第28話 勇者と大悪魔
毎日盛況などり〜むは〜との空気がピタリと止まるような出来事が起きた。
それは黒マッシュこと高柳が来店した事から始まる。
『久しぶりだな!』と言いながら入口のドアを開ける高柳にラヴィが対応する。
「黒キノコよ。何をしに来た?私に再戦の機会を与えに来たと言うなら歓迎しよう。」
「お前は前回からなんなんだ!俺はご主人様だぞ!それに今日は俺一人じゃない。特別ゲストと一緒に来たのさ。」
すると、高柳の後ろから2人の女性が現れた。1人はアルマの店で見かけた悪魔の格好をしたピンクの巻き髪の女性、もう1人は白のチャイナドレスにお団子ヘアーの青髪の女性だ。
ラヴィが嫌な予感を感じていると、後ろからネネがやって来て対応を代わる。
「あらあら〜、おかえりなさいませ高柳様。そしてお久しぶりね。ミユミユ!」
「大悪魔のミユミユたんがメイドさん達をオラオラしにきたよー!!」
「うふふ♪いい歳してまだそんなキャラをしてるのねー♪」
ネネが可愛い悪魔を演じているミユミユに真正面からケンカを売る。それが気に入らなかったのか、ミユミユは周りには聞こえないような小さな声でネネのケンカを買った。
「うっせーよ、てめぇもキャラを作ってるババアだろうが。早く席に案内しろや。」
「相変わらず本性はお下品ね!さぁ、どうぞこちらへ。ラヴィちゃんも私と一緒にお給仕しましょうね。」
何か一悶着がありそうなのを察知して、他のご主人様達は逃げるようにお店を去っていく。そしてネネがミユミユ達を席に案内する頃には店内のご主人様達はいなくなっていた。
「あらあら…これは営業妨害になるんじゃないかしら。で、ミユミユ…何の用なの?そちらの女性はヨルカさんでしたっけ?」
「私の事を知ってるアルか?」
「当然!一本橋の現四天王って呼ばれてるんでしょ?」
ヨルカと呼ばれたチャイナドレスの女性はジッとネネの目を見返している。
そこへミユミユが『おい』と話に割って入ってきた。
「まずは飲み物ぐらい聞けや。」
「あら!ごめんなさいね!何をお飲みになるのですか?」
「生3つ持ってこい。」
「はいはい♪じゃあラヴィちゃんお願いね!あと、ワケあり組以外は退勤させてほしいの。」
「分かった。ルルにそう伝える。」
ラヴィはネネから伝言を預かると、バックヤードにいるルルにその事を伝える。
「たぶんそうだろうなって思って他の女の子達は裏口から帰ってもらったよ。後は何かあった時のために私、レナさん、シルヴィアさん、アヤネはいつでも出れるように待機してる。」
「あいつらは何者なんだ。青髪の女からも相当手練れの気配がするぞ。」
「ピンクの方は『大悪魔のミユミユ』っていうネネさんと同世代の伝説のコンカフェ嬢で、青髪の方はチャイナコンセプトのお店の代表で『現四天王のヨルカ』って人だよ。ヨルカさんはアヤネと1回揉めてるんだけど…その時はアヤネが負けたんだ…。」
「あのアヤネがか!?」
「うん…たぶんだけど…今の四天王の人達はこっちの世界の人間じゃないと思う…。」
「おいルル!ウチは負けてねーからな!ママが止めに来なかったら勝ってたのはウチだから!」
負けず嫌いのアヤネがルルに食ってかかるが、そんなアヤネをレナが『まぁまぁ』と言いながらなだめている。
その横から生ビールを3つ持ったシルヴィアがやって来て、それをラヴィに渡しながら心配そうな顔で話す。
「とりあえず何かあれば私達も出るから、ネネさんに危害が及ばないようにお願いね。」
「分かっている。任せてくれ!」
ビールを受け取ったラヴィが席に戻ると、肌を刺すようなピリピリとした空気が漂っている。
そして、ミユミユはテーブルにビールが置かれた途端にそれを一気に飲み干す。
「プハーーーッ!」
「あらあら、おっさんみたいね♪」
「うるせーよ。で…今日来た目的はあたしが新しくオープンさせるコンカフェのプレオープンにお前を誘いに来たんだよ。光栄だろ?」
「全然!お断りするわね!ルルちゃん!こちらのご主人様とお嬢様がお帰りになるって!お会計だしてあげて!」
ネネはミユミユの誘いを即答で断り、敢えて相手を怒らせるような言い方で煽る。
そのやり取りを静かに聞いていたヨルカが、物凄い気迫でネネを睨みつける。
「おい…あまり調子に乗るなアル。おちょくってるアルか?」
「あら?何か気に障ったかしら?用も済んだみたいだし帰るのかと思ったわ!それとも…私と遊ぶ?」
ヨルカは余裕の笑顔でケンカを売ってくるネネに、無言で席を立つとそのまま殺意を剥き出しにする。
2人の気迫がぶつかり合い、その間の空気が重く張り詰めると『ピシッ!』と音を立てて高柳の前のビールジョッキにヒビが入る。
今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気を遮るかのようにミユミユが話し出した。
「ヨルカ…座れ。ネネももうやめろ。あたしの能力知ってるだろ?これ以上続けるなら能力使って適当な奴をこの店から拉致るぞ。」
「そうね!ヨルカちゃん、また今度遊びましょうか!」
「チッ!」
ミユミユの言う事を聞いて、納得はいってなさそうだが大人しくヨルカは座り直し、ネネは改めてミユミユに質問をする。
「ミユミユ、今更なんでこんな大層な事をしようとするの?私達の時代はとっくに終わってるのよ。また異世界から来た私達がこの世界の人達に迷惑を掛けるの?そんなのは15年前の戦いで終わったの!」
「おーおー、さすがオタクの女神様だ!それに今回はあたしがトップじゃねーよ。やっとあたしは出会えたんだよ!あたしが仕えるに値する神様にな!」
「神様?」
「気になるか?今は言わねーよ!全てはプレオープンの『魔界の晩餐会』で分かるさ!来るも来ないもてめぇの勝手にすれば良い。来なければただ何もできずに全て終わるだけだ。あ、1つだけ教えておいてやる。現四天王は全員あたし側だ…。」
ミユミユは言い終わると席を立つ、それに続くようにヨルカと高柳も立ち上がった。
支払いは高柳の役目なのか、財布の中から一万円札を取り出すとそれをネネに渡す。
「高柳様もこの件の手助けを?」
「ヒヒ!そうだよ!この前言っただろうが!プロジェクトを進めているとな!俺の働いている会社から多額の投資をして、ミユミユ様のお店に女も大量に流した!お前の泣きっ面が楽しみだぜ!」
「あらあら、黒マッシュ如きが首を突っ込んでいい案件ではないのに…死亡フラグがビンビンに立ってますね♪」
「言ってろ!!勝つのはこっちなんだよ!」
高柳が捨て台詞を吐くと、ミユミユとヨルカも出口へと歩き出す。
そして次の瞬間、ヨルカが突然ネネの顔面に向けて裏拳を放つ。何の予兆も殺気も無く繰り出された拳は、常人なら反応もできないままあの世行きの一撃だった。
だが、その拳はネネには届かなかった。なぜなら当たる直前でラヴィがその攻撃を受け止めたからだ。
ネネもラヴィを信じていたのか微動だにせずニコリと笑っている。
「おい!アルアルうるさいお前!私が大人しくしていれば調子に乗って!」
「私の意識外からの攻撃を止めたアルか…お前…何者アルか?」
「勇者アル!!よろしくアル!!」
すると、それをきっかけにバックヤードからルル達が出てきてネネを守るかのように前に並ぶ。特にアヤネはヨルカにガンを飛ばしまくっている。
「あらあら!みんな出てきてくれたの!?どうかしら?ミユミユ。今のどり〜むは〜とは私だけじゃないみたいよ。
そして晩餐会には行くわ。どうやら放ってはおけないみたいだし…。また完膚なきまでに叩き潰してあげるわね!」
笑顔で手を振りながらそう言うネネに、不敵な笑みを浮かべながらミユミユは封筒を投げ渡した。
「日時は明後日の土曜日だ。楽しみに待ってるよ。」
そう言うと、ミユミユ達はどり〜むは〜とから出ていった。
そして『ふ〜〜…』とネネは大きく息を吐く。相手に気圧されてはならないと無理をしていたのか、ゆっくりと近くのイスへ腰掛けた。
「みんなごめんなさいね。ミユミユが何をしようとしているかは分からないけれど、ややこしい事に巻き込んでしまって…。」
「ネネよ!何を言っているんだ!恩を返せる機会がやって来たのだ!どーんと勇者に任せるがいい!」
「そうだよママ!ウチらがどり〜むは〜とを守るからね!」
ラヴィとアヤネに賛同するように、ルルとレナとシルヴィアもうんうんと頷いている。
「みんなありがとうね!じゃあ明後日の晩餐会までに色々準備しましょうか!」
「「はい!!」」
こうしてミユミユからの晩餐会の招待を受けたどり〜むは〜とは、想像を超える大きな戦いへと身を投じていく事となる。
そして、一本橋の中心に位置するビルの屋上で、そんなラヴィ達を見つめるセリーナとヤオの姿があった。




