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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第一章 勇者と魔王 転移編
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第10話 魔王、潜入する!

「優愛よ、ホストクラブとは一体何だ?」


「えっ!?知らなかったの!?さっきの『いざ!!』ってなんだったの…。」


 五右衛門町の夜のゴールデンタイム、大勢の人が行き交う街をアルマと優愛が並んで歩いている。

 何も知らずに意気揚々としていたアルマに優愛は少し呆れながら説明を始めた。


「ホストクラブっていうのはね、簡単に言うと男の人が女の人を接客するお店かな。カッコいい人に会いに行く人もいれば、癒やしや非現実的な空間を楽しむために行く人もいる。嫌な事や現実から逃げたくて行く人も…あたしみたいなね…。」


「フフフ…そうか、なら我は何の違和感もなくその場所に入れるというわけだ!」


「まぁ…アルマは顔はカッコいいんだけど…」


「けど何だ?」


「性格というか…キャラというか…偉そうな感じがね…。っていうかどういう形でお店に行くつもりなの?」


「そんなもの!考える必要はない!邪魔をする者が居れば排除するのみ!」


「ダメだこりゃ…。」


 優愛はなんとなくは分かっていたが、なんの作戦も考えずに突撃しようとしていたアルマに頭を抱える。そんな何も決まっていない状態の中、優愛は手で顔を隠すようにして歩く足を止めた。


「ん?どうしたのだ?」


「あそこの角を曲がった所が『ペルソナ アルクス』だよ…。これ以上あたしが行くと顔を指すかもしれないから…。」


「そうか!ならばこの辺りに隠れているがよい。我がサッと行って終わらせてこよう!」


「だからっ!適当に行ったってさっきみたいに警察の人を呼ばれて終わっちゃうよ!アルマはお金持ってるの?」


「持ってない。持ったこともない。」


「嘘でしょ…、魔王のくせに貧乏だなんて…。」


 女性から本気の呆れ顔で『貧乏』と言われた事の無かったアルマは、心に何かズキンと痛みが走る。女性からプライドを傷付けられた男の痛みを初めて知った魔王500歳の夜だった。


「なんか分からぬが…すまぬ…。」


「そしたら…『お店で働きたくて来ました』って形で入るのが1番いいかもしれないね。まだ営業まで1時間弱あるし、上手くいけば入れてくれるかも!」


「我が人間如きの下で働くだと!?そんな事できるわけがなかろう!!」


 魔王として人間を下に見ているアルマからしたら、人間と一緒に働くというのは有り得ないことなのだ。というか、まず労働などという概念をはじめから持ち合わせていない生粋のニート気質魔王である。


「そうだよね…ごめんね…あたし調子に乗っちゃってた…。」


 優愛はそう言うとまた下を俯いてしまった。それに慌てたアルマは必死で励まそうとする。


「ごめんごめんごめん、真にごめん。そんなつもりでは…いや、マジでごめん。あれだ…あのー…なんだ…その…ごめんなさい。」


 女の子を泣かせてしまった時の男子特有の語彙力皆無な言い訳ムーブをかましてしまうアルマは、魔王として一生分のごめんなさいを言ってしまっただろう。

 そんなしどろもどろなアルマを見て優愛は、下を俯きながらクスクスと笑い始める。


「な!?演技か貴様!!わ…我だって演技だったのだぞ!焦ってなどおらぬからな!」


「アハハ!ごめんね、なんだかアルマと居たら少しずつ元気になってきたから…。本当に何とかしてくれそうだなって!」


 そして、『じゃあ…』と優愛は言うとアルマの背中をそっと押す。


「全部丸投げで頼っちゃってごめんね…。」


「ふん、貴様の悩みなどすぐに解決してみせるからよく見ておけ。」


「うん、信じてる。」


「この事が終われば我に最大限の感謝をするがよい!分かったな!?それが1番重要なのだからな!!」


 アルマは『善の力』のため、念入りにそう確認すると店の方へ悠々と歩を進める。その後ろ姿は未知のものへと挑む高揚感に包まれているようだった。

 優愛はそんなアルマを心配そうに見送った後、コウセイに見つからないように街の影へと身を隠した。


 そして、アルマは店の前に着くと、何の躊躇いもなく扉を勢いよく開ける。


「我が名は魔王アルマ!喜べ人間共よ!我が働きに来てやったぞ!!」


 アルマはいつも通り大声で偉そうにカマしてやったと思ったが、扉の先はまだ店内ではなく、店内へと続く廊下だった。

 そんな誰も居ない空間で大声を張り上げた恥ずかしさからか、アルマは頬を赤らめて小走りでもう一つ先の扉へ急ぐ。そして、次は恥をかかないようにソッと扉を開けて中を伺った。


「あ…あのーすまぬのだが…誰かおるか?」


 アルマは、居酒屋のラストオーダーギリギリの時間に来店したサラリーマンぐらい丁寧に気を使いながら店の中に入る。

 すると、その声に反応して店の奥から眼鏡をかけた真面目そうな黒服の男性が顔を出した。


「いらっしゃいませ…じゃないですよね?もしかして面接ですか?それとも同業の方…でしょうか?」


(眼鏡か…こいつ魔道士か…。)


 眼鏡=魔道士という、奇跡的にラヴィと同じ考えをしてしまうアルマだったが、気を取り直して男性に用件を伝える。


「そうだ、我はこの店で働くために来てやったアルマという。貴様は誰だ?魔法を使う素振りを見せれば殺すぞ。」


「え…?魔法?ちょっとよく分からないですが、面接に来たのに凄い態度ですね…。僕は内勤責任者の白石と言います。この時間はまだオーナーや代表は出勤していないので僕で対応しますね。」


 アルマの頭のおかしいアホ発言を冷静に流しつつ、丁寧に受け答えする白石。これだけで彼が内勤として優秀だということが分かる。


「それでは奥にどうぞ。向こうの席で面接しますね。」


 白石に案内されるがままアルマは店内を進む。すると、そこはアルマの元いた世界の王族や貴族が住む屋敷よりもずっと煌びやかで豪華だった。中央には色とりどりの魚が泳ぐ巨大な水槽があり、シャンデリアにいたっては天井にいくつも飾り付けられている。

 そんな店内では、手のひらサイズの板のような物をイジりながら、十人十色の従業員らしい人達がソファに座っている。


「ではこちらの席にどうぞ。面接を始めますので。」


 案内された席に着くと、アルマは相手を伺うこともせず当然のように先に座る。そして、足を伸ばしてドカンとテーブルに乗せると、ソファに深く腰掛けて偉そうに腕を組みながらこう言った。


「よし。ではその面接とやらを始めるが良い。苦しゅうないぞ…眼鏡の小僧よ。」


 社会に認知されている面接の形を根底から覆すであろう魔王流の面接が今始まる!

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