第十四話 賢者の受難と筋肉の誘惑
アレンとルナが「三十センチの距離」を保ちながらイチャついている横で、 賢者ゼクスは深い溜息をついていた。
(……メニュー画面さん。俺、もうこのパーティーのまとめ役、辞めていいかな)
そんな彼の背後に、音もなく巨大な影が忍び寄った。 女戦士カレンだ。 彼女は、ゼクスの細い肩をガシリと掴んだ。
「ゼクス! さっきのアレンたちの姿を見て、私は確信したぞ!」
(な、何をですか、カレンさん……)
「筋肉を極めるには、愛が必要なのだ! 私の広背筋を理解し、魔法でケアしてくれるのは、お前しかいない!」
カレンは、ゼクスを軽々と片手で持ち上げた。 彼女にとっての「付き合う」とは、専属のコンディショニング・トレーナーを得ることと同義だった。
(……助けてくれ! 骨が折れる! メニュー画面、何とかしてくれ!)
俺は慌てて、ゼクスの視界に「生存戦略」を表示した。
緊急クエスト・筋肉の暴走を鎮めよ。 ここで拒絶すると、彼女の『ハグ(物理攻撃)』により、全ステータスがゼロになります。 『はい』と言えば、彼女を盾にして、あなたは今後一切のダメージを受けなくなります。
(……背に腹は代えられねえ!)
「わ、わかりました! カレンさん、俺と付き合いましょう! その代わり、俺を投げ飛ばすのは禁止です!」
「おおお! 受けてくれるか! よし、では今日からお前は私の『専属ウェイト兼恋人』だ!」
カレンは、ゼクスを肩車して走り出した。 ゼクスは、揺れる視界の中で、俺に向かって絶望のサインを送ってきた。
俺は、二人の頭上にも「鉄アレイ型のハートマーク」を表示した。 こうして、パーティー内には二組のバカ……もとい、カップルが誕生した。
だが、知能指数がさらに低下したこの集団を、 「画面」である俺一人が導いていくことの絶望感は、 もはや計り知れないものになっていた。
後書き
勇者アレン
おお、ゼクス! お前もカレンと付き合うのか!
いいなー、肩車。
俺もルナにやってもらおうかな!
賢者ゼクス
(肩車されたまま、魂が口から出かかって)
「……アレンさん、死ぬからやめてくださいねぇ……」
(メニュー画面さん。俺、付き合うってこういうことじゃないと思うんだ。誰か、まともな恋愛の辞書を持ってきてくれよ)
魔導士ルナ
カレンさんも、ついに愛に目覚めたのですね!
「専属ウェイト」……。
なんて情熱的で、重みのある愛の誓いかしら!
女戦士カレン
はっはっは! ゼクスは見た目より軽いな!
これからは、こいつを背負ってスクワットをしながら、魔王城を目指すぞ!
愛の力で、私の大腿四頭筋は無敵だ!




