何気ない日々
あの熱かった日からはまだ何日も経っていない。
目を閉じればまだまだその時の様子がありありと思い出せる。
音楽と光と歓声と。
緊張と興奮と感動と安堵と。
楽しさと苦しさと喜びと。
疲労感に達成感。
でも、それらの全てにもはや実体はない。
あの激しく燃え盛るような熱を思い出すことはできるけれど、今それをそのまま感じることはできない。
あの時一緒に踊った、一緒に暮らしていた双子の姉のマレの、がらんとした部屋を見ると、いっそう思い知らされる。
今はもう、そこにはないのだ、と。
しかし日々は勢いよく流れ進む。
わたしには次のイベントが迫っていたし、浅草サンバカーニバルの準備だってすすめなきゃならない。
バイトもテストもあるのだ。過去を懐かしがってばかりはいられない。
その楽しかった思い出たちに匹敵する思い出が、これからも作り出され続けてゆくのだから。
わたしは日々を、懸命に過ごさなくてはならないのだ。
「柳沢さん、今日はバイトとか練習とかあるの?」
休み時間、話しかけてきたのは渡辺拍都くん。クラスの中では割と仲の良いグループの男子のひとりだ。
男女十人くらいのグループでアスレチック公園に遊びに行き、帰りは焼肉の食べ放題にも行った。
そこから割とよく話したり遊ぶようになった。
先日のわたしのデビューイベントにも、都合のつかなかった一部を除いてみんなで来てくれた。
陸上部の渡辺くんはスポーツマンだからか爽やかだ。
「今日は無いよー」
「のんたろーってなんか暇そうだよな。実際には忙しくても、雰囲気暇そうじゃね?」
横からしゃしゃり出てきて余計なことを言ってるこの失礼な男は與田達葵くん。
なんか一部ではイケメンだなんだと少しだけ騒がれてるみたい。そんなこと言うからこの手の男は調子に乗るのだ。
幻想を抱いている層には、こいつは性格に難ありの残念イケメンだよと教えてやった方が良いのだろうか。
まあそれをすると、きっと、彼らと仲良いグループになっているわたしらが、「調子乗ってる」なんて言われたららするのだろうな。
そう言う意味でも、中途半端なイケメンというのは厄介だ。
「帰りに男らでらーめん食べてこってなってさ」
余計なことを言う與田くんに代わり「ごめん」みたいな顔をしながら、声をかけた主旨を伝える渡辺くん。
なんでこのふたりが親友なんだろうか。
渡邉くん苦労してんなぁ。まあ面倒見良さそうだし、なんとなく苦労人ぽいし、それを良しと思ってそうだからなぁ。相性は良いのだろう。
與田くんは渡邉くんに感謝しとけよ。
「おけ、みんなに伝えとくー。カモエリは部活だと思うけどあとは大丈夫だと思うー」
みんなとは、一緒に遊んだグループの女子メンバーのことだ。
朝倉夏夜と唄野紗々は連れ立ってトイレに行っている。戻ったら伝えよう。加茂恵理子と佐原双葉はそれぞれ自席で隣の子と話してたり、次の授業の準備をしたりしている。
トークグループを開くのも面倒だし、授業が始まったら原則スマホは電源を切らないとならないし触ることもできない。今のうちに直接伝えておこう。




