第十六話 静かなる自然消滅と、賢者の休息
街を出て、穏やかな草原を歩いていた時のことだ。
肩車をされ続けていたゼクスは、ある「真実」に気づいてしまった。 カレンが、歩きながらプロテインの代わりに道端の雑草をムシャムシャと食べている姿を見てしまったのだ。
(……メニュー画面さん。俺、やっぱりこの人とは「種」が違う気がするんだ)
ゼクスは静かに、俺にだけ聞こえる思念を送ってきた。
(愛とか筋肉とか以前の問題だ。俺は人間として、普通の食事をする人と人生を歩みたい。……波風立てずに、こう、スッといなくなりたいんだ)
俺は、ゼクスの「静かなる撤退」をサポートすることにした。 カレンの視界に、特殊な「筋肉集中フィルター」を重ねる。
警告。 現在、肩に乗せている『重り(ゼクス)』に魔力を注ぎすぎると、あなたの僧帽筋が肥大化しすぎて、首が消失する恐れがあります。 真の美しさを保つには、今すぐ重りを下ろし、地面に置いたまま『無』の境地で歩き続ける必要があります。
「な、なんだと!? 首がなくなるのは困る! 私の完璧なフォルムが崩れてしまうではないか!」
カレンは慌てて、ゼクスを地面にそっと下ろした。
「ゼクスよ、済まぬ。私は修行が足りなかったようだ。 お前という重荷……いや、愛を背負い続けるには、私の首が細すぎた!」
「いえいえ、カレンさん。お気になさらず。俺はここで、静かに草の数でも数えてますから……」
ゼクスは、そよ風に吹かれるタンポポのような儚い笑顔を見せた。 カレンはそのまま、前だけを見つめて「無」の境地で歩き去っていく。
一方で、アレンとルナも、俺が仕掛けた「三十センチの距離」がいつの間にか「三キロメートルの距離」に書き換えられていたことで、お互いの存在がもはや地平線の彼方になっていた。
「おーい、ルナ! 元気かー!」
「アレン様ー! 貴方の姿が豆粒のようですが、愛は届いておりますわー!」
お互いが見えなくなったことで、逆に「心の繋がり」という抽象的な概念に満足し始めた二人。 こうして、パーティー内の「カップル」という制度は、爆発も崩壊もせず、霧が晴れるように静かに消えていった。
ゼクスは、久しぶりに自分の足で地面を踏みしめ、深く、長く、自由の空気を吸い込んだ。
後書き
勇者アレン
いやー、付き合うってのは深いな!
距離が離れれば離れるほど、おやつが美味しく感じるぜ。
俺たちの愛は、もう宇宙規模まで広がったってことだな!
賢者ゼクス
(草原に大の字に寝転がって)
「……空が、こんなに青かったなんて……」
(メニュー画面さん、本当にありがとう。今日からは、ただの『仲間』として、命を大事に生きていくよ。……ところで、おやつ、一個分けてくれないか?)
魔導士ルナ
アレン様が地平線の向こう側に消えていくのを見て、
悟りを開きましたわ。
愛とは、見えぬものを信じる力……。
姿が見えなくても、私はアレン様の『おやつ係』として一生を捧げます!
女戦士カレン
……。
(自分の肩をさすりながら)
ふむ、重荷がなくなったことで、私の歩法はさらに洗練された。
愛を捨て、筋肉を選んだ私の覚悟……。
これぞ、真の武人の生き様よ!




