第113話 魔王と魔王と魔王
ヨルカ達がシュシュを倒し、他の戦いの場に行くこともなく、ゆっくり一息つこうとした時、ドサッと大きな物が放り投げられた音が後ろからする。
ヨルカがその音の正体を確認すると、それは血だらけになって力尽きたレイヴァンであった。
「この筋肉ダルマは誰アルか?」
「おーおー!すまねぇ!そいつがデカ過ぎて投げた手元が狂っちまった!」
そうヨルカに声を掛けてきたのは、悪気のない笑顔をしながら歩いてくるシルバだった。
そのシルバの周りには、衣服がボロボロになって満身創痍のようなネネ、ミユミユ、エンジュが居る。そこで、顔見知りのミユミユが一歩前に出て、ヨルカ達に続いて話し掛けてきた。
「お前達も終わったんだな。あたしらと違って見た感じえらく余裕そうじゃないか。」
「チッ!」
「なんだ?自分達だけ閉じ込められた事をまだ根に持ってんのか?」
「違うアル!そんな事はどうでもいいアル!それに、別に余裕だったわけじゃないアル。こっちの作戦が一発目でバレてたら私達が瞬殺されてた所アル。こんな化け物とはもう二度と戦いたくないアル。」
ヨルカはそう言いながら、気を失っているシュシュの方を見ていると、ネネにポンッと肩を叩かれる。
「またまたー!そんな謙遜しちゃって!ミユミユと結託してとはいえ、あなた達は私を一回殺しちゃう程強いんだから!」
「おいおい…。よくそんな笑顔で物騒な嫌味をぶち込めるよな…。あーしには無理だわ…。」
「く…。別に悪いなとか思ってないアル!あの時は…!」
「あー!大丈夫大丈夫!気にしてないから!それに私達ももうクタクタなのよ…。その筋肉さんと夜通し戦いっぱなしって感じだったから…。
本当にエンジュが居なかったらって考えると恐ろしかったわ。天使の加護が無ければこっちの世界に転移する前に殺されてたもの…。」
「だな…。こっちのオーラや力を喰うとかいうバカげた力だ。あたしら4人でやっとって事は相当な怪物だったよ。」
そんな会話を続けていたら、いつも下ネタをぶち込んでくるはずのエンジュはずっと遠くを見つめて動かないでいる。
それに気が付いたキョウがそれに触れる。
「そこの方、全く動かないようでありんすが…。」
「あー!これな!あーしらにバフをかけ続けて力尽きてんだよ!なぁネネ!エンジュもこんなんだし、ここいらであーしらも休憩しようぜ!」
「そうね!後はラヴィちゃんとアルマ君がなんとかしてくれるでしょ!じゃあ、お邪魔しても良いかしら?」
「好きにすれば良いアル。」
こうして、ネネ達とヨルカ達は合流し、他の戦いが終わるのを待つ事にした。
――そして、その頃アルマと瑠偉はローゼンと対峙していた。アルマは怒りに満ちた顔で、瑠偉はニコニコとしていて、2人は対照的な顔でローゼンを見ている。
「あらぁ?男前が一人増えてるじゃない。ありがたいわね。」
「ははは!男前だなんてありがとう。でも、君は僕のタイプじゃないなー。僕は年上より年下なんだ。だって君…おばあちゃんでしょ?」
「殺す。」
瑠偉の煽りに反応して、ローゼンは自分の血が混じった真っ赤なオーラを展開する。
「おい!瑠偉よ!あまり相手をおちょくるな!無駄に戦わねばならんだろうが!」
「えー!だってさ!ヴァンパイアの女王でしょ?軽く300歳はいってると思うな!」
「黙れ!全くデリカシーの無い男ね!女心が分からない男はモテないわよ!」
「そうだね!女心はあんまり分かってなかったよ!だって、そんなの理解する前に僕はモテモテだったからね!」
「え…良いなぁ…。我は必死で人間の女の事を勉強したというのに…。」
「あなた達!もうすぐ死ぬのよ!分かってるの!?どうしてそんなに余裕でいられるのよ!」
瑠偉の挑発が続き、怒りが激怒に変わったローゼンが、コウモリのような黒い翼を生やして空中へと舞い上がる。
そんなローゼンを嘲笑うかのようにアルマが質問に答えた。
「ククク…。貴様も分かっておるのか?貴様はこれから超強い魔王2人を相手にしようとしておるのだぞ?」
「あなた達如き!何人いようが関係ないわ!それに、そっちの瑠偉って男からは気味悪い何かを感じるけど、アルマ!あなたは弱い魔王じゃないの!一度会った時に実力は知れてるわ!」
「って言ってるよ?アルマちゃんが弱いんだって!言い返さないの?」
「ふん!言葉など必要ない!我の真の力を見せてやるわ!瑠偉、貴様と戦った時より我は強くなっているぞ。」
「へー!楽しみだなー!それじゃ…まずは僕が行きますか!」
瑠偉は白スーツの上着を脱ぎ捨てると、あのアメーバのような黒いオーラを展開する。
その黒いオーラを見て、ローゼンは得体の知れない危険を察知して警戒する。
「真っ黒なオーラですって…?そんな色のオーラは初めて見たわ…。」
「あれ?四大魔王とか呼ばれてるくせにまだ赤色なの?まだまだ悪が足りないんじゃない?」
「意味が分からないわ!そんなもの!私の血の力で吹き飛ばしてあげるわ!」
ローゼンは、自分の血を混ぜたオーラを練って、1本の巨大な槍を形成した。
「さぁ!大地を貫く私の血の槍で串刺しになりなさい!死んだ後は私がゆっくり血を味わってあげるわ!」
「おぉー。あれは中々凄い槍だね!悪の力が進化してないとやばかったかな?」
「死ねっっ!!!」
そして、ローゼンが放った血の槍は、音速の壁を越えて、辺りに衝撃波を放ちながら真っ直ぐ瑠偉目掛けて飛んでいく。
だが、ローゼンの予想と違い、瑠偉は避ける素振りを見せずに、飛んでくる血の槍に向けてそのまま黒いオーラを広げただけである。
「あら!?自殺したいのかしら!?そんなオーラで防げる程私の槍は甘くないわよ!」
ローゼンの頭の中ではもう瑠偉が串刺しになる姿が思い浮かぶ。
しかし、血の槍が瑠偉のオーラに刺さった瞬間、槍の勢いはみるみる内に失われ、とうとうオーラに包みこまれるように瑠偉の目の前で止まってしまった。
「何っ!?槍が止まった!?」
「おー!ギリギリだったね!危ない危ない!」
瑠偉はそう言いつつも、顔にはまだまだ余裕の笑みが残っている。
そして、血の槍は瑠偉の黒いオーラに侵食され、黒くボロボロになって朽ち果てる。
「なんなのよ…。そのオーラは…。」
「ん?じゃあ試してみる?ほら、もう君に付いてるよ。」
実は、ローゼンが血の槍を放つと同時に、瑠偉も黒いオーラの一部を彼女に飛ばしていたのだ。
「く…!これが何だって言うの!私にダメージなんかない!」
「ククク…。ヴァンパイアよ…。早くなんとかしないと詰むぞ。我もそれには手こずらされたからな!」
アルマがそう忠告すると、ローゼンに付着した黒いオーラが彼女の左腕を侵食していく。これからローゼンは2人の魔王に『震撼』する事になる。




