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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第二章 嵐の前の静けさ編
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第23話 勇者、初指名は魔王!?②

 コカボムを待っている間、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、ラヴィもアルマも一言も喋らずにテーブルを指でトントンしながら足のゆすりが止まらない。2人共こちらの世界に来てからお酒での苦い思い出が増えたのだろう。


 そして、白石がラヴィ達のテーブルへとコカボムを持ってきた。ラヴィとアルマ、それぞれの前に5杯ずつ並べられる。

 さっきまでの争いを知らない白石が空気を読まずに煽ってくる。


「いやぁ!コカボムだなんて凄い盛り上がってるみたいですね!羨ましい!!」


「おい、白石よ。今から魔王と勇者の決戦が始まるのだ。フザけているのなら…呪い殺すぞ。」


「ムッツリエロ眼鏡魔導士。今すぐ消えるんだ。私は今…殴れるなら誰でもいい気分なんだ…。」


「ムッツリエロ!?なんなんですかもう!アルマさんに関しては変な事言ってると家を出ていってもらっても良いんだからね!」


「白石よ…ほんとごめん…。追い出すのは勘弁してくれ…。」


 理由もわからずボロクソに言われた白石はプンプンしながらキッチンの方へと帰っていった。

 そして、ラヴィは初めて見る黄色と緑色の飲み物に恐怖している。


(ななななんだこの奇妙な色の飲み物は!?毒だろ!こんなん毒でしか見た事ないもん!アンデッドのゾンビウルフがこんな感じの色のヨダレ垂らしてたもん!!)


 そんな恐怖の中、恐れている事をアルマに悟られてはなるまいと、ラヴィは必死で平気そうな表情を作っている。だが、ふとアルマの顔を見ると魔王は違った。薄ら笑いを浮かべながら堂々としている。


(こいつ!この飲み物に何も恐怖を抱かないのか!?さすが魔王と言うべきか……ん?)


 ラヴィがよくよくアルマの顔を見ると、アルマはただ恐怖のあまり格好つけた笑顔のまま気絶しているだけだった。


 このままでは話が進まないのでカンナと蘭が勝負の開始を告げる。


「それじゃあいくよ!2人ともグラスを持って!スタートー!!!」


「ラヴィちゃん頑張れーー!!」


 開始と同時にラヴィもアルマも『南無三!!』という気持ちで一気にコカボムを飲み干す。カーンと小気味よい音を鳴らして2人はグラスをテーブルに置く。


「あ、あれ?中々美味しいんじゃないか?」


「うむ、我はテキーラよりもこちらの方が好みかもしれんな!」


 コカボムを飲んだ2人の感想は意外なものだった。しかし、ここからがこのコカボムの怖いところである。

 蘭やカンナに煽られて、杯数をどんどん重ねていくラヴィとアルマは楽勝ムードで飲み干していった。


 異変は4杯目を飲み終わった時…突然現れる。先にそれを感じたのはラヴィだった。


(おいおいおいおい!なんだこれは!!急にキタぞ!!さっきまで普通だったのに!!もう!ベロベロになっちゃう!!間を全部すっ飛ばしてベロベロになっちゃう!!やはり!毒だったんだ…!!)


 これがコカボムの恐ろしいところである。突然来るのだ…『意外とイケるね!』なんて言ってるのも束の間…気付けばトイレとお友達になっている。


 ラヴィは、自分もこんなに苦しんでいるのだからアルマも死にかけているはずだと思い、アルマの顔を伺うように見る。


 そこには完全なる素の顔のアルマが居た。仏の顔レベルの素の顔である。悟りを開かなければできない表情だろう。思わずカンナが『え…人ってこんなに素になれるの…。』と言ってしまうほど素だった。


「あー…これは…アルマっち死んでるね…。しかも2杯で…。」


 蘭がアルマの意識を確認したところ、KOしている事が判明した。それを聞いたラヴィは勝ちどきをあげる。


「巨乳勇者は負けないのだ!!!!」


((巨乳じゃねーだろ!!!))


 蘭とカンナの2度目の心のツッコミと共にコカボム対決は終了し、見事に勇者であるラヴィが勝利を飾る。それと同時に明日からのアルマのトイレ掃除も確定した。

 だが、勝利したラヴィもそのまま酔い潰れてダウンしてしまう。


――1時間は経っただろうか、とてつもなく嫌な気配を感じてラヴィはガバッと飛び起きた。アルマも同じように酔いから冷めてその気配の方へと顔を向けている。

 2人が気配を感じた方向、そこには白スーツを着た瑠偉が立っている。瑠偉は視線に気付いたのか、ニコニコしながらラヴィ達のいるテーブルへとやって来た。


「蘭ちゃんもアルマちゃんも久しぶりだねー!そちらの金髪の姫は初めましてかな?また今度ゆっくり話そーねー!じゃあ僕はこれで!」


 瑠偉が軽く挨拶を終えると、急ぐように奥の席へと向かっていった。

 『おぞまましい』―ラヴィが瑠偉に抱いた感想はこれだけだった。人間ではないナニカと思ってしまうほど気持ちが悪かった。勇者であるラヴィは人一倍敏感に『悪』そのものに反応してしまうのが原因だろう。


「アルマ…ちょっとこっちに来い。」


「分かった。」


 ラヴィは席を立ってアルマを違う場所へと誘う。アルマが素直にこの誘いを了承したのは話される内容が分かっていたからだろう。

 そして店内から店の入口へと続く廊下に2人は出る。幸い人はいなかった。


「おい!あいつは一体何者なんだ!?」


「分からん…が、人である事は間違いないだろうな。」


「あれで人だと!?あんな気持ちの悪い悪意はお前からも感じた事がない…。放っておくと大変な事になるぞ!」


「ふん、分かっておるわ。我に害をなすと感じた瞬間始末してやる。」


「弱ったお前で勝てるのか?」


「どれだけ悪意が凄かろうが所詮体は人間。我が負ける事はない。」


 その時、店の入口の扉が開くと1人の女性が入ってきた。その女性はピンク色の巻き髪で悪魔の格好をしている。ラヴィはその女性からも瑠偉と同じような悍ましさを感じ取る。

 店内の扉が開くと、その女性を迎えたのは瑠偉だった。その2人が出会った瞬間、より一層強くなった悪の感情がラヴィ達を襲う。

 パタン…と扉が閉まるまでラヴィとアルマは会話すらできなかった。


 そしてラヴィは、この前のネネやアヤネ、そしてどり〜むは〜との事情をアルマに説明する。


「先日…女神様から知らされたのだが、この世界にも私達のような異世界から来た者達が潜伏しているようだから注意しろと言われた。私の働いている店にも数名いる。アルマ…お前も気を付けていた方が良い。」


「いらぬ世話だ。どこの世界の住人であろうと我が後れを取るわけがなかろう。」


 人の話を聞こうとしないアルマにラヴィが念押しをしようとするが、店内から蘭とカンナが出てきたのでこの話はここで終わってしまった。


「ラヴィちゃーん!帰ろー!今日はカンナが奢ってあげたから安心してね!」


「いや!それは悪い!私も払うから金額を教えてくれ!」


「いいのいいの!蘭もアルマ君もまたねー!」


 そう言うと、カンナはラヴィと腕を組んで一緒に店を出ようとするが、ラヴィは無理矢理立ち止まって真剣な顔でアルマに言い残した事を伝える。


「おい、巨乳様と呼べ。」


 ラヴィはさっきの勝負のツケをきっちり払わせようとしたのだ。


「ぐ…………巨乳…様…ありがとう…ございました…!」


「ではまたな!酒ザコ魔王君!」


 こうして満足したラヴィは、一抹の不安を胸に抱えたままカンナと一緒に帰るのだった。



 この日は、来たる日に激しい戦いを繰り広げるであろう『ラヴィ』『アルマ』『瑠偉』『ミユミユ』の4人が初めて邂逅した日であった。

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