第19話 勇者と暇を持て余した女神!
今日はどり〜むは〜との給料日である。ネネから手渡しで給料を貰ったラヴィは、お給仕がお休みだったので、いつもの上下黒ジャージに着替えて『あるもの』を買いに街へと繰り出す。
そして、目的のものを買った帰り道、遠くに見覚えのあるシルエットが目に入った。それはケバブ屋の前で、店主の男性をガン睨みしているセリーナである。どれだけの時間ケバブを眺めていたのかは知らないが、外国人の店主はひどく怯えているようだった。
「何してるんですか?女神様…。」
「ぬおっ!ラヴィか!な…何もしておらん!こやつが悪神ではないかと思ってな…。」
「この怯えているトルコ人が悪神なわけないですよ…。」
「お主…トルコ人とかそんな事も分かるのか…。」
「この人に出身がどこだとか聞いたんです。私もたまに買いに来ますから。で…欲しいんですか?ケバブ。私は今日給料日だったので買ってあげますよ。」
「ほ!本当か!?」
セリーナは目を輝かせながらラヴィの申し出に食い付いてくる。その幼女がはしゃぐ姿を見てラヴィの胸はキュンキュンが止まらない。
「可愛い…。よし!良いですよ!私が女神様に貢ぎましょう!」
「いや…別に…欲しかったわけではないのだが…ラヴィがどうしてもと言うなら…食べてみようかのー。」
そしてラヴィは、慣れた手つきでケバブを買ってセリーナに渡す。
「うまそーじゃのー!どれどれ(ぱくり)……うっ!美味い!美味いなーこれは!」
「そうでしょそうでしょ!私達の居た世界にも似た肉料理はありましたがここのは段違いです!」
(メガミダトカ、セカイガドウダトカ、コイツラアタマオカシイ…。)
ラヴィとセリーナの会話の内容で恐怖が増したトルコ人店主はさておき、2人は仲良く並んで歩き出した。
「で、女神様は一体この近辺で何をしていたのですか?」
「ギクリ…いやぁー!こちらの世界を勉強しようと思ってな!」
「勉強…ケバブの前に長時間居たのにですか?」
「ぐっ!どんな事でも勉強は勉強じゃ!」
「暇…なんですか?」
ラヴィのその質問に一段とドキリとしたセリーナは、もう隠す事が面倒になったのか、大声で不満を漏らし出す。
「そうじゃ!暇なんじゃよ!親友のヤオは忙しいからか姿を見せんし!悪神関連も何も起きんからする事もないし!ブラブラと散歩しておったらたまたまいい匂いがしたからあそこにいたんじゃ!
暇過ぎてアルマをシバきに行こうか迷うくらい暇だったんじゃ!」
ジタバタと駄々をこねる幼女の女神に萌えがMAXになったラヴィはたまらずセリーナを抱き締める。
「お!おい!何をするんじゃ!」
「ハッ!?無意識でした!すいません!つい可愛さが限界突破していたので!」
「ぐぬぬ…この姿では女神の威厳が足りぬか…。」
「あのー、良ければ色んな所見に行きますか?私で良ければ付き合いますよ!」
「本当か!?ならばラヴィのおすすめの場所に連れて行ってくれ!」
「勿論です!では行きましょう!!」
そしてラヴィはセリーナの手を引いてある場所へと向かった。
――そして1時間後、何故かラヴィとセリーナは裸にタオルを巻いただけの姿で灼熱の部屋に座っている。
ダラダラと汗を流し、無言で熱さにひたすら耐えている2人だったが、堪らずセリーナが口を開く。
「お…おい…なんなのだ…ここは…。」
「サウナです。」
2人がいる場所は、部屋に風呂が付いていないラヴィがよく来る銭湯のサウナである。
「何が…楽しいのじゃ…死にそうなのじゃが…。」
「私のご主人様のハゲの武夫が勧めてくれたのです。最高に整うんだぜ!と…。」
「意味が…分からん…誰じゃ…ハゲの武夫って…。もういい!わしは出るからな!」
「あっ!女神様!出るなら私も出ます!この部屋から出た後は、シャワーで汗を流して水風呂に浸かるんです!そしてまたサウナに入る!それを3回ほど繰り返します!」
「は!?イカれとるんか!?」
それでもラヴィは、本気で嫌がるセリーナを無理矢理サウナループに参加させる。精一杯拒否するセリーナだが、幼女の姿ではラヴィには敵わずされるがままだった。
そして3回目のサウナループが終わり、ラヴィとセリーナは簡素な露天風呂で外気を浴びる。さっきまで嫌がっていたはずのセリーナの顔は幸福感に包まれていた。
「これは…凄いのー。体に溜まった疲れが溶け出して癒されるようじゃ…。」
「そうでしょ?最近私はこのためにお給仕をしているようなものです…。でもですね、これにはまだ最後の締めが残っているんですよ!」
「な!なんじゃと!まだ何かあるのか!」
――10分後…銭湯の番台の前で、風呂から上がって着替えたラヴィとセリーナがフルーツ牛乳を片手に立っている。
「女神様!このフルーツ牛乳をサウナ終わりに飲むのが最高なんです!」
「そうなのか!ではさっそく…」
「お待ちを!!これには飲み方がありまして!片手は腰に当ててグイグイグビグビと一気に飲み干すのが流儀であります!」
「なんと!?分かった!ではゆくぞ!」
そして2人は同時に勢い良くフルーツ牛乳を飲み始める。ゴクリゴクリと渇いた喉に冷えたフルーツ牛乳が流れ込んでくる。それはセリーナのサウナでの苦痛を全て洗い流し、渇きからの解放で思わず目に涙が溜まるほどの多幸感に満たされる。
『プハーーッ!!』と同時に飲み終えたラヴィとセリーナは自然と目を合わせた。
「これは…堪らんのー…。この世界はなんとも奥深い…。」
「私は…必ずこの世界を守ります。」
こうしてセリーナの初めてのサウナ体験は幕を閉じるのであった。
そして、落ち着いた所で2人は銭湯出たのだが、突然ラヴィは後ろから誰かに抱きつかれる。
「だ!誰だ!?」
慌てて振り向いたラヴィの前に、私服のネネがクスクス笑いながら立っている。
「あらあら〜、そんなにビックリしなくてもいいのにー。セリーナちゃんも一緒だったのねー。姉妹でお風呂だなんて羨ましいわね〜♪」
「そりゃービックリするだろ!こっちはサウナで…ん!?なんだ!?」
ラヴィは、ネネと話している最中に背後からとんでもないスピードで殺気が近づいてくるのを感じ取る。
その殺気を感じた方向へと身体を向けると、メイド服を着た女性がラヴィへと飛び蹴りを仕掛けてくるところだった。
ラヴィはその飛び蹴りに即座に反応してガードをするが、『ズガン!!』という激しい音と共にかなり後方へと吹き飛ばされる。
なんとか体勢は崩さずに済んだが、ガードした両手はビリビリと痺れている。
「うちのママに気安く触れてんじゃねーよ!てめぇ!」
黒髪ポニーテールで、美人だがキツめの顔をしたその女性はラヴィに怒っているようだ。口の端に付いたリングのピアスが激しく揺れている。
「訳が分からん!ママとはネネの事か!?なんでネネと話しているだけで蹴られねばならないんだ!?」
「話していただけ…だと!?抱き合ってただろうが!!」
「あれはネネが抱きついてきただけだ!」
「てめぇ!!さっきからママの事呼び捨てにしてんじゃねーよ!!」
そう激怒すると、またその女性がラヴィに飛び掛かろうとする。だが、『待ちなさい!アヤネ!』というネネの一声でその女性は動きを止めた。
「ママ!?なんで止めるの!?」
「その子はラヴィちゃんっていって、今どり〜むは〜とで住み込みでお給仕してくれている子なの!というか、こっちに帰ってくる時はちゃんと連絡しなさいって言ってるでしょ!」
「プププ、怒られてやんの…。」
ラヴィのいらないそのひと言でキレたアヤネは、何も言わずにブチギレた眼でラヴィへと即座に攻撃を仕掛ける。
動きにくいはずのメイド服で、人間離れした怒濤のラッシュをするアヤネの様子を見て、セリーナは驚きと共に思わず声が出てしまった。
「こやつ…まさか…。」
そして、その言葉に反応するかのように、ネネはセリーナがもっと驚愕するセリフを笑顔で告げる。
「あらあら〜、セリーナちゃん…いえ、女神様にはバレてしまいましたかね〜。うふふ♪」
「お主…今…なんと…。」
セリーナがネネの顔を見上げると、いつもは優しく見える微笑みが、夕日に照らされてすこし不気味に感じた。




