雨宿りのご縁
しとしと降る雨の優しいこと。走って帰ってきたが、全身ぐっしょりと濡れてしまった。雨を吸った尾も重たい。これぐらいの雨ならと甘く見ていた。
主様に報告する前に身を清めねば、と思い、玄関先で体をぶるると震わせる。耳の先から尾の先まで雨粒が飛び散る。切らした呼吸を整えようと一息つくと、玄関の引き戸が開く。
「おかえり」
「ただいま戻りました」
私は出迎えてくださった主様を見上げる。
「やはりずぶ濡れではないか」
主様は持っていた布を私の体を覆うように被せ、優しく体を拭いてくださる。
しかし、耳の辺りがくすぐったくて、思わず体をぶるると震わせる。雨粒が飛び散り、主様のご尊顔を濡らす。
「やや! も、申し訳ございません!」
「ふはは! よいよい」
主様は顔の雨粒を拭いながら風鈴の音のように爽やかに笑う。
主様は昔からこの地を見守る神様。この地に生きる者全てに優しい。とくに、人間や小さき生き物に気を配られるお方。けれど、人間には中々認識されず、寂しそうにされる。
「どこかで雨宿りしてきてもよかったのに」
「この程度の雨ならと思って。……雨宿りと言えば、主様と出会った日のことを思い出しますね」
私の言葉に主様は懐かしそうに目を細める。
「そうだな」
どれほど昔だったでしょうか。私が子犬だった頃、疲れ果てた体に追い打ちをかけるような雨の日でございました。主様がおわします、こちらの神社の本堂で雨宿りをしておりました。お腹も空き、寂しくて鳴いておりましたところをご祭神である主様に拾っていただきました。保護されたときの主様の温かなお手と、おやすみ、と貸してくださったお膝のことは忘れもしません。
それからというもの、私は主様のお側にお仕えすることとなり、現在に至る。
「小さかった犬の子が、こんなに大きく、立派になって」
主様と出会った頃はひょいと抱き上げられるほど小さかったが、今は抱き上げるのも大変なほどに成長した。これも主様が私のことを大切にしてくださったおかげだ。
「我の大切な世話役なのだから、無理のないように」
「はい!」
私は主様から賜ったお言葉に元気よく返事をした。主様は、頼むぞ、と頭を撫でてくださる。
あの日、主様のところで雨宿りをしてよかったと改めて思う。
慈悲深くて、ちょっぴり寂しがりやの神様。孤独に苛まれぬよう、これからもしっかりとお仕えしよう。
そう気を引き締めた私の尾と同じ丸みを帯びた虹が空に掛かっていたのでした。
神様が人の子と話せた話→「風鈴回廊の神様」https://ncode.syosetu.com/n4674lk/




