第二十話 高速周回三万回、そして賢者は考えるのをやめた
「よっしゃあ! 三万回目、クリアだぜ!!」
アレンの叫びとともに、またもや魔王城の扉が木っ端微塵に吹き飛んだ。
もはやアレンにとって、この世界は一分以内でクリア可能な「ただの作業」と化していた。 魔王が「時を――」と言いかける前に、クワの先端が魔王の鼻先に突き刺さる。
しかし、その背後で、ゼクスの精神は完全に「虚無」へと到達していた。
(……メニュー画面さん。聞こえるか。俺には、もう何も聞こえないし、何も見えない)
ゼクスは、カレンに逆さ吊りにされた状態で、虚空を見つめていた。 三万回ものループの間、彼はアレンの爆走に合わせて魔法を使い続け、物理法則を修正し、全ての辻褄を合わせ続けてきたのだ。
(……さっき、三万一回目の村の入り口で、俺、村長を『おやつA』って呼んじゃったんだ。もう、名前なんてどうでもいい。この世界は、ただの色のついたドットの集まりなんだよ……)
俺は、ゼクスの精神崩壊を防ぐために、彼の視界に「安らぎの風景」を投影しようとしたが、 高速周回の負荷でシステム自体がバグを起こしていた。
警告。 処理速度が限界を突破しました。 ゼクスのIQが計測不能に突入。 カレンの筋肉が、周回速度の摩擦熱で核融合を始めています。
「おーい、ゼクス! なんだか景色が虹色に溶けてきたな! これも魔王の新しい演出か? 派手でいいじゃねえか!」
アレンは、テクスチャが剥がれ落ちた地面を走り続け、 ついには「世界の裏側」の虚無空間へと突っ込んだ。
ルナもまた、あまりの超高速移動に脳が追いつかず、 「アレン様が、一人、二人……十万人いますわぁ!」と、分身を数えながら笑っている。
「はは……はははは! メニュー画面さん、見てくれよ。 魔王の首が、俺の好物の『焼き鳥』に見える。 ……よし、食べよう。全部食べて、このバグった世界を終わらせよう……」
ゼクスが、ついに賢者の杖を捨て、包丁(を模した魔法)を手に取った。 それは、魔王討伐という目的が「空腹を満たす」という本能に上書きされた瞬間だった。
後書き
勇者アレン
いやー、三万回も走ると、さすがに足の裏が熱いぜ!
でも見てくれよ、おやつメーターが天元突破して、
宇宙からおやつが降ってきやがった! 最高だぜ!
賢者ゼクス
(瞳から光が消え、よだれを垂らしながら)
「あはは……焼き鳥だ……特大の、角が生えた焼き鳥だぁ……」
(メニュー画面さん。俺、もう人間には戻れない。 この周回が終わったら、俺をただの『背景の岩』として再配置してくれ……)
魔導士ルナ
アレン様が光の速さを超えた瞬間、
私は未来の自分から、昨日のおやつを奪い取ることに成功しましたわ!
これが愛の超空間移動……もはや、負ける気がしませんわ!
女戦士カレン
三万回のスクワット、三万回のダッシュ……。
私の筋肉は、ついに物質の壁を超え、エネルギー体へと進化した!
今の私は、触れるものすべてを(摩擦熱で)灰にできるぞ!




