第十二話 お会計という名のラスボス
贅を尽くした料理を堪能し、アレンは満足げに腹を叩いた。
「ふぅ、食った食った! 伝説の魔物肉のステーキ、最高だったぜ!」
しかし、運ばれてきた伝票を見た瞬間、賢者ゼクスの顔が紙のように白くなった。
(……おい、メニュー画面。嘘だろ。桁が二つ多い。迷宮の報酬、全部使っても足りないぞ)
アレンは伝票をひったくると、そこに書かれた「十万ゴールド」という数字をじっと見つめた。
「……なるほどな。これがこの店の『戦闘力』ってわけか。面白い」
アレンは突然、椅子を蹴って立ち上がった。
「親父! この店には、地下に恐ろしい魔物が巣食ってるんだな! 俺が今からそいつを『皿洗い』という名の拳で成敗してやるぜ!」
無一文であることを「修行」に変換して、厨房へ突撃しようとするアレン。 店員たちが顔を見合わせ、不穏な空気を感じて腰の短剣に手をかける。
俺は即座に、店全体の雰囲気を「クエスト受注モード」へと上書きした。
緊急特別クエスト。 厨房の守護神・皿洗い巨神の討伐。 このクエストを完遂すれば、飲食代が全額免除され、さらに『清掃の勇者』の称号が与えられます。
「お、やっぱりそうか! 任せろ、俺のスピードなら、皿の一枚や二枚、光速で磨き上げてやる!」
アレンは厨房に飛び込むと、山積みになった皿に向かって猛烈な勢いでスポンジを振るい始めた。
(……まずい! あいつの力加減じゃ、皿が全部粉砕されるぞ!)
ゼクスが慌てて後を追い、裏で「硬化魔法」と「自動洗浄魔法」を皿にかけ続ける。
アレンが皿を手に取るたびに、ゼクスの魔力が削られ、俺のUIが「ナイスコンボ!」という派手な演出を空中に表示する。
「ルナ! カレン! お前らも手伝え! これは世界を救うための戦いだ!」
「はい、アレン様! 水の魔法で、すべての油汚れを浄化いたしますわ!」
「うむ! この皿を磨く動き……広背筋のトレーニングに最適だな! 私も全力で行くぞ!」
厨房は、泡と魔法と筋肉の熱気に包まれた戦場へと化した。 店主は最初こそ呆気にとられていたが、あまりの洗浄速度と、俺が出した「満足度メーター(捏造)」の数値に圧倒され、最後には涙を流して感謝し始めた。
後書き
勇者アレン
いやー、なかなかの強敵だったぜ。
あの脂ぎった大皿、あいつがこの街の真の黒幕だったんだな。
でも、俺の『聖なる洗剤』の前には無力だったよ!
賢者ゼクス
(真っ白に燃え尽きながら)
「アレンさん、流石の腕前でしたよぉ……」
(……メニュー画面さん。俺、もう一歩も動けない。皿を一枚守るのに、これほどの魔力を使うなんて……)
魔導士ルナ
お皿の裏側に隠れていた汚れを落とした瞬間、
私の心まで洗浄されたような気分ですわ!
アレン様、次は何を洗う予定でしょうか?
女戦士カレン
皿を回しながら磨くという新技……、
盾の扱いにも応用できそうだ!
筋肉も、かつてないほど「ツヤ」が出て満足しているぞ!




