第24話 勇者と魔法使い
「てめぇ!!またトイレットペーパー使い切ってるのにそのままだったろ!!補充しろや!!」
「トイレ?何の事だ?私はトイレになど行かんぞ。勇者だからな!」
「アイドルだからトイレ行きませんみたいな事言ってんじゃねーよ!!」
最近のどり〜むは〜との朝は、ラヴィとアヤネのうるさいケンカから始まるのが恒例となっている。
アヤネが他店からどり〜むは〜とに帰ってきてから、店の二階ではラヴィとアヤネの共同生活が始まっていたのだ。
「ちょっとー!二人共早く用意してよ!オープン作業を手伝ってくれないと!」
ケンカばかりで中々店に顔を出さない2人をルルが呼びに来る。ラヴィ達が取っ組み合いをしているのを見ると慣れた手つきで急いで止めた。
「もう!いい加減にしてよね!ネネさんから仲良くしなさいって言われてるでしょ!」
「こいつがトイレットペーパーをきちんと補充しねーからだよ!」
「うるさいぞアヤネ。お前だって足臭いだろう。」
「てめぇ!!!」
せっかくルルがケンカを止めたのに、2人はまたすぐに胸ぐらを掴み合っている。
そんな2人に呆れたルルは、手のひらを広げて2人に向ける。まるで手から何かを放つかのような素振りであった。
「撃つよ…魔法…。」
「す…すまなかったな…ルルよ…もう止める…。」
「あ…あぁ…ごめんごめん。だからその手を下げてくれよ。」
ルルのその姿を見ると、あれだけうるさかったラヴィ達が何かに怯えるように素直に出勤の準備を始めた。
『メルル・セントリア』、ルルの本名である。彼女は魔法学院が国を統べる世界からこちらへと飛ばされてきたのだ。ネネが保護している異世界から来た女の子の一人である。
ラヴィの『メガネ=魔法使い』という無茶苦茶な方程式が間違っていなかったのだ。
――お店がオープンすると、キッチン内で忙しそうに一人で料理をしているルルがいた。その類まれなる料理の腕をネネに認められ、副メイド長でありながら料理全般を任されている。
そんな忙しいルルに、ご主人様からの注文を伝えにラヴィがやって来る。
ラヴィはバタバタとしているルルを見て、ふと疑問に思った事を聞いてみる。
「ルルよ、何故魔法を使わないんだ?魔法を使えば簡単に仕事も済むだろう。」
「いや、ダメでしょ!こっちの世界では魔法なんてないんだから!ラヴィちゃんとアヤネがちょこちょこ力見せてるのがおかしいんだって!…それに…。」
ルルは言葉の最後を濁すように言うと、料理の手を止めてしまう。いらない事を聞いてしまったと思い、ラヴィは慌ててルルへ謝罪した。
「すまない。みんな色んな事情があるのに踏み込みすぎたな。」
「いやいや、ラヴィちゃんが謝らないで!大丈夫だから!」
「そうか…では私はホールへ戻るぞ。」
キッチンから出ようとしたラヴィは、一度振り返りルルに一言だけ伝える。
「ルルよ、私は仲間だからな。」
それだけ言い残してラヴィはホールへと戻っていった。その一言でラヴィが何を言いたいのかをルルは理解した。
『仲間だからいつでも頼っていいからね!』
これは自分がラヴィへと贈った言葉だ。ラヴィも同じ思いなのだろう、ルルはそう感じた。
だが、ルルには魔法を使えない最大の理由が前に居た世界にあったのだ。
――ルルが前にいた世界、そこでは魔法が全てだった。その中でも、魔法の国で最も権威のある機関である魔法学院。それは王族をも超える権力を持ち合わせており、その学院の首席ともなれば将来は国のトップを約束されるようなものであった。
ルルは貧しい家の生まれというハンデを感じさせない程、魔法の才能に満ち溢れていた。魔法学院の首席の座を争うまでに…。
そして、それはその年の首席を決める『魔法大会』の決勝戦で起きた。
決勝に名を連ねたのはルルと、上級貴族の長男であるボストンという男だった。
試合が始まると同時にルルは自分の体の異変に気付く。魔力がどうも上手く練り上げられないのだ。理由はすぐに分かった。ボストンの手の者が会場の陰からルルに阻害魔法を掛けていたのだ。
それを知ってか知らずか、ボストンは怒涛の勢いでルルに魔法を撃ち込んでくる。
ルルは負けじと阻害魔法を打ち破るために自分の中の膨大な魔力を解放する。それを制御できる自信と才能が自分にはあると思っていたからだ。
だが結果は違った。ルルの魔力は暴走し、会場どころか国の半分を飲み込んでしまうほどの大災害になってしまった。
ルルは魔力の制御ができないまま、その絶望と恨みに包まれて死んでゆく者達の顔を見た。
そして、自分にも魔力が襲いかかろうとした時、次元に亀裂が入り、一本橋の世界へとやって来てしまったのだ。
その後はネネと出会い、トラウマで魔法が使えないまま今に至るのである。
――そして話は今に戻る。
お昼の忙しい時間帯も終わり、ルルとラヴィは足りなくなった食材の買い出しに向かっている。ラヴィはさっきの事があったので心配そうにルルを見るが、ルルはいつも通り明るくご近所さんに挨拶しながら歩いている。
その時だった、ラヴィ達の目の前を車が通り過ぎようとしたところ、猫が飛び出して轢かれてしまう。
それを目撃したラヴィ達がその猫の元へと駆け寄るが、猫は今にも息を引き取りそうな瀕死の状態だ。
「ルル!魔法でなんとかならないか!?」
「治癒魔法は…あるけど…ダメだよ…。私が魔法を使ったら…また!」
ルルは猫を助けたいという気持ちで一杯なはずであった。そうでないと血まみれの猫をここまで抱きしめることなどできない。
涙を流しながらトラウマに押し潰されそうになっているルルの肩を、ガシッと力強くラヴィが抱き寄せる。
「ルル!大丈夫だ!そばに私がいる!何が起きようと必ず私が何とかしてやる!信じろ!」
ルルが見たラヴィの目は純粋で、人の弱くなった心を奮い立たせるような力を持っていた。ルルはあの頃とは違う、今は自分をこうやって助けてくれる仲間がいる。そう思うと自然と勇気が湧いてきた。
「ラヴィちゃんはやっぱり勇者なんだね!私…やってみるよ!」
ルルはそう言うと両手に魔力を集めて治癒魔法を使う。優しく仄かに光る腕に包まれた猫は傷がみるみる治っていく。
すっかり元気になった猫は『ありがとう』と言うように『ニャー!』と鳴くと路地裏へと走っていった。
肩で息をしながらボーッとそれを見ていたルルの頭にポンッとラヴィが手を置く。
「できたではないか!凄いな!ルルは!さすがメガネっ娘だ!!」
「えへへ…ありがとうね…。メガネは関係ないけどね!」
ガハハハ!と笑いながら褒めてくれるラヴィを見て、少し照れくさそうになりながらルルは心の中で思う。
(ラヴィちゃん…ありがとう。これで前の世界で私がした事が…なかった事になんてならないのは分かってる。けど…この世界では私の魔法でみんなを守っていきたい…そう思えるようになったよ!)
そしてルルの体から光が現れてラヴィの宝玉へと吸い込まれる。
【善の力を手に入れました。 種類は克服。】
「さぁルル!買い出しを終わらせて店に戻ろう!」
「うん!!」
こうしてラヴィとルルの間で、より一層絆が強く結ばれるのであった。




