第20話 勇者 VS アヤネ
アヤネの常人では到底考えられないような猛攻にラヴィが必死で食らいついている。間一髪の所でなんとかガードは間に合っているが、アヤネのガードごと突き破ってくるような攻撃にラヴィは一旦距離を取るために下がる。
(なんとか防いでるけど、このままじゃガードしてる腕や足が動かなくなる!あいつの異様な攻撃力はなんなの!?私は元々格闘が苦手…剣さえあれば…。)
「おいおい!逃げてんじゃねーよ!てめぇ!!」
ラヴィがせっかく距離を取ったのに対して、アヤネはたった一度の踏み込みでその距離を詰めてくる。
その時、ラヴィの視界の端に太めの木の枝が落ちているのが見えた。物凄いスピードで突っ込んでくるアヤネをギリギリで躱し、ラヴィはその木の枝を拾って構える。
ラヴィが木の枝を剣に見立てて構えた瞬間、アヤネをとてつもない悪寒が襲う。それは、まるで無数の手が自分の身体にまとわりついて動けなくなるような感覚であった。
遥か高みから発せられるようなラヴィの威圧に、アヤネはピクリとも動けない。
「てめぇ…木の枝持っただけなのに…なんなんだよそれ…。」
「はぁ…はぁ…、私は勇者だ。剣さえあれば誰にも負けん!」
「それは剣じゃねーだろ!とことんやるならウチだって本気でやるからな!」
アヤネが重心低く左手を前にして半身で構えると、腰で構える右手が白いオーラを発し始めた。
今にも殺し合いに発展しそうなラヴィとアヤネを、止めることなく見ているネネとセリーナ。セリーナは間に入りたくても、先程のネネの言葉の真意が分かるまで次に進めなかった。
「お主…わしをなんと呼んだ?」
「うふふ…女神様…ですよ!」
「何故この世界のお主がそれを知っておる!?それにあのアヤネという者もこの世界の人間ではないように見える!お主らは一体何者じゃ!?」
「その事については後でゆっくりと話しましょう。今はあの子達を止める事が先決です。このまま続けさせるとどちらかが死んでしまいます。」
セリーナ達が会話をしている間に、アヤネはラヴィの放つ凄まじい威圧に負けず、ラヴィへと一瞬で距離を詰める。そして白いオーラを纏った右手で掌底の構えに移る。
「食らいやがれ!!」
しかし、掌底を放とうとしたアヤネの目に先程まで見えていなかったものが見える。
それは、ラヴィがゆっくりと上段の構えを取った時に起きた。さっきまでただの木の枝だったものが、今は刀身が4mを超える化け物のような禍々しい剣に見えたのだ。
ラヴィの放つ威圧が見せたその幻は、ラヴィの底の見えない実力を知らしめると共に、またアヤネの動きを止めるに至った。
「なんだよ…それ…てめぇなにもんだよ…。」
「私は!勇者だ!」
その時、2人の動きが止まった隙に、ネネが間に入ってアヤネの頭に強めのチョップをする
『ズバン!!』と入ったチョップの衝撃で、アヤネは思わず頭を押さえながらしゃがみ込む。
「いってぇー!!何すんだよママ!!」
「何すんだよじゃないでしょ!最後まで話を聞かずになんでラヴィちゃんをイジめるの!!」
「だって!あいつがおちょくってきたからだよ!」
「だってじゃありません!ラヴィちゃんに謝りなさい!」
「ぐぐぐぐ……。」
アヤネは納得いかない気持ちであったが、ネネを前にすると従うしかない。そして、悔しいながらもアヤネがラヴィへ謝るためそちらへ顔を向ける。
だが、ラヴィはこれでもかというぐらいニヤニヤしながらドヤ顔でアヤネの謝罪を待っている。
「てめぇ!なんだよその顔!心底ムカつく顔しやがって!!」
「ん?ネネに謝れと言われたのではないのか?ほれ?謝れ。ほれほれほれほれ…」
『ゴチーーーーン!!!!』
セリーナは調子に乗っているラヴィに渾身の拳骨をブチかますと、岩が割れたのかと思うぐらいの音が鳴り響く。
「ヘブッ!?!?」
「お主もじゃ!アホラヴィ!!何を本気で戦おうとしておる!?また繰り返すのか!?」
セリーナの『繰り返す』という言葉の重みがラヴィの脳内にあの悪夢を思い出させる。そして悲痛な顔をした親子の顔がラヴィを責めるように頭の中に浮かび上がった。
「すいませんでした…もう…繰り返しません…。」
「うむ。勇者の力は無いにしろ、お主の力は強大なのじゃ。気を付けるように!」
「はい…。」
「でじゃ!一旦落ち着いた所で…ネネと申したな…。お主から話を聞かねばならん。良いな?」
セリーナが幼女とは思えない鋭い眼光でネネに問いかける。
「えぇ!当然です!ですが…この状況では少し話し辛いですね〜。」
セリーナの問いにすんなり了承したネネだったが、周りを見渡すと結構な数の野次馬が集まっていた。ラヴィとアヤネの激しいバトルを映画の撮影か何かだと勘違いしているようだ。
こんな状況では話もできないのでネネが場所を変えようと提案する。
「ここではなく、静かな場所に行きましょう。じゃあセリーナちゃん!こちらへどうぞ!」
「それは良いが…女神とバレた後にその呼び方はなんかのー…。」
「アヤネとラヴィちゃんは先にお店に戻っていてね。」
まだ話が飲み込めていないラヴィが戸惑いながらセリーナの方へ目配せをする。その困った顔にセリーナは『大丈夫』という意味を込めて静かに頷く。
「分かった…。では私は先に店の方へ戻っている。」
ラヴィは買ってきた物を拾い上げると、どり〜むは〜との方へと歩き出す。
「おい!てめぇは遠回りして帰れよ!ウチと並んで歩こうとすんな!」
「ん?誰だ?あー!さっきチョップで半泣きになってたアヤネではないか!」
「てめぇも拳骨で泣いてただろうが!!」
また言い合いを始めた2人に、セリーナとネネが怒気を纏って静かにキレる。
「まだ…やるの…?」
「ママ…ごめんなさい…仲良く帰ります…。」
「ラヴィよ…拳骨ではなく、アルマのようになりたいか?」
「ごごごごごべんなしゃい…!」
こうして2人は、恐怖でボロ泣きのラヴィをアヤネが慰めるように寄り添いながらトボトボと歩いていく。
「では…向こうの公園でお話しましょうか!」
「そうじゃな。もしいらぬ事をしようとしたら手加減はせんぞ。」
「大丈夫です。そんなつもりはありません。」
そして2人でしばらく歩き、公園に着くとセリーナとネネはベンチに座る。セリーナが一切警戒を解いていないからか、2人の間に重苦しい空気が流れる。そんな中、先に口を開いたのはセリーナだった。
「単刀直入に聞くが…お主らは何者じゃ?」
「女神様が感じておられるように、私達はこの世界の人間ではありません。気付けばこの世界に飛ばされていた『漂流者』なんです。」
「あの娘もか?」
「えぇ、あの子とは10年前に一本橋の片隅で出会いました。こちらの物ではないボロボロの服を着ているのを見て、すぐに私と同じ漂流者だと気付いたのです。」
そう言うと、ネネはぽつりぽつりと少し遠い目をしながら自分とアヤネの事を語り始めた。




