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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第二章 嵐の前の静けさ編
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第26話 勇者とエルフ

 どり〜むは〜との営業中、ラヴィが1人のメイドをジッと見つめていた。


 その目線の先には、金色―いや、白金と表現した方が良いほど淡く美しい色のロングヘアに、雪よりも白い肌、ルビーのような紅い目のメイドがいる。

 そのメイドの接客スタイルはネネに近いものがあり、丁寧で清潔感溢れるおもてなしを求めてご主人様達がひっきりなしに店を訪れる。

 ただ1つ、見た目の違和感に目を奪われる所がある。それは彼女の耳が大きく尖っているという部分だろう。そう、彼女はこの世界の人間ではなく、異世界からやって来たエルフだったのだ。


「いやぁ…相変わらずシルヴィアさんは美しいですなぁ…。」


「うふ、ありがとうございますご主人様。お世辞でもとても嬉しいです。」


「そ!そんな!お世辞などではないです!そんなにエルフのコスプレが似合う者などこの世におりませんよう!!」


 このご主人様との会話でも分かると思うが、レナが猫耳メイドのコスプレで通してるように、シルヴィアもエルフメイドのコスプレという事になっている。

 そんなメイドの鏡のようなシルヴィアの様子をボーッとラヴィは眺めている。それは何故か…。


「シルヴィア…私とキャラが被っているな…。」


「被ってない!被ってないよラヴィちゃん!ボーッとしてると思ったら何言ってるの!?シルヴィアさんはルルの憧れのメイドさんなんだよ!」


 シルヴィアのご主人様が聞けば苦笑いしか出来ないような事を口走るラヴィに、ルルがかさずツッコむ。


「そんなに拒絶しなくてもいいだろう!見た目は私だってあんな感じではないか!見ろ!金髪だし!美しいし!」


「全然違う。もう…喋らないで…ラヴィちゃん…。」


「ぐっ…そんな可哀想な子を見るような目で私を見るな!」


 ルルが憐れむかのようにラヴィの肩に手を乗せる。そんな2人の後ろをアヤネが通りざまに話しかける。


「まぁ被ってんのは胸の大きさぐらいじゃね?」


「やめてよアヤネ!シルヴィアさんはあれが良いの!あの大きさだから全身の美しさと調和がとれてるの!至高なの!ラヴィちゃんのはペチャってなってるだけ!」


「ルルよ…もう私の心は限界だぞ…。」


 ルルの悪気のない発言により、ラヴィが活力のない目で遠くを見ているとネネが2人の所へやって来る。顔はいつも通りニコニコ笑っているが、ネネの背景に怒りの炎が燃えているのが見えた。


「ルルちゃん…ラヴィちゃん…女の子が大きな声でお乳の話はダメよね〜。元気なのは良いけれど、しっかりお給仕しましょうか?」


「「は!はいー!!」」


 そうして2人はネネの怒りを収めるために一日中馬車馬の様に働いたという。



――どり〜むは〜との営業終了後、ラヴィは1人で街へと繰り出している。最近見つけた穴場の居酒屋で一杯やるためだ。


「クククク!居酒屋でしっぽり飲む…これのために私は生きているのだ!」


 ラヴィがウキウキでスキップをしながら鼻歌を歌っていると、目印の赤い提灯が見えてきた。そして店に着くと豪快に入口の引き戸を開ける。


「こんばんは!また来たぞ!!」


 いつもはラヴィがそう言いながら入ると大将が元気よく返事をしてくれるのだが、今日は何も返ってこない。小さなテーブル2席とカウンターのみの小さいお店なので聞こえなかったという事はない。

 狭いお店のため、原因は入口からでも分かるほど明らかだった、何やらカウンターの奥に1人で座っている女性に大将が絡まれている。


「おい!大将!!イカの塩辛まだ!?酒盗しゅとうは!?スピードメニューなんだから早く出してよ!!おう!?」


「ちょっ!ちょっと待ってね!頼んで3秒じゃさすがに無理だよ!」


 おっさんが好む酒のアテばかり頼み、大将に絡みまくっている女性にラヴィは見覚えがあった。というか丸わかりだった。

 なぜなら白金の髪に尖った耳、どこからどう見てもシルヴィアである。

 衝撃の現場を目撃してしまい、入口で立ち止まっていたラヴィは困り果てた大将と目が合った。


「あっ!ラヴィちゃんじゃないか!どうぞどうぞカウンターへ!」


「あ…あぁ…。」


 助け舟が来たかの如く目を輝かせる大将は、ラヴィをカウンターに座るように促した。大将の手はシルヴィアのほぼ隣を指している。

 元々狭い店内でここまで座る場所を勧められたら断り辛いのだが、それ以上に断れない理由があった。

 ラヴィはすでにシルヴィアからガン見されていたのである。ガッツリと目が合ったままラヴィはシルヴィアの隣へと向かう。

 『なんでここまで目が合ってるのに声を掛けてこないのか…』という恐怖を感じたままラヴィは着席した。


「シルヴィア!お疲れ様だな!私もここにはよく来るんだ!隣…良いか?」


「………。」


(えーー!!なんで無言!?ガッツリ目が合ったまま挨拶したのに!?怖い…怖いよ…。)


 シルヴィアは何も言わずに持っていた日本酒をクイッと飲むと、やっとラヴィに返事をした。


「幻滅したでしょ?エルフってもっと高貴なもんだと思ってたでしょ?」


「いや…私も酒癖は悪いし…キャラが被ってるならその辺も似てるのかなーって思ったぐらいで…。」


「被ってねーよ!営業中もあんたとルルの会話聞こえてたわ!エルフの耳ナメんなよ!ただ、ルルの胸に関しての解釈は素晴らしかった。これは今度ルルを褒めねばならない。」


「す…すみませんでした…。」


 ラヴィは半泣きになりながら大将に瓶ビールを頼む。それをコップについでシルヴィアへ向けて『か…乾杯…』と、恐る恐る言うと『おう。』とおっさんのようにシルヴィアは対応してくれた。

 そして、シルヴィアはちびちびと日本酒を飲みながら語り始める。


「私はさ、人間が嫌いなんだよ。」


「え?」


 メイドになりきり、人間に対してあれだけ完璧な接客をしているシルヴィアから出た言葉だとは思えなかった。



――シルヴィアの本名は『シルヴィエント・ワールド』と言い、四国と同程度の広さを有する『世界樹の大森林』がある世界からこちらへとやって来た。

 シルヴィアは、その森林の中央に位置する世界樹の周りで暮らすエルフの一族として生まれ、その一族の長の娘でもあった。


 苗字の『ワールド』は『世界樹』を表し、その名を継いだ者は世界樹の巫女として生涯を捧げるのが一族の習わしであった。


 シルヴィアが巫女の立場を継いですぐの頃、大森林の外から人間がやって来て資源などを奪っていく事が増え始める。そして、とうとう人間は世界樹の力にも目をつけて侵攻してきたのである。


 この事により、エルフと人間の戦争が激化していき、エルフの民は巫女であるシルヴィアに全てを託そうと動き出した。

 それは世界樹とシルヴィアが一体になり、その絶大な力をもって侵攻してきた人間達を駆逐するというものであった。


 それをシルヴィアは巫女としての使命と受け止めて、世界樹の幹に開いた空洞の入口の封印を解いて中に入る。

 シルヴィアが世界樹の中をどんどん進むと広い部屋のような場所にたどり着く。その部屋の真ん中には、空間がヒビ割れたかのような亀裂が入っていた。

 それが世界樹の力の源だと勘違いしたシルヴィアは亀裂に手を触れた。次の瞬間強い光に飲み込まれて、気付けばこちらの世界に飛ばされていたのだ。


 こちらに来てからは、神を感じる事のできる特性を活かしてすぐにヤオを見つける。

 そしてヤオから異世界間の事情を聞かされた後、ネネを紹介してもらい、同じ異世界から来た者が働くどり〜むは〜とに根を下ろす事になったのだった。



――シルヴィアは自分の生い立ちと、人間嫌いの理由を一通り話すと急に立ち上がった。


「私はセリーナ様にある事を頼まれていてな。少し付き合え。」


「わ…分かった。」


 シルヴィアから聞かされた話の整理もつかぬまま、ラヴィは居酒屋を出てシルヴィアの後をついて行った。

 夜も深まる中、会話が無いまましばらく歩いて辿り着いたのは一本橋の外れにある神社であった。鳥居をくぐって中に入り、真っすぐ歩いていると大きなしめ縄のされた立派な杉の木が堂々と立っていた。

 そして、杉の木を前にしてシルヴィアがセリーナから頼まれた事の説明を始める。


「これをこの国では御神木と呼んでいるらしい。神の依代としての役割もあるらしく、セリーナ様からは年老いたこの木に力を蓄えさせておくよう頼まれた。来たる戦いのためだとかなんとか言ってな。」


「シルヴィアにはそれができるのか?」


「私は世界樹の巫女だった。植物などの記憶を読み取ったり、力を与えたりなどは朝飯前だ。だがな…。」


「人間のためというのが気に食わないか?」


「それはそうだろ!身勝手な自己中心的な人間との戦争で私の仲間が何人殺されたと思っている!?そんな人間のためになど…。」


「では何故どり〜むは〜とで働いているのだ?人間と働き、人間を接客する…嫌ではないのか?」


「分からない…この世界の人間は私の知る人間とは違うようにも感じるが…。」


「さっき記憶を読み取る事もできると言っていたな?その御神木の記憶を読み取ればどうだ?」


「…………。」


 シルヴィアは何も言わずに御神木を見上げるように見る。


「そうだな…木は嘘をつかない。」


 そう言うとシルヴィアはラヴィの提案を受け入れて静かに杉の木の幹に手を触れた。

 そこからシルヴィアの頭の中に流れてきたイメージは暖かいものだった。

 『まだ小さな杉の木を大切に育てる者』『この杉の木の下で愛する人に気持ちを伝える者』『子供達が楽しそうに走り回っている姿』こういったイメージが止め処無く頭に流れてくる。


 そんな杉の木の記憶を読み取ったシルヴィアは、そっと手を離すと複雑な表情で笑う。


「私にはまだ分からないが、この杉の木にとって人間は良いものらしいな…。」


「本当は分かっているんだろ?この世界の人間が前とは違うと。」


「それでも人間を信じ切れないほどの事をされてきたんだ。そんな簡単な事じゃない。だが…」


 シルヴィアが言葉の途中でもう一度御神木を見上げる。


「だが、ネネやどり〜むは〜とで出会った人間はやはり守らなければならないと思ったよ。だからセリーナ様の依頼を受けようと思う。」


「ふふ、良いんじゃないか?お互い少しずつ歩み寄っていければ…。」


「ラヴィに胸の内を話せて良かったよ。さすが勇者だな。」


 そしてシルヴィアから光が現れて宝玉に吸い込まれる。


【善の力を手に入れました。 種類は信愛。】


 この日からシルヴィアは、人にバレないように毎日深夜に御神木を訪れて、年老いた御神木が力を取り戻せるように儀式を行うのであった。

 また心の底から人間と笑い合えるように…。

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