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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第二章 嵐の前の静けさ編
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第18話 魔王、夜空を駆ける!

 開店前のペルソナ店内、お客様を呼ぶためにホスト達が必死で姫達と連絡を取り合っている中、アルマはトイレ掃除に専念していた。


「フンフンフ〜ン♪やはりトイレは綺麗にしておかねばならんな!我はこの世界で学んだのだ!お店のトイレが綺麗な事が良い店の証だと!

おっと!こんな所にも汚れがあるぞ!」


 アルマはひたすらにゴシゴシゴシゴシとトイレを磨いて綺麗にしていく。鏡も拭き上げて、洗面所の水アカも落とす、姫達が使うアメニティの補充もする。

 しかし、最後の仕上げに床を掃除しようとしたアルマの手が止まる。その手は段々とプルプルと震えだした。


「白石ーーーーーー!!!」


 アルマは持っていた雑巾を放り投げて白石の名を叫ぶ。アルマが大人しく前向きな心でトイレ掃除などするはずがない、我慢に我慢を重ねていたがとうとう爆発してしまったのだ。

 アルマの声に驚いた白石がトイレにやって来る。


「急に何!?」


「何故我がトイレ掃除などをせねばならんのだ!!毎日毎日!!!」


「仕方ないだろ!アルマさんは指名も0!売上も0!そういった人は掃除組に入れられるのはこの業界じゃ当たり前なんだから!」


「ならば貴様もだろうが!」


「え?僕は内勤だけど、指名してくれる姫は何人かいるよ?」


「なん…だと…。」


 まさかの白石にすら負けていた事を知らされたアルマは、あまりのショックにフラフラとよろける。


「我は貴様にすら敗北していたのか…。」


「アルマさんは上から目線のオラオラ営業が過ぎるんだよ。もう少し上手いことキャラ作りして、自己中を抑えて、もっと姫の事を考えてあげた方がいいよ。」


「ぐぬぬ…!」


 白石の的確なアドバイスにぐうの音も出ないアルマは、トイレから出て店内のソファに座って考える。


(ぐ…白石のくせにアドバイスなど…。だがババ…女神から真実の話を聞くには悪神を倒さねばならん…そのためには『善の力』が必要だ…。)


 アルマが魔王としてのプライドを取るか、全てを捨ててホストとして努力するか、その葛藤に答えが出ないまま店は開店の時間を迎える。


 開店後、アルマは色んな席のヘルプにつくが、やはり思ったように結果は出ない。

 新規の姫についても『送り指名』すらもらえない状況だった。『送り指名』とは、新規の姫がその日についたホストの中から1人選んで指名するというシステムである。

 この『送り指名』こそが新人ホストが成り上がるのに必要不可欠になってくる。


 歯痒い状況が続く中、アルマが白石と店内を見ていると、蘭が後頭部をポリポリと掻きながら浮かない顔でやって来た。珍しい光景だったので白石が声を掛ける。


「あれ?蘭さんどうしたんですか?新規の姫についてたはずじゃ?」


「うーん、噂に聞いてた姫だったんで頑張ったんだけどね。全然手ごたえを感じなかったよ。」


「えー!蘭さんがですか!?というか噂の姫とは?」


「五右衛門町界隈のホストの中で最近有名になりだした姫でさ。財閥関連のお嬢様らしいんだけど、どこのホストクラブ行っても指名もせずに帰っちゃうんだって。しかも接客中はほぼ無言!この姫を射止めるのは誰だって状況なのよ。」


「無言はきついですねー。」


「それがね、こっちがずっと喋ってると一言だけ話してくれるんだけど、それがさ…」


「フハハハ!蘭の腕も落ちたな!ならば我が相手をしてこようではないか!!沈黙の姫か…我が口も心も開いてみせよう!!」


 蘭と白石の会話を横で聞いていたアルマが、蘭の話を最後まで聞かずに割り込むと、そのまま沈黙の姫の席に向かって行く。


「あっ!アルマっち!ちょい待ち!」


 蘭が大事な事を伝えようとするが間に合わなかった。


「あらら〜大丈夫かな〜。」


「さっき言いかけてた姫の話してくる内容というのは何なんですか?」


「それが無理難題で…こっちが困るのを楽しんでるだけって感じの話だよ。それじゃ僕は担当してる姫のとこ行ってくるねー!」


 そう言うと蘭は自分の姫の席へと行ってしまった。

 白石は、蘭が手こずるような姫をアルマが相手できるはずはないと思い、粗相がない事だけを願うのだった。


――アルマが沈黙姫の席へと着く。

 そこには、黒髪の綺麗に整えられた姫カットで、水色の上品そうなワンピースを着ている女の子がいた。確かに良い所のお嬢様といった外見だ。

 それに臆する事なくアルマはさっそく自己紹介を始める。


「失礼するぞ!我は魔王アルマ!貴様の名はなんだ?」


「………………。」


「無視か…。では芸を見せてやろう!」


 アルマはそう言うと、スーツのボタンを外して少し脱ぎ、左脇に右手を滑り込ませる。


「こうやってな…脇に手のひらを添えてな…ギュッギュッと脇で手のひらを挟んでやると屁のような音が鳴るのだぞ!」


―ブッ!ブッ!ブッ!ブッ!ブッ!


「………………。」


(クソっ!もう武器がない!!)


 アルマの無駄に上手い屁芸へげいでも、沈黙姫の口角は1ミリも上がらない。スベったアルマは恥ずかしそうにスーツを着直して真面目に質問する。


「どうしたのだ?何か嫌な事でもあったのか?」


「………………。」


「悩みがあるならなんでも言ってみよ!我は魔王だ!どんな事も解決してやろう!」


「…なんでも…?」


 急に口を開いた姫にアルマは驚く。


「貴様!喋れるのではないか!なんでも言ってみよ!」


「空が飛びたい…。飛べる?」


 突拍子もない無理難題をぶつけてくる沈黙姫に、アルマは自信満々に答える。


「そんな事か!いいだろう!ついて来い!」


 沈黙姫は今までのホストとは全く違う返事をするアルマに困惑する。

 そして、面食らっている姫の事など気にすることなく、アルマは沈黙姫の手を引いて非常口から外階段へと出る。


「えっ!?ちょっと!どこ行くの!?」


「空を飛びたいのであろう?なら屋上に行くぞ!」


 そしてアルマは屋上に着くと、沈黙姫に背を向けて少し屈むと『乗れ!』と命令した。


「ちょっと待って!どういう事!?」


「良いから早く我が背中に掴まれ!時間がないのだ!」


 仕方なく、沈黙姫はアルマの圧に押される形で背中に乗る。


「よし!では手を離すでないぞ!」


 そしてアルマは、沈黙姫をおんぶした状態で通りを挟んだ向かいのビルへと高くジャンプする。そのジャンプ力は凄まじく、軽々とビルの間を飛び越えて向かいのビルの屋上へと着地した。

 だが、突然の出来事に恐怖で沈黙姫は目を瞑っているようだ。


「どうだ!?空を飛んだであろう!?」


「い…い…い…いきなり何すんの!?怖くて目を瞑ってたわよ!」


「何!?ならばもう1回行くぞ!」


「待って待って待って!人間ができる事じゃないって!」


「ん?だから魔王だと言っておろうが。」


「ま…魔王って…本気で言ってるの?」


「何回も言わせるでない!今向こうからここまで飛んだのだぞ!」


「た…たしかに…。」


 沈黙姫が後ろを振り返ると、20mほど向こうに先程までいたペルソナのビルの屋上が見える。


「貴様が空を飛びたいと言ったのであろう。本当は浮遊できるが今はできん!だからこれで我慢しろ!」


「で…でも…。」


「もう怖がるな。我を信じよ。」


「わ…分かった。」


「で、名は何と言う?」


「ユウナ…。」


「そうか!ではユウナよ!しっかり掴まるのだぞ!」


 アルマはそこから止まる事なくビルの屋上から屋上へと飛んでいく。

 段々と慣れてきたユウナが空高くから下を見下ろすと、街の明かりが空で輝く星々のように見えた。

 それはまるで星の海の上を飛んでいるかのようで、いつのまにかユウナの中から恐怖は消えていき、ユウナは自由を謳歌する鳥になった気がした。


 そしてユウナは、空を飛びながら大声でアルマに自分の事を話し始めた。


「私ね!家がすっごく厳しくて!ずっと鳥籠に閉じ込められたような生活をしてたの!それは大人になっても続いてた!心の底からそんな生活が嫌だった!自由になりたくて仕方なかった!

そんな自由になりたいって願いを叶えてくれる人を探してたんだ!やっと…やっと見つけたよ!」


「フハハハ!!魔王に不可能はないのだ!!!」


 生まれて初めて本当の笑顔を見せたユウナは、とても幸せそうにアルマの背の上で手を広げる。するとユウナの体から光が現れて宝玉へと吸い込まれていく。


【善の力を手に入れました。 種類は幸福。】



――そして、空中散歩を30分程楽しんだ2人はペルソナへと帰ってきた。その姿を見た白石が必死の形相で駆け寄ってくる。


「ちょっとアルマさん!!どこ行ってたんですか!?何も言わずに消えるからみんなで2人の心配してたんですよ!!」


「すまぬな。飛び回ってたのだ。」


「は!?それはどういう意味ですか!?」


 アルマと怒る白石の間にユウナが割って入ると、ユウナが白石に深く頭を下げて謝罪する。


「ごめんなさい!私のワガママだったんです!アルマさんは悪くないんです!ご迷惑をお掛けしたお詫びにシャンパンをおろしますので!」


「えっ!?良いのですか!?ところで…指名は…まさか…。」


「アルマさんでお願いします!」


 まさかのユウナを射止めたホストがアルマという結果に、他のホストは開いた口が塞がらなかった。

 その後、席に戻ったユウナは、自由を目一杯感じながらアルマと楽しく飲み明かした。


「アルマ…ありがとう…。」


「ん?なんだ?聞こえんかったわ!」


「なんでもない!」


 こうしてユウナを救ったアルマは、晴れてトイレ掃除からの脱却に成功したのである。

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