第十五話 世界の真実と、崩れ去る純情
一行は、旅の途中で立ち寄った大きな街の宿屋に泊まっていた。
夜、アレンが「おやつ」を求めて廊下を徘徊していた時のことだ。 たまたま開いていた隣の部屋の隙間から、彼らは見てしまった。
そこには、抱き合い、唇を重ね、情熱的に愛を囁き合う「本物のカップル」の姿があった。
「……。……。……。」
アレンの手に持っていた「幸せの石」が、乾いた音を立てて床に落ちた。 背後にいたルナ、ゼクス、カレンも、石像のように固まっている。
「な、なあ、メニュー画面。……今のは、なんだ?」
アレンの声が震えている。 俺は即座に状況を分析したが、流石にこれを「高度な格闘訓練」と言い張るには限界があった。
だが、俺はデザイナーだ。 彼らの精神崩壊を防ぐため、全力で「解説」という名の嘘を画面に叩き出した。
警告。 先ほど目撃したのは、暗黒魔法『生命エネルギー直接交換』です。 一秒でも長く触れ合えば、お互いの寿命が吸い取られ、翌朝にはミイラになります。 真の愛を持つ者は、決してあのような危険な行為に手を出してはいけません。
「寿命が吸い取られる!? 怖えぇぇ! 殺し合いじゃねえか!」
アレンは絶叫しながら、自分の部屋へと猛ダッシュで逃げ帰った。 ルナも顔を真っ青にして、アレンからさらに「十メートル」ほど距離を取った。
「ア、アレン様……! 私、今まであんな恐ろしい行為を『付き合う』ことだと思っていたなんて……! 私、まだミイラになりたくありませんわ!」
(……メニュー画面さん。ナイスだ。ナイスすぎる嘘だ)
ゼクスが、肩車していたカレンの足元から、ガクガクと膝を震わせながら思念を送ってきた。
(……もし、カレンに『あんな風になりたい』なんて言われたら、俺の背骨は粉砕されてた。寿命どころか、一瞬で人生が終了するところだったぜ)
カレンもまた、見たこともないほど神妙な面持ちで自分の筋肉を見つめている。
「……ふむ。唇を重ねることで相手のスタミナを奪う禁術か。 戦士としては興味深いが、恋人同士でやるにはあまりに過酷すぎるな。 ゼクス、安心しろ。私はお前の寿命を吸い取ったりはしない!」
「ああ、カレンさん……ありがとうございますぅ……!」
こうして、一行は「本物の愛」を「恐ろしい呪い」だと定義することで、なんとか自分たちの純情を守り抜いた。
俺は画面の隅に「貞操守護成功」のログを出し、静かに宿屋のカーテンを閉じた。
後書き
勇者アレン
おい、みんな……。
世の中には知らないほうがいいことがたくさんあるんだな。
俺たちはこれからも、「おやつ」と「ハイタッチ」の健全な関係を守っていこうぜ!
賢者ゼクス
(布団を頭まで被って震えながら)
「そうですねぇ……。あんなの、人類には早すぎますよぉ……」
(メニュー画面さん。今日ほどお前を頼もしく思ったことはない。一生ついていくから、これからも俺の命を守る嘘をつき続けてくれよな)
魔導士ルナ
愛とは、命を懸けた果てなき闘争……。
私は、アレン様と「安全な距離」を保つことで、
末永くこの命を燃やし続けたいと思いますわ!
女戦士カレン
……。
(自分の上腕二頭筋にキスをしようとして、思い止まる)
危ないところだった。
自分の唇で、自分の筋肉の寿命を吸い取ってしまうところだったぞ!




