第3話 勇者、魔剣王と出会う!
ラヴィとアルマが転送された街、それは地球の日本にあるオタクの街と言われる『一本橋界隈』。その北には万日前大通りを挟んで『五右衛門町』という水商売を中心とした繁華街がある地域だ。
ラヴィが少し距離を置いてオタクと睨み合っていると、アルマは五右衛門町のある北方向へと歩き出した。
「お!おい!アルマ!どこへ行くんだ!?」
「ふん!お前と一緒に行動など考えられぬ。我は我でさっさとこの宝玉に力を溜め込み元の世界へと戻る!ラヴィよ!精々頑張るのだな!まぁ寂しくなればすぐに我を頼るとよいぞ!」
「こちらこそ魔王と仲良くなどできるか!私はこの周辺を探索して善の力のヒントを探る!二度とお前の顔など見たくはない!」
お互いが貶し合い、アルマはそそくさとその場を立ち去っていく。だが、心なしかアルマの背中には哀愁が漂っていた。
(ちょっとぐらい寂しがってくれても良かろうが…バカ勇者が…ちょっと可愛いからって…)
トボトボと歩いていくアルマの背中を見送り、ラヴィはその反対方向へ歩こうと振り返った瞬間、目の前には先程のオタクが気配も無く立っている。
(なっ!何っ!?私がこんな者に簡単に背を取られるなど!!こいつ!一体何者だ!!)
振り向きざまに男のドギツイ風貌、そして簡単に接近を許してしまった事への驚きでラヴィが少し混乱している所に、オタクがボソボソと何かを喋りだした。
「あの…あの…どこのお店の人でござるか…?」
(店?こいつは一体何を言っているのだ…。)
「ハッ!!申し遅れましたな!拙者の名は魔剣王ガイアスと申す!
ブハッ!とはいえSNSの中の仮の名ではありますが…デュフw…デュフフフフwww」
(魔剣だと!?こんな酸っぱい匂いのするオークの様な男が魔剣を使いこなすのか!?しかも王だと!?いや…それなら私が背中を取られた事も納得できるか…。)
ラヴィは、男に魔剣王と名乗られてから、この太めの身体を持つ男がどことなくオーラを身に纏っているように見えてきた。だがそれは強烈な匂いが可視化しただけだったのかもしれない。
「す、すまない。私はそなたが思っている店の者ではない。だが魔剣王のそなたに少し聞きたい事があるのだが…」
「まww魔剣王とはいえww魔剣を本当に使える訳ではなくww由来は拙者の股間のイチモツが魔剣並という仲間からの評価故にというかww」
(なんだこの生き物は…。急にヘラヘラ早口で…。ものすごい嫌悪感を覚えるな…斬るべきか…。)
ラヴィは転送されてから初コンタクトした人間を早々に切り捨てるか悩み、腰の聖剣に手をかけようとするが、そこにはあったはずの聖剣が消えている。
(そうか…女神様が勇者の力を取り上げるように言っていたな…まさか聖剣まで取り上げられるとは…!)
切り捨てる事が叶わぬと察したラヴィは、とりあえず殴っておかねばならないという使命感に駆られて拳を握る。
が、オタクは急に用事を思い出したかのように足早に立ち去ろうとする。
「金髪騎士殿!申し訳ないが拙者はそのすぐ先のメイドカフェ『どり〜むは〜と』に行かねばならぬので!これにて御免!」
「あっ!ちょっと待って!」
まだ聞きたい事があったというか、殴り足りないというか、そんな気持ちが混ざり合ってラヴィは思わずオタクを引き止めようとしてしまう。
しかし、何を勘違いしたかは知らないが、オタクは良い感じに顔を作り、やたらとイケボで顔だけ振り向きながらラヴィに伝える。
「拙者とまだ話していたい気持ちは分かるでござる。拙者は良い男で評判でござるしな…。しかし残念ながら今日の所はここまでという事でござるよ…。
だが!!運命がまた二人を引き合わせるでござる…。拙者は貴殿に一目惚れ…いや!これはまた再会した時に!!では…またその時まで!アデュー…」
そう言い終わるとクネクネとした走り方でオタクは去っていく。
(あー…本当の殺意とはこんなにも冷静に湧いてくるものなのだな…。)
ラヴィは魔剣王への殺意を静かに感じていると、オタクの背中から何か小さな光が現れてフワフワと自分の方へと向かってくるのが見えた。
すると、その光はラヴィのポケットに入っていた宝玉へと吸い込まれていく。それと同時に頭の中に無機質な声が響く。
【善の力を手に入れました。種類は愛。】
そして、小さく宝玉は光るとまた無機質な水晶に戻る。
「今のは宝玉から聞こえたのか!?何も分からない内に善の力を手に入れてしまった…。クソ!理由を確かめるにはまたあの魔剣王の所へ行かねばならないのか…!チッ!虫唾が走る…!」
ラヴィがそんな事を考えている内に、オタクはある店のドアを開けてその中に入っていくところだった。
「あそこが奴の言っていた…メイドがいる場所か!しかし…メイドを雇っているという事はやはり権力者なのではないか!?
ええい!ウダウダ考えていても仕方ない!追うぞ!」
そしてラヴィはオタクが入っていったお店の前に着く。看板には可愛い文字で『どり〜むは〜と』と書かれている。
「宝玉の力で文字までも理解できるのか。これは助かるな。」
ラヴィは意を決して扉に手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。するとそこからは心地良いコーヒーの香りと、卵を焼いたような香ばしく食欲をそそる香りが漂ってくる。
気付けば空腹だったラヴィは、一瞬全てを忘れて目を閉じ、とても幸せな気持ちになる。
そんな時、女性の元気でハッキリとした声がラヴィの耳に響き渡る。
「おかえりなさいませ!お嬢様!」
その声でラヴィはハッと夢現の状態から引き戻される。そしてラヴィの目の前には美しささえ感じる芸術的なクラシカルメイドの女性が立っていた。




