第十三話 恋のシステムログと暴走する親愛度
事の始まりは、ルナが街の占い師から言われた一言だった。
「貴方の運命の人は、一番近くで一番バカなことをしている人ですわ」
ルナは即座に、隣で自分の鼻の穴に小石を突っ込もうとしていたアレンを見つめた。
「……アレン様! 私、気づいてしまいました。私たちが付き合うのは、世界の摂理なのです!」
「えっ、付き合う? 付き合うって、あれか? 一緒にトイレに行く仲ってことか?」
アレンは鼻の穴から石をポロリと落とし、首を傾げた。 このままでは話が永遠に平行線だ。
(……おいメニュー画面。ここでアレンが変な回答をしてルナを傷つけたら、彼女の魔力が暴走してこの街が吹き飛ぶぞ。何とかしろ!)
ゼクスの悲鳴のような思念を受け、俺は即座にアレンの視界を「乙女ゲームモード」に切り替えた。
緊急イベント。告白への回答。 ここで『はい』と言えば、今後の冒険でルナからの魔法攻撃力が二倍になります。 さらに、毎日おやつが二個になります。
「おやつ二個!? よっしゃ、付き合おうぜルナ! 俺とお前は今日から最高のペアだ!」
アレンはルナの手を力いっぱい握りしめた。 ルナの顔が、一瞬で真っ赤に染まる。
「まあ! アレン様……! それでは、今日から私たちは恋人同士なのですね!」
「おう! 恋人っていうのは、あれだろ? 敵を倒した後にハイタッチをする関係のことだよな!」
アレンは満面の笑みで、ルナの背中を豪快に叩いた。 あまりの衝撃にルナはよろめいたが、本人は「愛の重み」だと勘違いして幸せそうだ。
俺は二人の頭上に、巨大な「ハートマーク」のエフェクトを表示し続けた。 そして、ゼクスと相談して、二人の間に「物理的な距離」を保たせるための偽情報を流し始める。
恋人の心得その一。 真の愛は、三十センチ以上の距離を保つことで熟成されます。 近づきすぎると、愛の魔力が爆発して、おやつが没収されます。
「三十センチ……! 厳しい修行だが、おやつのためなら耐えてみせるぜ、ルナ!」
「はい、アレン様! 私、この距離から貴方を熱く見守りますわ!」
(……メニュー画面さん。とりあえず、街の破壊は免れたな。でも、このバカ二人の『恋人ごっこ』に付き合う俺たちの寿命、確実に縮まってるぞ)
俺はゼクスの言葉に、同意のシャットダウンを返したくなった。
後書き
勇者アレン
恋人ってすげえな!
ルナの魔法がいつもよりキラキラして見えるぜ。
おやつが二個になる契約、絶対に守り抜いてみせる!
賢者ゼクス
(遠い目で空を見上げながら)
「アレンさん、お幸せに……」
(……メニュー画面さん。あいつら、付き合ってる定義が『おやつ』と『ハイタッチ』なんだよな? 頼むからそのままでいてくれよ)
魔導士ルナ
ついに、アレン様と心が通じ合いましたわ!
「三十センチの距離」……。
これこそが、高潔な男女に許された、至高の愛の形なのですね!
女戦士カレン
……。
なんだか、私だけ筋肉の付け所を間違えたような疎外感があるな。
よし、私は自分の腹筋と付き合うことにするぞ!




