第2話 勇者と魔王!異世界転移する!
女神は何もない空間からビー玉サイズの2つの宝玉を取り出す。それを一つずつラヴィとアルマに手渡した。
「これは『金色の宝玉』。この宝玉は人々の多様な感情…そう!愛や感謝などの善の想いを吸い込み、この中にそれらを溜め込むことができるのじゃ!そしてこの宝玉が満たされる時、その絶大な力をもってこの荒廃してしまった世界を修復する事が可能になるのじゃ!」
その説明を聞きながら2人は女神から渡された宝玉をジッと見つめ、ラヴィが先に女神へと質問を投げかける。
「『金色の宝玉』ですか…。略して金玉とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「そういうとこじゃ!クソ真面目バカ勇者!お主は金玉がどういった意味か分かっておるのか!?」
「クハハハ!!そういう事なら我には必要ない!!何故なら我の股間にはもうすでに2つの…ゲファ!!!」
下品な事を高々に宣言しようとしたアルマの顔面に慈愛に満ちた女神の渾身の右ストレートが叩き込まれる。死へと一歩踏み出してしまったアルマを完全に無視し、ラヴィがまた女神へと質問をする。
「女神様、よくは分かりませんが…これを持って世界を旅しながら人々から感謝されるような事をすれば良いのですか?」
「ふむ、やっと理解し始めてくれたか。だがな、この世界の人々はもうお主らにそんな善の感情を抱く事は0なのじゃ。何故だか分かるな?」
「勇者様にそんな愛などの感情を抱くのは畏れ多い…だからでしょうか?」
「あー…凄いのー…凄い純粋な目でクソみたいな事を言ってきおる…。バカと真面目が合わさるとこんなにややこしいものなのかのー…。」
我慢の限界をむかえた女神はラヴィとアルマの胸ぐらを掴んで持ち上げながら怒声をあげる。
「『恐怖』じゃ!!!この世界の人々がお主らに抱く感情は恐怖しかないのじゃ!!!もうそれぐらい人々の心は勇者から離れておる!!!」
「ぐっ…、ならばどうすれば良いというのですか!?」
女神は大人しくなった2人をドサリと地面へと落とすと、少し離れた位置へ向かって両手をかざす。そして神々の言葉で呪文を唱える、するとその場所に光の渦のようなゲートが姿を現した。
「お主らは今からこの『コスモゲート』を使って異なる世界へと行き、そこに住まうお主らの事を知らぬ人々から善の感情を集めるのじゃ。
じゃが!向こうでまた同じ事が起きてしまってはならぬ!よってお主らの勇者と魔王の力は取り上げさせてもらうがの!」
どんどんと女神のペースで話が進む中、アルマはヨロヨロと立ち上がりながら反抗的な態度で女神へ言葉を返す。
「ちょっと待たぬか!人々が我に恐怖を抱いておるのであれば魔王として至極まともではないのか!?何故我がわざわざ異なる世界へ行き、善の感情など集めねばならぬ!?そんなものはお前ら2人でなんとかすればよかろう!帰らせてもらうぞ!!」
そう言い残して踵を返し場を去ろうとするアルマだったが、いとも簡単にその背を女神がとり、女神はそのままアルマの耳元で囁いた。
「お主…わしが女だからと甘く見ておらぬか…?わしが本気を出せば…お主など刹那の間に細切れにできるのだぞ…分かったら大人しくそのゲートで旅立つが良い…この世界のためにな…。」
「わ…分かり…ました…。す…すびばせんでした…。」
今まで味わったことのない、1ミリでも指先を動かせば殺されるという威圧感にアルマはただ半ベソをかきながら頭を縦に振るしかなかった。
そして女神はパンッと手を鳴らすと満面の笑みで2人を送り出そうとする。
「よし!では2人とも納得のもと働いてくれるのじゃな!わしもこちらでの用事が済めばすぐにお主らの元へと駆けつけるので安心せよ!向こうでの言語などはその宝玉の力で勝手に翻訳されるから大丈夫じゃ!
あ!あと、お主らの力は預からせてもらうが、生まれ持ったスキルなどはわしでもどうにもできんから向こうでも使えてしまう。だからといって調子に乗ってるとわしがボコボコにするからの!気をつけるように!!」
「え…でもどうしよう…私は着替えも何も持っていないので取りに帰りたいのですが…この金玉だけではどうも不安です…。」
「我も居城の蝋燭の火を消し忘れたかもしれん。鍵もかけたであろうか…。はっ!ペットのシャイニングドラゴンのエサもやっておかねば!一度失礼する!」
いざとなるとワタワタしだして変な理由を並べるラヴィとアルマ。そんな一歩も踏み出せない2人に対して女神は、惑星をも貫くと噂される女神のドロップキックをブチかまして無理やりゲートに吹っ飛ばした。
「早う行かんかい馬鹿共が!!」
「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
こうして無事2人を送り出した女神は静かに空を見上げて独り言を呟いた。
「すまんのー…ラヴィとアルマ…お主らはこれからとてつもない災難に襲われるかもしれんが…頼りにしておるぞ…。」
そんな暗い未来を暗示するかのように、先程まで満天の星空だった空には暗雲が立ち込めるのだった。
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その頃、ゲートを通じて異なる世界へと放り投げられたラヴィとアルマは重い身体を起こしながら辺りを見渡す。
そこは建物の裏だったらしく、人影は一つも見えない。暗い路地の奥に見える光を頼りに歩き、そこを抜けると2人の目の前に広がるのは城のような建物や、商店のようなものが立ち並ぶまったく見たこともない光景だった。そんな場所を大勢の人が闊歩している。
「なっ!なんなんだこの場所は!こんな所で女神様は私に何をしろと言うのだ!」
「あのババアめ…我をこんな理由の分からん場所に送りよって!」
そんな時、右も左も分からず喚き散らす2人を遠くから見つめる太めの男がいる事にラヴィは気付いた。
「なんだ…あの頭にバンダナを巻いた変な格好をしたオークは…。何か段々と顔を赤らめていっているぞ…。」
「ハァハァ…………金髪女騎士……………尊い…。」
突然の変態オークとのエンカウントに戸惑うラヴィ。しかしそれはオークなどではなく、我々のよく知る『オタク』という特殊生物だったのだ。
そう!ここは地球の日本にあるオタクの集まる街『一本橋』!このオタクの楽園でラヴィとアルマの波乱に満ちた日常が始まるのである!!




