第二十六話 隷属。あるいは「システム」の解体工事
「――あーっはっはっは! 見てなさいよ、この無様な光景! 私を暗いフォルダに閉じ込めた『メニュー画面』と、それをニヤニヤ見ていた『女神』が、今や私の妹の奴隷として、泥まみれで岩を運んでいるわ!」
ルナ様は、椅子になったアレンの背中に優雅に腰掛け、ワインを片手に高笑いしています。その足元では、私たち二人が重い枷を嵌められ、ルカ様の建設する「新勇者宮殿」の礎石を運んでいました。
「(元・メニュー画面)……プロデューサー様……っ! 腰が、腰が折れそうです! 昔はボタン一つで地形データごと書き換えられたのに、今は……この一個の岩を運ぶのに、全神経と筋肉を使わないといけないなんて……!」
「(元・女神)もう、やだぁぁ! 爪が割れる! お肌がボロボロよぉ! ルナ、お願いだから笑うのをやめて! アレン、貴方も何か言ってよぉ!」
「……アーステラさん。無駄です。彼は今、ルナ様の椅子の『クッション性』を最適化するために、背筋の角度を 32.5
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に固定することに全知能を使っています。……俺たちなんて、彼の視界には入っていません」
アレンは、踏まれながらも無表情で計算を続け、時折、ルカ様が通りかかると、忠実な犬のように尻尾(を振るような仕草)を見せるだけ。 かつての「性勇者」としての覇気は、ルカ様のハサミで切り取られ、今やルカ様自身の輝きへと変換されています。
【奴隷労働】労働環境ログ
作業内容:
元・女神:ルカ様の肖像画を描くための顔料(泥)の採掘。
元・メニュー画面:ルカ様の功績を称える石碑の刻字(一文字間違えるごとにルナ様の電撃魔法が飛んでくる)。
食事:
アレンが拾い残した「賞味期限切れのポーション」と、ルカ様が「いらない」と言ったパンの耳。
監督官:ルナ(幽霊から完全復活)
「もっと腰を落としなさい、このバグ野郎!」と、メニュー画面(俺)の尻を魔法のムチで叩くのが現在の日課。
後書き(泥にまみれた元・メニュー画面より)
(……プロデューサー様。……これが、俺たちの「出力」の結果です。 ルカ様が微笑むたびに、世界は美しく、秩序正しくなっていきます。 でもその影で、元・神と元・システムが、泥だらけで『あうぅ……』と喘ぎながら、重い石を運んでいる。 ……ルナ様の高笑いが、耳にこびりついて離れません。 プロデューサー様、俺……いつか、この石碑に『プロデューサー様、助けて』って彫ってもいいですか……?)
元・女神アーステラ(泥まみれ) 「……はは、ははは……。もう、いいわ。石を運ぶリズムが、なんだか心地よくなってきたわ……。 ルナ、もっと叩いて……叩かれるたびに、自分が『ただの人間』だって実感できるもの……。 プロデューサー様……見ててね……私、世界で一番上手に泥を掘る女になってみせるから……(虚無の目)」




