが、『キャーーー!!』というユウナの悲鳴で我に返る。
そして壇上では、ミユミユが勝手に高柳を殺したハルに対して怒っているようだ。
「おいハル!殺す時は言えよ!汚え血があたしにも掛かっただろうが!」
「ごめんね〜ミユミユ〜。で!でももう我慢できなくてさ!!殺したくて殺したくて仕方なくてさ!!
――はぁ〜〜…殺っちゃったぁぁ〜。気持ち良かった〜。」
「相変わらずのサイコだな。まぁいいや。棚ぼたで『悪の力』を手に入れられたわ。
さてと…『時空分離』をやるか。」
ミユミユが壇上の上に合った気味の悪い髑髏の台に黒水晶を乗せる。
このままでは理由も分からないまま相手の好き放題させてしまうが、そんな状況にネネが待ったをかけた。
「ミユミユ、一体何をしようとしてるの!?」
「あん?この一本橋界隈をこの世界から分離させて邪魔なお前らをブッ殺すんだよ。分離させてしまえば独立した世界になって外から干渉されなくなる。さすがにまだ世間様にはこの凄惨な場面を見られるのはマズイからな。」
「そんな事…ヤオ様が大人しく許すわけない!あなただって私みたいにヤオ様に拾われたから生きてこられたんでしょ!?」
「ヤオ…二度とそいつの名前を口にするんじゃねーー!!あいつが何のためにあたしとてめぇを拾ったと思ってる!?まぁお前は良いよな!良い役割を与えられてよ!あたしはな……。」
「ミユミユ!あなたは一体何の話をしてるの!?」
「うるせぇ!!もう止まれねーんだよ!!」
「そんな事したって外には…一本橋には沢山の一般人がいるわ!」
「もういねーよ!この会場には警察や政治家やらの大物も参加してるんだよ。
そいつらに『一本橋で毒ガスによる広範囲のテロが発生した』って嘘の情報で一般人を避難させるように指示してたんだ。あたし達やてめぇの周りの人間以外をな!」
「なんてことを…。」
「この『悪の力』は神も立ち入れない空間を創り出す!終わりだ!ネネ!」
そしてミユミユは黒水晶に両手をかざす。
「時空分離!!」
その声に反応して黒水晶は漆黒の光を放つ。そして、その光は白黒の境界線を作りながら凄いスピードでどんどんと建物内に広がり、一瞬で街全体を飲み込むように外界から一本橋を切り取った。
全てが終わるとミユミユは、勝ち誇ったように大声で笑い声をあげる。
「キャハハハハ!終わりだよ!ネネ!もう神も誰も助けに来ないぞ!てめぇらはこの場であたしらがブッ殺してやるよ!」
そして、ミユミユを先頭に壇上からヨルカ達がラヴィ達に向かって降りてくる。
「くそ!まずはこいつ達を倒さなければならないな!」
「いいえ。ラヴィちゃん達は今すぐここから出てどり〜むは〜とに向かってほしいの。この現状をルル達に伝えてちょうだい。そしてセリーナ様も探して力になってもらえるよう頼んでほしい。」
「そんな事言ったってこいつらが追いかけてきてみんなが危険になるぞ!いや…待て…まさか…。」
「私がこの子達を止めてるから大丈夫よ♪」
「無理だ!いくらネネが強いといってもこいつら全員を相手になど…!」
ネネはいつもの優しい笑顔になると、反対するラヴィの唇に人差し指をあてる。
「大丈夫よ!むしろ止めるだけじゃなくて全員倒しちゃうかもよ!――今あなた達しか頼れないの…。だからお願いよ…ラヴィちゃん…。」
「しかし…。」
「ラヴィよ。その女の言う通りだ。だから我がこやつら全員相手にしてやろう!貴様らはその間に逃げよ!」
「魔王君…いえ、アルマ君か…。気持ちは嬉しいけどあなたはその子を連れてでないとダメでしょ。最後まで守ってあげて。」
アルマはネネからそう諭されると何も言えなかった。
「じゃあ合図をしたら振り向かずに建物から出るのよ。」
「ネネ、すぐにみんなで助けに来るからな…。死ぬんじゃないぞ。」
「あらあら、そんな思い詰めた顔しないの!勇者なんでしょ!ちゃんと生き残るから行きなさい。」
ネネはニコリと笑うと青白いオーラを全力で全身から放つ。その凄まじい力にミユミユ達は嫌でも反応して動きが止まってしまう。
「今よ!!」
その合図でラヴィ達は出口へと一直線で走り出す。それをいち早く追おうとしたヨルカだったが、瞬速の動きで移動してきたネネに蹴り飛ばされて邪魔される。
その様子を見ていたミユミユが前に出てきてネネに聞く。
「てめぇ…本当にあたし達全員を一人で相手するのか?」
「そうよ〜♪私はこれでも伝説のメイドって言われてるんだから頑張らないとね。お子様にはまだまだ負けないわよ♪」
「そうか…なら終わりだ。逃げたあいつらもすぐに追いかけて始末する。」
「だ!か!ら!私は負けないって言ってんのよ!クソガキ共!!」
言葉が悪くなるほどネネが怒りを露わにすると、全身の青白いオーラが一層大きくなってネネの黒髪を浮き上がらせる。
その姿は『オタクの女神』と呼ばれた伝説のメイドに相応しいものだった。




