第三話 武器屋の価格表と誘導の美学
命からがらスライムから逃げ出したアレンは、近くの村にある武器屋へと辿り着いた。 手元の鉄の剣は、先ほどの無理な一撃で刃こぼれしている。
「親父、一番強い剣をくれ。金ならあるぜ」
アレンが財布を放り出す。中身はわずか百ゴールド。
対して、壁に掛けられた名剣の価格表には、五万ゴールドという絶望的な数字が並んでいた。
「兄ちゃん、冗談はよせ。その金じゃ、そこら辺にある錆びたナイフが関の山だ」
店主の冷たい言葉に、アレンは顔を赤くして憤慨した。
彼は何を思ったのか、無理やり店主に掴みかかろうとする。
待て、暴力は解決にならない。
むしろ衛兵を呼ばれて詰む。
俺は即座に思考を巡らせた。
システムそのものを書き換えて価格を下げるのは、今の俺には負荷が大きすぎるし、何より美しくない。
俺はアレンの視界にある「店主の頭上」に、偽のステータスウィンドウを生成した。
名前 武器屋の親父
現在の感情 極度の退屈
弱点 昔の自慢話
もちろん、これは俺が店主の雰囲気から推測したデタラメだ。
だが、単純なアレンには効果絶大だった。
「お、親父、退屈してんのか。いいぜ、俺の華麗な剣術の話を聞かせてやるよ」
アレンが一方的に、先ほどのスライムとの死闘(という名の敗走)を脚色して語り始めた。
案の定、店主は呆れ顔だ。
このままでは追い出される。
俺は次に、店主が大切そうに抱えている古い木箱に注目した。
そこには「未鑑定」というラベルが貼られている。
俺はアレンの視界を操作し、その木箱だけを黄金色に輝かせ、巨大な矢印を表示した。
超希少アイテム検知。 この箱の中身を鑑定できるのは、選ばれし勇者のみです。
鑑定を申し出ることで、店主の信頼度が大幅に上昇します。
「親父。その箱、俺が鑑定してやろうか。俺には勇者の目があるんだ」
アレンの言葉に、店主の目が変わった。
その箱は、亡き父の形見でどうしても開かなかったものらしい。
俺はアレンの手が箱に触れた瞬間、内部の鍵の構造を画面上に三次元パズルとして投影した。
左に三度、次に右に一度回す
俺の指示通りにアレンが動く。
カチリ、と音がして箱が開いた。
中から出てきたのは、錆びた古いメダルだった。
店主は涙を流して喜んだ。
金目の物ではなく、思い出の物だったようだ。
「兄ちゃん、ありがとうよ。礼だ、この剣を持っていきな」
店主が差し出したのは、五万ゴールドの名剣ではない。
だが、しっかりと手入れされた、使い勝手の良さそうな鋼鉄の剣だった。
俺は画面にそっと文字を出した。
ミッション達成。
真の価値は価格表には載っていない。
「へへ、そうだな。サンキュー、親父」
アレンは満足げに店を後にした。
財布の金は一銭も減っていない。
これこそが、情報の提示だけで現実を動かすデザインの勝利だ。
後書き
メインメニュー
お疲れ様です。
メインメニューです。
システムを直接いじらず、嘘の情報を流してユーザーを動かす。
正直、良心が少しだけ痛みましたが、これもデザイナーのテクニックの一つ、いわゆるダークパターンというやつですね。
あ、今の発言は聞かなかったことにしてください。
あくまで私は、勇者を最適な道へ導くナビゲーターですから。
次回は「宿屋の看板娘」との対面です。 アレンが余計なナンパをして事態を悪化させないよう、彼の選択肢を徹底的に管理して見せます。




