第三十二話 魔王、やめるってよ。〜漆黒の退職願〜
アレンたちが山盛りのプリンを完食し、「プ、プリンの海でおぼれる……」と腹を抱えて寝転がっていたその時。 玉座の奥から、ボロボロになった魔王が、一枚の紙を持ってフラフラと現れた。
「……もう、限界だ。勝手にしてくれ」
アレンはプリンを口に付けたまま、首を傾げた。 「なんだ、掃除のおじさん。また新しい修行か?」
「修行じゃない……『退職願』だ。 三万回の高速周回で、私の威厳は一秒ごとに切り刻まれた。 やっと死ねるかと思えば、アイテムコンプリートのために角を剥かれ、腰痛を治療され、終いには目の前でバグとプリンの乱痴気騒ぎ……」
魔王は震える手で、退職願をアレンの足元に置いた。
「私は魔王を辞める。田舎へ帰り、魔力を全て『肥料』に変えて、おいしいカブを育てる農家になるんだ。……だから、もう私の城でプリンを食うのはやめてくれ……(涙)」
システム通知 クエスト:『世界を救え』が強制終了しました。 理由:対象(魔王)が精神的苦痛により戦線離脱したため。 新規クエスト:『魔王のカブ栽培を応援しよう』が追加されました。
(……メニュー画面さん。これ、俺たちのせいだよな? ラスボスをここまで追い詰めるなんて、ある意味、どんな伝説の武器より残酷な勝ち方だよ……)
ゼクスが胃を抑えながら呟くが、アレンは目を輝かせた。
「農家!? いいじゃねえか! クワの使いなら俺がプロだぜ! よし、魔王! 俺がお前の師匠になってやる。 まずはその城を全部ブッ壊して、広大なカブ畑にリフォームだ!」
「なっ……城まで壊すのか!? 私の退職金(城)があぁぁ!!」
魔王の叫びも虚しく、アレンとカレンは「開墾だぁ!」と叫びながら、魔王城の壁を素手とクワで解体し始めた。
後書き
勇者アレン
魔王も、悪いやつじゃなかったんだな! カブが育ったら、またコンプリートしに来てやるぜ。 今度は『伝説のカブ・金の色』が出るまで、一万回は収穫し続けてやるからな!
賢者ゼクス
(平和(?)になった元・玉座の間で、カブの種を袋詰めしながら)
「……魔王さん、元気出してください。 アレンさんに目をつけられた時点で、あなたの平穏な老後はもう半分死んでるようなもんですけど……。 ……あ、カレンさん! その石像は肥料になりませんから投げないで!」
魔導士ルナ
「カブ……! 甘くて栄養満点、アレン様の夜のスタミナにも最適ですわ! 魔王様、私の魔法で『一瞬で成長する肥料』を開発して差し上げます。 副作用でカブが叫び声を上げますけど、気にしないでくださいね!」
女戦士カレン
「開墾こそが最高の全身運動! 魔王よ、お前も今日からは魔剣を捨てて、この『真実の重り(クワ)』を振るうのだ! さあ、まずは腹筋一万回からだ!」
元・魔王
(ボロボロの麦わら帽子を被せられながら)
「……農家になっても……結局このおバカたちにこき使われるのか……。 ……神様……私、前世で何か悪いことしましたか……?」




