第1話 勇者と魔王と怒れる女神
ここはとある異世界にある『エルサンガ大陸』という巨大な大陸の中心部に位置する山岳地帯。その場所に2つの人影が見える。
一人は軽装の鎧を着た女性であり、美しい金色の長髪を風になびかせながら相対する者に剣を構えて立っている。
そしてその相対する者は、漆黒の黒衣を身に纏った黒髪の男性で、満天の星空の下で空中に浮かびながら女性を見下ろしていた。
「魔王アルマよ!やっとここまで追い詰めたぞ!この地で今度こそお前を倒す!必ず!!」
金髪の女性は黒衣の男を『魔王アルマ』と呼び、剣の先をその男に向けながら気丈に叫ぶ。
しかし、アルマは顔を俯かせ、肩を少し震わせながら不敵に笑う。
「ククク…何度その言葉を聞いたことか…。勇者ラヴィよ…今宵もまたお前は我を滅ぼすことは叶わぬ…。」
アルマは金髪の女性を『勇者ラヴィ』と呼び、挑発混じりの言葉を言い終わると紅いオーラを解き放った。それに合わせるようにラヴィも蒼いオーラを身に纏う。
双方のオーラはどんどんと大きくなり、やがて紅と蒼が重なり合った瞬間、2人は同時に相手目掛けて突撃をする。
「アルマーーーーーッ!!!長かった戦いもこれで終わりだ!!!」
「無駄だ!ラヴィよ!!!我が魔力により塵となれ!!!」
2人の渾身の一撃がぶつかり合ったその時、一瞬の静寂の後に凄まじい衝撃波が球状に膨れ上がっていく。それは大地に大きなクレーターを作り、荒れ狂う突風が周りの山々を粉々に破壊し、空が真っ二つに割れる。
そんな災害の範疇を超えたような事象を気にもせず、2人はまだどんどんと力を上げていく。その相反する力は時空間をも歪ませてしまいそうになった。
だが、ぶつかり合う2人の頭にゴチーン!と上からとんでもない衝撃が襲う。その衝撃に抗うことも出来ずにラヴィとアルマは地面に叩きつけられた。
「こんの!!クソバカコンビがっっ!!!いい加減にせぇ!!!」
叩きつけられた際に舞い上がった土煙の中、よろよろと立ち上がる2人に罵声を浴びせる女性の声が聞こえた。
「だ…誰だ…私を叩きつけるなんて…。私は勇者だぞ!」
「我が地面に倒れるなど500年で初めての事だ…。一体何者だ!姿を見せよ!!」
2人の間の土煙が段々と薄れていくと、そこには光り輝く衣を纏った美しい女神の姿があった。
「わしはこの世界の神様じゃ!!!美しくも儚さを身に纏う女神様じゃ!!!お主らは懲りもせずドンパチドンパチと…。」
女神は拳を握りしめ、白銀の髪がワナワナと逆立つ程に怒りを抑えきれていない。そして、そんな女神を見てポカーンとしているラヴィとアルマに向かって怒りのセリフを口早に並べ始める。
「お主らが周りも気にせず戦うおかげで美しかったエルサンガ大陸はすっかり荒廃してしまったわ!わしはなるべく手を出さず、人が自分たちの力で乗り越えるよう静観しておったがもう無理じゃ!ここ2年で人々からわしへの祈りは数百倍になったのじゃぞ!!それも全部お主らへの苦情じゃ!!バカ2人をどうにかしてくれとな!!」
フーッフーッと鼻息荒く怒り狂う女神に対し、ラヴィは毅然とした態度で反論する。
「女神様!私はただこの目の前にいる魔王を倒すために!人々のために戦ってきたのです!その苦情に私は含まれてはいないはずです!」
「含まれとる!!ガッツリ含まれとるんじゃ!!しかも魔王よりもお主への苦情のほうがちょっと多い!!」
「そ…そんな…ならば私はなんのために…。」
「お主は真面目すぎるが故に周りが見えておらん!この魔王が現れたとなるや!そこが街中であろうがなんであろうが勇者の力を爆発させよる!!お主は知らんと思うがほとんどの街や国で出禁になっておるのだぞ!!」
「なっ…!!で…出禁っ…!?」
衝撃の事実を突きつけられたラヴィは、あまりのショックで地面に両手を付いて伏せてしまう。
そんなラヴィを見下しながらアルマは『フハハハ!バカな勇者だ!』と高笑いを上げてまた空中に浮かぼうとする。が、そんなアルマの頭に女神から愛と憎しみのこもった女神の拳骨が振り注ぐ。
「何をまた空中に浮かぼうとしておる!!お主への説教はまだ終わっておらぬわ!!」
「クッ!!この女が!!2度までも我の頭に拳骨などと下賤な技を!!」
「黙れ!若造が!お主も魔王だなんだと言いながらこの勇者と遊んどるだけではないか!なんじゃ!?惚れたんか!?このベッピンな勇者様に!
ダラダラダラダラと世界征服しよって!500年もの間やる気のなかったお主が急にバリバリ魔王の力を使いだしたのはなんじゃ!?ラヴィを見てテンション上がったのが丸分かりじゃ!!」
「そ…!そんな事ないもん!!我は最強最悪の魔王だからだもん!!」
女神から図星を突かれたからか、恥ずかしさで慌てふためきアルマは魔王としてのキャラが崩壊しかけてしまう。
あらゆる言葉で2人のプライドをぐしゃぐしゃにして少し満足したのか、女神は深く息を吐き出すと落ち着いた口調で語り出す。
「もうこの世界にお主らを置いておくことはできぬ。よってこの世界からの追放を命ずる。だがな、たった一つだけチャンスをやろう。
それはな……」
こんな展開を予測してなかったラヴィとアルマは呆然とした様子で女神の言葉の続きを待つ。
次に女神の口から放たれた言葉は衝撃的な内容であった。




