第29話 勇者と魔王と開戦の合図
一本橋中央の雑居ビルの屋上で、セリーナとヤオが次々と始まり出した戦いの動向を監視している。
「一気に動き出したのー。」
「そうだね。」
「しかしヤオよ、何故ここまで異世界から来た人間が居る事をわしに黙っておったのじゃ?」
「ごめんね。これは僕のミスだよ。15年前の一本橋の事件以来目立った動きが無かったんだ。異世界の力を使う者もいなかったし…。ネネの所に預けていた子達しか把握していなかったんだ。たぶん悪神が隠れて保護していたんだと思う…。」
「お主らしくないのー。そのネネの所の者達の情報すらわしに言わんかったではないか。」
「なるべく悪神に勘付かれたくなかったんだ…。全部手遅れだったみたいだけど…ごめん…。」
「納得しかねる理由じゃが、今はまぁ良い。お主から様々な神の関与がある事は聞いておったので対応策はしておる。しかし、これも全て悪神が関与しておるのか?」
「十中八九そうだろうね。あのミユミユって子が傾倒しているのが悪神だと思う。15年前の事件はあのミユミユが単独で起こしたからネネだけでなんとかなったけど…。今回はミユミユに加えて4人も厄介な異世界の者が手を組んでいる。」
「四天王とか呼ばれておる者達か…。」
「うん―〝空心のヨルカ〟〝亡国の切り裂きメイド ハル〟〝長刀花魁 キョウ〟〝腐敗の魔女 ノンノ〟。
調べたらどの子達も元いた世界で厄介な存在だったらしい。今はそれぞれが自分達に合ったコンセプトカフェを隠れ蓑にして暮らしている。」
「自分達の世界の神から捨てられた子らか…。」
「だろうね。それを僕が見つける前に悪神が拾った。そしてあと1人…要注意人物がいる…。」
「アルマのとこにおる怪物か?」
「うん、あの瑠偉って子はどれだけ調べても情報が手に入れられなかった…。一体どこから来たのかも分からない。」
「そやつの危険性はアルマも認識しておるみたいだしの。そこはアルマに賭けるしかないのー。で、今回も手は貸さんのか?」
「僕はできる限りの手は貸した。後は僕の世界の人達を信じるよ。セリーナだってそうだからラヴィちゃんやアルマ君をここに連れてきたんだろ?」
「そうじゃな…。勇者と魔王か…。善と悪…陽と陰…光と闇…その2つが生む力がないと存在できんわしら神のなんと罪深きものか…。」
「……。」
そこでセリーナとヤオの会話が止まると、不吉を呼び込むような風が2人の間を吹き抜けた。
――ミユミユの晩餐会当日。時刻は約束の時間まで丁度1時間というところ。参加するネネとラヴィはメイド服を着て準備をしていた。
アヤネ、ルル、レナ、シルヴィアは待機組兼どり〜むは〜との営業を任されているのだが、アヤネはどこか不満そうである。
「なんでママの付き添いがラヴィなんだよ。ウチが行きてぇのに…。」
「仕方ないだろ。2枚しか招待状は入っていなかったのだ。勇者である私が行かないでどうする!それにもう一つ理由はあるぞ。」
「もう一つって何だよ。」
「顔面だな。私は見た目も良い。」
「殺す!!」
毎度の如くケンカを始める2人をルルが必死に止めていると、ネネが本当の理由を説明する。
「実はね、昨日の夜にセリーナ様が来られたのよ。そしたらラヴィを連れていってほしいって頼まれてね。」
「ふふふ、女神さまも分かっておられる。」
「チッ!ラヴィ!ちゃんとママを守れよ!何かあったら許さねーぞ!!」
「当たり前だ!この胸に誓おう!」
「胸ねーけどな。」
「よし、アヤネ。表に出ろ。ボコボコにしてやる。お前の語尾が巨乳になるまでな。」
「語尾が巨乳ってなんだよ!」
「はいはい!もう終わり!さぁ!ラヴィちゃん行くわよ!」
そしてラヴィとネネはみんなに見送られて、招待状に書かれている住所まで向かう。するとそこにはコンカフェとは思えない大きさの建物が立っていた。外観はまるで宮殿のようだった。
建物の前に受付があり、そこでネネが手続きをしているのをラヴィが待っていると、会いたくない奴の気配を感じる。
「何故お前がここにいる?」
「それは我のセリフだ!貴様如きが魔界の晩餐会に誘われるなど有り得んだろ!それになんだその格好は!勇者からメイドに成り下がったのか!?」
その気配の正体はアルマであった。隣には一緒に来たユウナがジッとラヴィの方を怪しむような目で見ている。
「なんだ?私の顔に何か付いているか?」
「お姉さんはアルマの何なんですか?」
「いずれこいつをこの世から消し去る者だ!」
「なっ!?消し去る!?」
「ふん!消し去れるものならやってみよ!なんなら久々に我と今からやるか!?」
あわあわと困っているユウナを間に挟んで、ラヴィとアルマがバチバチに睨み合う。
そこに入店の手続きが終わったネネが帰ってきて、ラヴィの頭に軽くゴチンとゲンコツをする。
「あらあら、ラヴィちゃん揉め事はダメよ。さぁ、中に入りましょう。」
「く…なんで私ばかり叱られるんだ…。」
「クハハハ!勇者が子供のように叱られるとは!落ちたものだな!」
「お前だって女神様にボッコボコにされていただろうが!」
「あら?あなたは?」
「我は魔王アルマだ!人間の女よ…覚えておくがよい!」
「強そうねー!頼りにしてますね♪さ!ラヴィちゃん行くわよ!」
そしてラヴィがネネに連れられて店の中に入ると、内装も豪華絢爛で王城を思わせるようなものだった。
先に進むと大きな扉があり、その扉が開かれると目の前に200人は人が入れる広いホールが現れた。コンセプトも和洋中など全ての要素が含まれる特異なもので、その圧倒的なスケールにゲストで訪れた人々は思わず息を呑んでいる。
「あらあら〜、これは…もうコンカフェとかそういうレベルを超えてるわね〜。」
さすがのネネも想像以上のものを目の当たりにして素直に感動している。
そして、2人が受付で渡された紙に書かれているテーブル番号の席へと着くと、ホール内の照明が一部消えて暗くなる。
どうやらネネ達が晩餐会に訪れたのは最後の方だったらしく、これはゲストが揃った合図なのだろう。
ラヴィはアルマ達を探したが近くには見当たらなかった。
そうこうしている内に、正面の舞台上を照明の光が照らす。するとそこにはミユミユがマイクを持って立っている。どうやら晩餐会が始まるようだ。
「どうもー!みなさーーん!今日は魔界の晩餐会に来ていただきありがとうございまーーす!このお店のオーナーをさせていただくミユミユでーーす!今日はいっぱい飲んで食べて楽しんでくださいね♪」
ミユミユの挨拶にホール内のゲストはみんな盛大な拍手を送った。
そしてミユミユは拍手や歓声が収まるのを待ってから、またぶりっ子キャラで話し出す。
「今日はねー!お店のオープンとは別にもう一つ重大発表があるのですっ!それはなんとーー!!」
ドゥルルルルルルル…というドラムロールの音がその発表の間を盛り上げる。
そして『ジャンッ!!』という音と共に全ての照明がミユミユにスポットライトを浴びせた。
「ミユミユが一本橋四天王と呼ばれるみなさんと共に!一本橋を統一して!全てミユミユの神様の支配下に置きたいと思います!!!当然その後は世界征服だぞーーー!!
わーーーーい!!!やったね!みんなも嬉しいね!!
反抗する人達はみんなブッ殺すのでよろしくお願いします♪」
発表が終わると会場は段々とザワザワしていく。会場のゲスト達はそのミユミユの発言に戸惑っているようだった。
本気なのか冗談なのか分からない状況の中、舞台袖から4人の女性がミユミユの脇を固める。その内の1人は先日ミユミユと一緒にどり〜むは〜とに訪れたヨルカだ。
他の3人も、
『長刀を持ち、狐面を被った花魁』
『真っ赤なメイド服に大きな鉈を2本持つメイド』
『胸元が広く開いた黒いローブを着た銀髪の魔女』
と、見ただけで分かるほどの異様なオーラを放っている。
「あらあら…本当に四天王はみんなミユミユ側についてるのね…。」
「ネネよ…。これは非常にマズイんじゃないか…。あいつら一人一人からとんでもない殺気を感じるぞ。」
「ブッ殺すっていうのは嘘じゃないみたいね〜。」
そして、その四天王達が姿を現してから余計に会場のざわめきが大きくなっていく。それを見かねたミユミユは片手を天にかざした。
「う〜〜ん。みんなうるさいからミユミユがおまじないをしてあげるね!ミユミユの事が大好きになるおまじないだよ!」
すると、ミユミユの天にかざした手から黒い霧のようなものが現れる。そして雨雲の様になったその黒い霧が会場中の人間を一斉に襲うと、口から体の中に入り込んでいく。
当然ラヴィやアルマにもその黒い霧が襲いかかってくる。
しかし、ラヴィとネネは自分の力で黒い霧を振り払い、アルマはユウナを守るように黒い霧を跳ね返した。
そんな中、黒い霧を吸い込んでしまった人達は息苦しそうにしていたが、しばらく経つと生気を失ったような顔で立ち上がり、『ミユミユ様万歳!!』と口々に叫びだしたのだ。
「やられたわね〜。これがミユミユの能力の『支配』なんだけど…こんなに大勢の人を支配するなんてできなかったのに…。神様とか言ってた者の影響かしら。」
「これだけの人を支配する能力…チートだな。」
いつの間にかこの会場内で正気を保っているのがラヴィ、ネネ、アルマ、ユウナの4人だけになっている。
それに気付いたミユミユは、ラヴィ達の方を指差して支配した人達に向けて命令をする。
「みんなーー!!ミユミユをイジめる人達が残ってるよーー!!みんなの力でミユミユを助けてほしーのー!!やっちゃってーー!!」
そのミユミユの発言で会場中の人間が一斉にラヴィやアルマ達を睨む。その目は紅く光っており、暗い会場の中で怪しく揺れる。
そんな状況の中、ネネは顎に手を添えて考え込むように悩んでいる。
「まさかこんなにすぐ仕掛けてくるとは思ってなかったわね〜。この様子では私達を孤立させるのを始めから狙っていた事になるし…ということはどり〜むは〜との方も心配ね…。」
「どうする…ネネ…。私は勇者だが細かい作戦などは苦手なのだ。」
「あの四天王達が襲ってくる前に逃げるしかないわね!そのためにはさっきの魔王君と合流しましょう!」
「アルマに頼るなど…」
「でもこのままじゃ本当に店も仲間も全て失っちゃうわよ。」
「くそ!!今回だけだからな!!」
「うふふ♪じゃあ行きましょうか!邪魔する人達は少々殴っても良いでしょ♪」
「い…良いのか…。」
こうしてミユミユが繰り出した予想を裏切る策略にしてやられたラヴィ達。
そして―とうとう始まってしまった神をも巻き込んだ戦いに、ラヴィ達は勝機を見出す事ができるのか…。




