第17話 勇者と女の子の最強の武器!
「ねぇラヴィちゃん?ルルがバックヤードに来てって言ってるわよ?」
ネネがラヴィにそう声を掛けるが、ラヴィは聞こえていないのかボーッとして遠い目をしている。
(昨日、女神様に色んな事を聞いて…納得したように見せかけたけど…どれだけ考えてもよく分からなかったな。私が『勇者』である理由…アルマが『魔王』である理由…一体何なんだろう…。)
昨晩、セリーナから神々や悪神について説明はあったが、ラヴィにとってはスケールが大き過ぎてあまり理解ができていなかった。色々な事を考えているといつの間にか夜は明け、お給仕の時間となっていたのだ。
ネネはそんな魂の抜けたようなラヴィの顔を、前から両手で挟んでムギュッとする。
ひょっとこのような顔になったラヴィはそこまでされてやっとネネの存在に気付く。
「どうしたの?昨日なんかあったの?」
「ひ、ひや!にゃ…にゃにもないじょ!喋りにくいからしょの手をはにゃしてくれにゃいか!?」
ラヴィの返答にネネは深くため息をつくと、ラヴィの顔から手を離した。
「本当に?私達は仲間って言ったでしょ?何かあったらすぐに相談するんですよ!」
「あぁ…分かっている。いつもすまない…。」
ラヴィが何かしらの悩みを抱えている事にネネは気付いていたが、本人から言うまではそっとしておこうと考えた。
「ウフフ、いつでも待ってるからね。じゃあ!そろそろルルの所に行かないとまた怒られるわよ!」
「あっ!しまった!行ってくる!」
そして、慌ててバックヤードの方へと走るラヴィの後ろ姿をネネは優しい笑顔で見送った。
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「もう!遅いよ!」
「ボーッとしていた…すまない…。」
いつもとは違う素直なラヴィの態度にルルは違和感を持ったが、今はそれどころではなかった。
「ラヴィちゃん!お給仕の時はSNSで告知するって教えたよね!?」
「あ…あぁ、ちゃんとやっているだろう?ログイン…だったか?」
コンセプトカフェで働く女の子達の中では『ログイン=出勤』となっており、出勤の際にSNSでそのログインを告知するのが一般的である。
「どこが!?確認したけどこれ何!?
『ラヴィだ、ログインした。』って短い文章に鼻しか写ってない写真載っけてるだけじゃない!こんなんじゃご主人様来てくれないって!」
「いやー、昔な…近所のじいさんに『鼻がキュートじゃな』って言われた事があってな。それ以来私は鼻がチャームポイントだと思っているんだ。」
「そのおじいちゃんへの信頼は何!?だからって鼻だけ載せても意味ないよ!しかもこれ3日連続で同じの載せてるじゃん!毎回変えないと!
明日はもっとちゃんと文章書いて、顔の全体が写った写真でやって!」
「任せろ!」
――次の日。
「ラヴィーーーー!!」
「なっ!?なんだルル!?ちゃんと出来ていただろう!?」
「これが!?」
ルルが見ていたラヴィの渾身のログインの呟きにはこう書かれていた。
『ラヴィだ。ラヴィだぞ。ラヴィがな、ログインしたぞ。そう、私がラヴィだ。帰ってこい、お前ら。』
「いや!語彙力どうした!?添付されてるのはブレにブレまくった写真だし!この写真何!?高速で動きながら撮ったの!?」
「あぁ、高速で動きながら撮った。」
「なんで!?『勇者だからだ』とか言ったら殴るからね!」
「ル…ルル…お前最近怖いぞ…。」
不器用を限界突破しているラヴィに、ルルは溜息をつき頭を抱える。
「最近ね、ラヴィちゃん目的なのって変なドMご主人様しかいてないでしょ?」
「フフフ、可愛い奴らだろう。」
「こう言ったら失礼だけどドMなおじさんは可愛くはない。
えっとね、私やネネさんはもっと幅広く色んなご主人様にラヴィちゃんを見てもらいたいの。だって黙って立ってるだけだったら完璧なメイドさんなんだもん。」
「おい、なんか悪口に聞こえるぞ。そしておじさんにも謝れ。」
「ラヴィちゃんももっと沢山のご主人様に感謝されたり、楽しくなってもらったりしたいでしょ?」
ルルのその言葉で、ラヴィは昨日のセリーナの話を思い出す。悪神と戦うためにできるだけ『善の力』を集めなければならないのだ。ラヴィは今1番の目的を実行するために覚悟を決めた。
「そうだな、ルルよ…すまなかった。明日は期待しててくれ!必ずその期待に応えるログインを見せてやる!」
――次の日。
平日にも関わらず、オープンと同時に大勢のご主人様が押し寄せて、店はすぐに満席に近い状態になる。
「え?え?どういう事!?」
突然の事で驚きが隠せないルルの元へネネがやって来た。
「あらあら〜、開店からこんなに大盛況なのは久しぶりね〜。」
「ネ…ネネさん!何かイベントの告知とかをこっそりとしましたか!?」
「私じゃないわよ。ほらあれを見て!」
ネネが指差した方をルルが見ると、そこにはあちらこちらからご主人様達のお呼びが掛かり、忙しそうにしているラヴィが居た。
「もしかしてラヴィちゃん!?」
「そうよー、これを見て。」
ネネがスマホの画面を差し出すと、そこにはラヴィが一生懸命書いたであろうSNSでのログインの呟きがあった。
『きゅるるるるん♪今日もどり〜むは〜とにログインしたよ!今日もメイド勇者ラヴィちゃんは頑張ります!ご主人様のご帰宅お待ちしてるねー♪テヘペロペロリン♪』
その呟きには、ウィンクをして顔の横でピースをする前屈みのラヴィの自撮りが添付されてあった。
このラヴィの努力の結晶を見たルルはある事に気付く。
「これはラヴィちゃんがすっごく勉強して書いたんだなって思います。文章の冒頭と最後はどこから学んだのか分かりませんが…でも…これって…。」
ルルは少し言葉にするのを躊躇ったが、ご主人様が大勢来た一番の理由に触れた。
「これ…乳…ですよね…。」
「そうねー、お乳ねー。」
ラヴィは前屈みで写真を撮ってしまったため、胸の谷間がチラリとしていたのだ。
「ラヴィちゃんには私のメイド服を渡したのよー。ちょっとサイズが大きかったみたいねー。」
(そらそうだ…ネネさんの胸は…大き過ぎる…。)
改めてラヴィのいる方を見ると、ご主人様達はみんな欲望まみれのエロい顔をしている気がした。わざと床に物を落としてラヴィに拾わせようとする人もいるようだ。
「あちゃー、ラヴィちゃんやっちゃったかー…。」
「お乳は女の子の最強の武器だからねー!ご主人様もすぐにいっぱい来てくれる。その代わりそういったもので来たご主人様はすぐに来なくなるから気を付けないとね!
でもね、ラヴィちゃんは一生懸命頑張ったんだと思うわよ。元が凄い真面目な子だし、ルルに言われて結果を出したかったんじゃないかな?お乳も狙ってやったわけじゃないしね!」
「そうですよね!この写真もたまたま胸が写ってしまっただけで悪気はないんですもん。」
「さて!じゃあラヴィちゃんを助けに行くわよ!エロオタク共を駆逐せよ!」
「はい!!」
その時、ラヴィの元へと向かっているネネとルルから光が現れてラヴィの宝玉へと吸い込まれる。
【善の力を手に入れました。種類は信頼と友情。】
「おぉ!さっそく『善の力』を手に入れたぞ!!やはり『きゅるるるるん♪』の効果か!?」
ラヴィはメイドとして、そして勇者としてまた一歩前へと進んだのであった。
余談だが、下心丸出しのご主人様達からは『善の力』は全く手に入らなかった。宝玉はエロには厳しいようだ。




