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輝きしかないように見えた未来。今に這い寄る影。

 自室の、隣の部屋と隣接している壁面に接して置かれたデスクの上部。壁面のコルクボードに貼られたいくつかの写真。

 ユニットのメンバー、クラスの友だち、双子の姉。


 デスクの横には、スルド。

 借り物では無い、お父さんがわたしに金銭的な支援をしてくれて、何人かの学生メンバーに付き合ってもらって買った、自己所有の楽器。


 サンバ。

 ブラジルの音楽。

 羽根を身につけた華やかなダンサーのイメージが強いジャンルだけど、音楽なのだから当然リズムがあり、メロディがある。

 特にリズムは、どんなに原始的な音楽でも存在する。

 そのサンバのリズムを奏でる打楽器とひとつが、スルド。

 サンバはダンサーも演奏者もたくさんの人数で楽しむ文化だ。


 そのひとつの単位、いわゆるサンバチーム。

 幼馴染の縁を通してわたしが所属したのは、『ソール・エ・エストレーラ』という名の『エスコーラ』だった。

 エスコーラとは、『サンバカーニバル』という独自の基準を持つコンテスト形式のカーニバルに参加する意思を持ち、要件を満たしているチームのことを示している。




 部屋を見渡せば、まだまだたくさんの思い出たち。

 双子の姉と出かけた時に買った服、ゲームの景品で獲得したぬいぐるみ。姉が置いていったポータブルスピーカー。

 


 ユニットで身につけた衣装。


 練習で使った譜面のコピー。


 借りたままの、よく使う練習曲をまとめたCD。



 

 今、わたしの手にはたくさんのもので溢れている。



 かつては持っていなかった、やりたいこと、なんてものもなんとなくあったりする。




 わたしは、スルドという打楽器と出会い、サンバという音楽に取り組むこととなった。

 所属した『ソルエス』が後援となって企画されたイベントでデビューすることになったわたしは、同じチームの学生メンバーたちを中心に、いくつかのユニットで参加させてもらった。外部参加として、バレリーナの姉にも参加してもらって組んだユニットもあった。

 初心者ながら、複数の演目で、しかも演目によってはスルド以外の楽器やダンスも披露するなんてものもあって、とにかく練習に日々を費やした。


 そんな日々と。

 そして、本番の日が。


 かつて何も持っていなく、それで全然良いと思っていたわたしに、いつのまにか多くのものを残してくれていた。



 まだ始まったばかり。



『ソルエス』はこの後、『浅草サンバカーニバル』に向けて集中していくことになる。

 一方、そのほかのお祭りなどのイベントも入るようになってくる。イベント出演も十全に全うしながらの浅草の準備。そして、迎える本番。



 それを思えば、先日の熱い日でさえ序章に過ぎないと思えてくる。


 多分、険しくきつい道のりだ。

 だけど、わたしはそれに挑みたい。

 そのことが、掛け値なしに楽しみだと思える自分がいる。



 クラスの友だちや、今は留学先のフランスに戻っている姉とは、動画配信でコラボしようなんて約束もある。


 もちろん学校やテスト勉強、バイトもあるから、気合いだけじゃなくて、ちゃんと計画的な時間の使い方をしないと破綻する。


 そういうことも含めて、「やるぞ!」って気になってくるのだから、不思議だ。


 これが、目的を持つということなのだろう。



 見込まれる苦労すら、楽しみのひとつとなるのだ。

 この先のわたしには、楽しいことしか起こらない。




 そう思っていたのに。



 人生とはなかなかままならないもの。

 そんなことは言われるまでもなくわかっていたつもりだけど、本当に理解するには、わたしには経験が少なかった。

 けれど、それは、大人になってからで良かった。早くても受験とか、そういうタイミングで良かった。


 今、なんの準備もない中で、訪れて欲しくなど無かったのに。






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