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遠足レポート

作者: 雉白書屋

 三年生の秋、わたしは学校の遠足で、電車に乗って二駅先の町にある山に行きました。前日の夜、楽しみでドキドキしてよく眠れなかったせいか、電車の中ではうとうとしそうになりました。でも、目的地に着き、大きな木々や広い青空、みんなの笑顔を見たら、ぱーっと目が覚めました。

 わたしは、えっちゃんやりっちゃんと一緒に追いかけっこをしたり、遊具で遊んだり、お花を摘んで冠を作ったりして遊びました。お昼には、原っぱにみんなで集まってお弁当を広げました。お弁当にはみんなが好きなものがたくさん詰まっていて、イチゴまで入っていました。とてもうれしかったです。

 お昼のあと、みんなでかくれんぼをすることになりました。わたしは林の奥のほうに隠れようと思いました。みんなの笑い声がだんだん遠ざかっていくのは少し怖かったけれど、迷子にならないように木の形を覚えながら慎重に歩きました。

 すると、突然うしろのほうから、「がさっ」と音がして、わたしはびっくりしました。振り返ると、もっとびっくりして、いやな気持ちになりました。

 うしろには、ゲンくんが立っていたのです。ゲンくんは体の大きな子で、授業中に寝たり、立ち歩いたり、誰かの筆箱をわざと落としたりするので、正直言って、わたしは彼が苦手でした。

 ゲンくんはニヤニヤしながら「よう」と声をかけてきました。

 わたしは「うん」とだけ答えて、林のさらに奥へ進みました。

 けれど、わたしが進むたびに、うしろから落ち葉を踏む音がついてきます。振り返ると、やっぱりゲンくんがあとをつけてきていました。

「ついてこないでよ」とわたしが言うと、ゲンくんはケラケラ笑いました。その笑い声が、林の中ですごく不気味に響きました。

 わたしはゲンくんから離れたかったけれど、これ以上進むのも怖くなってきました。みんなの声がずっと遠くに聞こえるからです。立ち止まり、どうしようか考えていると、突然、背中をどんと押され、わたしは倒れてしまいました。

 わたしは、起き上がろうとしましたが、できませんでした。背中に乗られ、首をぎゅっと掴まれたからです。

「いやだ! やめてよ!」とわたしは必死に声を上げましたが、ゲンくんは笑うだけでやめてくれません。

 わたしは怖くて、怖くて、このまま気を失ったらどこかへ行って、二度と戻って来られないような気がして、わたしはたくさんまばたきを繰り返して起きていようとしました。

 ダンゴムシが歩いているのが見えました。

 落ち葉が見えました。

 小石が見えました。

 わたしは体を振って抵抗しました。すると、ゲンくんの手が離れました。わたしは逃げようとしましたが、ゲンくんはまたすぐにわたしの首を掴んできました。今度は正面からです。

 ゲンくんのズボンが膨らんでいるのが見えました。

 茂みの中にたんぽぽが咲いているのが見えました。

 ゲンくんの笑顔が見えました。

 青空が見えました。

 雲が見えました。


 わたしは死にました。

 まだ、みんなと生きたかったです。




 だから、わたしはよみがえりました。

 わたしはゲンくんのズボンの膨らみを思い切り殴りました。すると、ゲンくんは声を上げ、前かがみになりました。その隙に、わたしはゲンくんの耳を掴んで引き倒し、馬乗りになりました。

 耳を引っ張り続けると、ゲンくんが大声を上げたので、わたしはゲンくんの喉を三回、強く殴りました。そして、ゲンくんの左目に指を差し込み、目玉を引き出しました。そのとき、耳が引き千切れたので、目玉と一緒にゲンくんの口の中に詰め込みました。

 それから、ゲンくんのズボンの中に手を入れ、睾丸を握りつぶしました。するとゲンくんは間欠泉のように、目玉と耳、そして胃の中身を口から噴き出しました。内容は海苔、米、シーチキン。たぶん、コンビニのおにぎりです。ゲンくんの両親は離婚していて、お母さん一人で育てているらしいですが、その愛情も足りないのかもしれません。


 以上がこの件の報告書です。問題の解決に役立つでしょうか?



 ――小学校における早熟な非行少年の問題行動、その抑制策およびいじめ対策としてのロボット導入と、その結果発生した事故のレポート――

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