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復讐者専用車両

作者: 藤乃花

電車内での性的被害に苦しんでいる女性、そして性的行為の冤罪で苦しんでいる男性、両方の被害者たちは今、生き地獄を背負っている。

勤務先にいる時でも、女性たちは異性の存在が恐ろしいモノでしかなく、男性に至っては外へ出れば性的行為に手を染めた加害者として扱われている。


(男性が怖い……!

もう普通に話すことが出来なくなった……)

性的被害に遭った女性たちは、これまで日常的に交流を深めていた異性と接触さえ出来なくなり……。

(今まで対話出来ていた人たち皆が、悪魔に見える)

冤罪に苦しむ男性たちは、人間を恐れるようになってしまった。


それでもその人たちには会社、もしくは学校という人生において避けられない場所へ向かうため電車通勤、または電車通学しないといけないのだ。

憂鬱な気持ちを押し殺し、被害者たちは避けられない電車へと乗り込む。

(嫌だ……怖いよ……!)

(人の目が、恐ろしい!)


女性たちは再び被害に遭う可能性を抱き、男性たちは罪をきせられるという恐怖に付きまとわれる。

恐怖のあまり、車両に乗り込んだ瞬間目眩が起き、視界が歪んだ。

胸が抉られる感覚に陥り、吐き気にまで襲われる。

〈世の中、生き地獄だ!〉

女性も男性も、これまで耐えられない経験を強いられてきた。

非がないにも関わらず、心無い言葉を吐かれ続けてきた。


「被害者ぶってるけどさ、アンタみたいな地味子、電車くらいでしか男に相手にされないわよ!」

「てかさ、色目使ったんでしょ?

そうでもなきゃ、アンタが男に迫られるわけないっての‼」

「自惚れんじゃないわよ!」

真実を歪められ、罪のない女性たちは蟻地獄へ堕ちていく。

「ほら、あの人……電車で……やったんだってさ」

「よく平気で外歩けるな」

「身内じゃなくて良かったわよ」

無実を主張すればするほどに、事態は悪化していく。


ー死にたい!ー


「それならば、死ぬほど後悔させてやりましょうー」

女性たちの、男性たちの心に、声が響いた。

車両に乗り込んだ後の記憶が曖昧な事に混ざり、周囲の景色がしっくり来ない。

いつものように電車に乗り込んだのだが、説明がつかない部分が多々ある。

「ーあなた方を苦しめている原因を生み出した……クズどもを……」

皆の視線を浴び車両の進行方向の先に、不可思議な姿の人が佇んでいる。

実際には人かどうか分からない。

「ようこそ、苦しまれている皆さま方……ここは、復讐者専用車両」

女性、男性共にいつの間にか座席に座っていた。


車内の扉にもたれかけ、不可思議な姿の人は、静かな口調で語り出す。

「皆さま方を生き地獄へと突き落としたクズどもを、今度はこちら側が生き地獄へと送り込んでやりましょう」

声は抽象的なトーンなもので、性別が不明だ。

何より服が古めかしいデザインの車掌のそれだった。

怪しげな雰囲気に、全員警戒している。

「あの……これは、一体?」

一人を除いて、突然起きた出来事に、目をパチクリさせている。


「驚かせまして、誠に申し訳ありません。

こちらは復讐者専用車両……

あなた方を苦しめ続けてきたクズどもに、復讐する為に皆さま方を同じ車両へとご案内させて頂きました」

不可思議な姿の人……車掌は、女性たちの、男性たちの、心を苦しみから解放しようと云っているのだ。

「復讐……って云ったって、どうやって?」

「誰も俺たちの言葉を信じてくれないのに……無理だろう」

「……出来るもんなら、とっくに復讐してるさ」

生き地獄から抜け出せない皆は、世の中に抗う気力をなくしている。

このままでは被害者たちの人生には闇しかない。


不可思議な姿の車掌から、言葉に出来ない『念』が生まれてきた。

正体不明の『念』に続いて、低く響く唱え声。

「闇の心から伝わりし涙の叫び声……光の救いを求め、今こそ轟きたまえ」

『念』が込められた言葉を唱えた不可思議な姿の車掌が片手で車両の通路を指差した。

「復讐を果たす為、ここへ参りたまえ」    

指された指の先、つまり車両の通路に現れたのだ。

被害者たちを苦しめているクズどもが、この場所へ。

「!」

「!」


被害者、加害者……どちら側もあり得ない状況の中、驚愕したが、苦しんでいる被害者たちに天をつくほどの怒りが湧き上がってきた。

「忘れたくても忘れられない……その憎らしい、顔……!」

「今までずっと、普通に生きてきたんだよな……お前らは……!」

「私たちがどんな想いで過ごしてるか、何も知らないでしょう……?」

被害者たちは座席から立ち上がり、皆を貶めたクズどもへと歩み寄っていく。

長い間苦しんできた人たちの感情は、クズどもを追い詰めていく。

『許さない……!』

『人の人生、メチャメチャにしやがって……!』

『今度はお前らが苦しんでしまえ……!』

『地獄に墜ちろ……!』

苦しみの『念』が具現化し、それがクズどもへと向かっていく。

「苦しみの『念』を全身で受け止めたまえ!」


街じゅうに突如、不可思議なアナウンスが響き渡った。

『皆様、間も無く大通りを《冤罪、及び痴漢専用車両》が速度を落としゆっくり通過致します』

奇妙なアナウンスに、街を行く人々は首をかしげたが、その直後本当に通りを車両がかなりの遅さで入ってきたのだ。

「なんだ、ありゃ?」 

「テレビの撮影?」

「ねぇ、この電車?……遊園地の電車みたいに屋根も壁?も無いわよ?」

「乗ってる人たち、顔に名前と罪名?が書いてあるぜ

……バツゲーかよ」

「なんか、足に鎖付けられてるよ?」

『罪名、冤罪』

『罪名、性的暴行』

『罪名、車内ワイセツ行為』

全員の顔に、罪名と名前が極太の黒い文字で書かれてある。


列車はこれでもかと言うくらい速度が遅く、通行人たちは、この奇妙な通過列車に暫く釘付けだった。

若い者や動画マニアは、その列車を動画にあげていた。

はやいもので動画はたちまち拡散され、クズどもの行為が全面的に公になった。

その動画がきっかけで電車内で被害に遭った人たちが顔だし無しで取材を受け、女性たちの苦しみが伝えられ、男性たちの濡れ衣もはれた。

完全に心をもとに戻すのには年月がかかるが、被害者たちを守る存在が増えつつある。


そして多くの人たちを苦しめたクズどもだが……。

『皆様、間も無く《冤罪、及び痴漢専用車両》が、速度を落としゆっくり通過致します』

今も車両に乗せられて、移動している。

因みに現在、十五週目である。







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