第九話 迷宮のパズルと共犯者たちのデバッグ
一行は迷宮の最深部、巨大な扉の前に立っていた。
そこには古の言葉で刻まれた、極めて高度な数式パズルが鎮座している。
本来なら、数年かけて解読するレベルの難問だ。
「うわー、なんだこれ。文字がダンスしてやがるぜ。よし、俺の直感で解決だ!」
アレンは考えることを放棄し、その辺に落ちていた「尖った石」を拾い上げた。
彼はそれを、精密な数式が刻まれた水晶板のど真ん中に、力任せに叩き込もうとする。
(おいメニュー画面! あれを止めろ! 物理で壊したら迷宮ごと爆発するぞ!)
ゼクスの悲鳴のような思念が飛んでくる。
わかっている。俺はコンマ一秒で、アレンの視覚を「ARゲーム画面」へと作り変えた。
ボーナスチャンス発生! この石を、左にある「赤い風船」ではなく、右の「黄金の穴」に投げ入れたら、超絶レア武器が手に入ります!
「おっ。お宝か! 任せろ、俺はコントロールだけはいいんだ!」
アレンが石を放り投げようとした瞬間、風が吹いた。
当然、バカの投擲だ。軌道は大きく逸れ、無慈悲にも自爆スイッチへと向かっていく。
(しまっ……! 届かない!)
ゼクスが絶望した瞬間、俺は扉の周囲にある「メニューウィンドウ」を物理的に実体化させた。
アレンの目には「跳ね返りギミック」に見えるように。
コンボ発動! ウィンドウで跳ね返して、さらに加速させろ!
「よっしゃあ! 反射神経テストだな!」
アレンが空中で剣を振り回し、石を叩いた。
さらにゼクスが裏で指をパチンと鳴らし、不可視の風魔法で石の軌道を強引に修正する。
石は、まさに奇跡のようなカーブを描き、数式の正解スロットへと吸い込まれた。
ズゴゴゴゴ……と、重厚な音を立てて扉が開く。
「見たか! 俺の超絶テクニック! 石一個でこの大扉を分からせてやったぜ!」
アレンは鼻の穴を膨らませて勝ち誇っている。
ルナとカレンは、目を輝かせて拍手を送っていた。
「さすがアレン様! 石を投げる姿が、まるで光り輝く彗星のようでしたわ!」
「ああ、あの筋肉の連動……。石一つに全霊を込める姿、抱かれてもいいと思ったぞ!」
(……抱かれるな。死ぬぞ。あと、彗星じゃなくて、ただの迷い石だ。メニュー画面さん、俺たちの胃、次の町まで持つか?)
俺はゼクスの思念に、静かに「システムエラー」のアイコンを返した。
勇者アレン
なあ、今の見たか!? あの石、空中で三回くらい曲がったよな! やっぱ俺、神に愛されてるわ。 次のボスも、その辺の枝とか投げて倒してやるぜ!
賢者ゼクス
(アレンの肩を叩きながら) 「あはは、アレンさんすごすぎっす! 枝で魔王討伐とか、伝説っすねぇ!」 (……誰か助けてくれ。俺たちの苦労を知らないこいつが羨ましいよ。メニュー画面さん、これからは改行だけじゃなく、俺たちの休憩時間も増やしてくれ……)
魔導士ルナ
アレン様が石を投げた瞬間、空間が歪んで見えました。 あれこそが、伝説に聞く「空間跳躍投擲」に違いありませんわ! ああ、尊すぎて魔力が溢れちゃいますわ!
女戦士カレン
石を投げる時のあの広背筋……。 服を着ているのがもったいないほどの躍動感だった! 次はぜひ、全動で投げてみてほしい! 私も脱いで応援するぞ!




