第13話 魔王、ヒーローになる!
(アルマはどうしてるかな…ちゃんと電話で伝わったかな…絶対に来ちゃダメだって。いや、どうせ場所なんて分かんないよね…。)
優愛は会社の事務所のような所で椅子に座らされ監禁されていた。手足などは縛られたり拘束されたりはしていないが、ヤクザ風の見張りの男達が10人居て身動きが取れない状況だ。その男達の会話が嫌でも優愛の耳に入ってくる。
「いやぁ、良いシノギを手に入れましたねー!良さげな女の子を店に紹介するだけで謝礼金がたっぷり!」
「これもなにもかもあの男と繋がれたのがデカかったな!元は俺達も金貸しで儲けてたが時代の波に飲まれて潰れちまったからな。」
「そうっすよねー、あの男も綺麗な顔してこんなエグい商売を考えるなんて怖いっすわ!金貸しの頃といえば、俺達も似たような事しようとしてましたよね?」
「あ?…あー!そういえばそんな事しようとしてたな!借金を返せねー債務者の家の女を売り飛ばそうってやつな!」
「そうっすそうっす!でも、その記念すべき一発目のターゲットだった花屋の娘で失敗して全部おじゃんになっちまったんですよねー。」
金貸し、花屋、娘。男達の会話から所々身に覚えのある単語が出る度に、優愛の心臓の鼓動が早くなる。
「あの花屋の夫婦め…娘を上手く隠しやがって!おまけに借金返さず自殺とはよ!親戚との交流なんかも無かったせいで結局娘は見つからずじまい!相手とは契約不履行かなんか言われて逆に俺たちが詰められてよ!散々だったわ!」
「借金返さずって言ってますけど、貸した金なんかとっくに回収してたじゃないっすか!本当に酷いっすね!」
「そうだったか?ガハハハ!!」
優愛は男達の花屋の話が自分の事だと確信した。怒りと悔しさで涙止まらない中、憎悪に満ちた目で優愛は男達を睨みつける。
睨まれている事に気付いた男の一人が優愛に近づいてくると、優愛の髪を掴んで無理矢理椅子に押し付けた。
「なんだこのクソガキ!憎たらしい目で睨みやがって!もうすぐ迎えが来るから大人しくしてろ!」
「フーッ!フーッ!お前らが…!お前らが…!」
呼吸も荒く、怒りで言葉が上手く出てこない優愛は、その怒りに任せて男に飛び掛かった。
「チッ!何しやがる!調子に乗ってんじゃねーぞ!!」
男はそう言うと『バキッ!』という鈍い音が鳴るほど強く優愛の顔を殴りつける。ガタイの良い男に殴られた優愛は堪らず床に倒れてしまった。
「おい!顔は殴るなよ!商品としての価値が下がるだろ!」
「すいません!しかしこいつが…!」
グループのリーダー格らしき男が部下を止める。
優愛は立ち上がる事も、顔を上げる事もできずにいた。どれだけ悔しかろうと、怒りが込み上げてこようと、復讐すらできない自分の無力さに心が折れかけていた。
(悔しい…悔しいよ…お父さん…お母さん…。)
そして、床に倒れたままの優愛にリーダー格の男が近寄って脅しをかけてきた。
「おい、外から見えない部分ならいくらでも傷付ける事はできるんだぞ。試しにやられてみるか?」
そういうと男はナイフを取り出し、それを優愛の腹部などに突きつけてくる。
(もう…ダメだ…。あたしには何もできないんだ…。お願い!誰か助けて!!そしてこいつらをっ!!!)
優愛が心でそう願うと、事務所のドアをコンコンと誰かがノックした。それに対してドア近くに居た男が『誰だ?』と聞く。
「光星だ。開けてくれ。」
その声を聞いたリーダー格の男は、部下に光星を迎え入れるよう命令する。その命令に従って部下の男がドアノブに手をかけようとした時、『ズドーーーーーン!!!』という衝撃音と共に、ドアが事務所内に吹っ飛んできた。
ドアはそのまま反対側の壁にぶつかり、ドアを開けようとした部下の男は吹き飛んだドアと壁に挟まれてグッタリとしている。
「なっ!何事だ!襲撃かっ!?全員武器を持って応戦しろ!」
リーダー格の男が慌てて周りに命令して、自分は1番後ろへと下がる。
蜂の巣をつついたようにバタバタとする中、コツ…コツ…と足音をさせながら黒衣を着た男が入ってきた。その男はボコボコの血まみれになった光星の首根っこを掴んで持ち上げながら歩いている。
そして事務所の中に入ると、ゴミを捨てるかのように光星をドサッとその場に捨てた。
「何者だてめーはっ!?ブチ殺すぞ!!」
男達がワーワー騒いでる中、優愛は入口の方を見る。すると、先程の負の感情の涙ではなく、喜びや安心といった感情の涙がとめどなく流れる。
「アルマ…来て…くれたんだ…。ダメだって…言ったのに…。」
アルマは口から少し血を流した優愛の顔を見ると、静かに拳を握りしめた。
「優愛よ、1秒待て。それで終わる。」
アルマのその言葉に激昂した男達が一斉に襲いかかろうと大声を上げる。だが、それと同時に高速で移動するアルマの攻撃により、何をされたのかも分からぬまま全員意識が遠い世界へと飛んでいった。
「殺すと女神のババアがうるさそうなのでな。骨を折るぐらいで勘弁しておいてやろう。」
そして、アルマはゆっくりと優愛の元へと歩を進めた。
「大丈夫であったか?」
「うん…大丈夫だよ…。」
「すまぬな、光星から何もかも取り返す約束であったが…怒りに任せてボコボコにしてしまったわ…。」
「良いんだよ!大事なものは…アルマが全部取り返してくれたから!」
「ん?そうなのか?金も取り戻さなくてはならんだろう?」
「お金はもういいよ!あたしがまた一からやり直して頑張って返していくから!」
2人がそう会話をしていると、窓の外からまたパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
「ぐっ!またこの音か!優愛よ!逃げるぞ!」
「うん!」
アルマは優愛の手を引きながらビルの外へと出てその場を離れる。アルマに手を引かれている優愛はどことなく嬉しそうな顔をしていた。
そして、安全な所まで逃げて一息ついていると、2人のもとになぜか店に居るはずの瑠偉がやって来た。
「どうやら間に合ったみたいだね!店から光星と出ていくアルマちゃんを見て心配で後をつけてたんだ。そしたら揉め事みたいな声や音が聞こえたから僕が警察を呼んだんだよ。間に合ったみたいで良かった!」
「一体何に間に合ったのだ?」
「ん?何がだい?当然君達が何かされる前に間に合って良かったって意味だよ!」
「我が光星達から何か聞き出す前に、警察とやらが間に合って良かった…ではないのか?」
アルマと瑠偉の間に重たく不穏な空気が流れる。
(こいつを初めて見た時に感じたのはオーラではなく、およそ人間が発する事などできん量の悪意だったからな…。たぶんこいつが黒幕だろう…。)
ジッと見つめるアルマの目を、笑顔を崩さず真正面から見返す瑠偉。ここまで堂々と目をそらさない人間は、アルマの中ではラヴィ以来だった。
「やだなぁ!そんな事あるわけないじゃん!優愛ちゃんも久しぶり!災難だったねー。
あっと!そうだ!僕はちょっと急ぐからまたねー!」
アルマが拍子抜けるほど、瑠偉は適当にアルマの敵意を流すとこの場を去っていった。
「え…アルマ…どういう事?」
「いや、優愛は気にせんでいい。我の勘違いだったのかもしれんしな。(あいつが悪というのは勘違いではないがな。)」
「そっか!それならいいや!…アルマ…本当にありがとうね…。光星の事も…偶然だけど両親の事も…全部解決しちゃったよ!今度いっぱいお礼させてね!」
「お礼は我への特大の感謝で良いぞ!さぁ!さぁさぁさぁ!!!」
『善の力』を期待していたアルマだったが、宝玉はピクリとも反応しなかった。
なぜかというと、絶大な力を持つ『善の力』の乱獲を防ぐために、同じ人間から同じ感情の『善の力』は回収できないよう始めから宝玉は設定されていたのだ。
『感謝』の力はすでに優愛から回収していたのでこの結果という事だ。
それを知らないアルマは大きく肩を落とす。
「え?アルマ大丈夫?あたし本当に心の底から感謝してるんだよ!」
「もう良い…もう良いのだ…。とりあえず優愛はもう帰れ。我も行く当てもないし店に戻るとする。」
「う…うん…。なんか…ごめんね。」
そして、ケガは大丈夫だと言う優愛と後日また会う事を約束し、アルマは店へと戻るのだった。戻った先にはカンカンに怒った白石が待ち構えているとは知らずに。
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とある五右衛門町のBARで瑠偉が悪魔のコスプレをしている女性とカウンターで話をしている。
「ごめんね、女の子をそっちに流すのは今日で無理になっちゃった!仲介頼んでたとこも警察入っちゃってさ。大丈夫そ?」
「もう大丈夫なのですー!十分な女の子は確保できたし。瑠偉ぴょんありがとなのですーって感じですー!」
「それなら良かったよ!僕もミユミユの野望を応援してるね!『一本橋統一計画』だっけ?」
「ククク…、そろそろ憎きクサレ王道メイドに喧嘩売りに行こうかな…。
あっ!間違えちゃったですー!メイドさんにオラオラしに行くのですー!」
「アハハ、本性知ってる僕からしたら相変わらずそのぶりっ子キャラはきっついなー!」
「うっせーよチンピラホスト!さて…久しぶりに大悪魔が大暴れしてやるか…。」
何かを企むミユミユと瑠偉によって、ここから勇者と魔王の異世界生活はとんでもない方向に向かってしまうのだった。




