序章 得たものと手に残ったもの
サンバ。
ブラジルのダンスミュージック。
スルド。
サンバの音楽で、最も低いリズムを担当する打楽器。
それが、わたしが出会ったもの。
今、わたしが結構夢中になっているもの。
正直言えば、寝食を忘れるほど特化していると言うほどではない。
それでも、イベントに出て、人前で演奏するともなれば、まあまあ必死に練習したりはする。自分の時間の大半を使ったりもする。
双子の姉のマレが、まさに人生をオールインして挑んでいるバレエに較べれば、わたしのサンバは余暇の趣味程度だ。
でも、熱中の濃淡や懸けているものの大きさが価値の差ということではないと思う。というより、自分の人生にとって、それがどういう位置づけなのかだけが重要で、他社と比べてどうと言うのは、あまり意味がない。
わたしは紛うことなく、サンバが好きになっているし、スルドの演奏を楽しいと思っている。
わたしがわたしの人生を楽しいと思えているなら、それがすべてだ。サンバとスルドは、間違いなくその彩になっている。
わかりやすいバロメーターとして、「苦労さえも楽しめる」ことが、熱中のひとつの目安になると思った。
先日、わたしが出演したイベント。
人前で演奏する、デビューとなったイベントで。
ごく限られた時間でスルドの演奏に加え、未経験のチャレンジも含めての四演目、過密な練習を重ねて一気に踏破したのは大変な苦労だったし、二度とやりたくないなんて思いも持ったが、それを込みにして、やっぱり楽しかった。
もう同じことはやりたくないって思いは偽りないけれど、やって良かったという気持ちも間違いなく生まれている。
楽しかった。とても。
みんなとやった練習も。
友だちと一緒に騒ぎ、客席で見た仲間のパフォーマンスも。
みんなや、マレと一緒に立ったステージも。
一瞬で終わったあの日は、きっとわたしの中に一生残り続ける。
今のわたしは、控えめに言ってもスルドにハマっていると思う。
授業中に机に指でリズム叩いたりしてしまう程には。
演奏は楽しい。上達を実感できるのも楽しい。もっと上手くなりたいなと思っている。そして、イベントにもっと出たい。イベントへの出演もとても楽しかった。浅草サンバカーニバルにも出てみたい。出るなら、成果も残したいと思うようになっていた。
無理やり見つけたわけではない、わたしがやりたいと思えること。なりたいと思える未来像。
それは、夢や目標と言えるのかもしれない。
それを大仰に抱えるには、未だにやや気恥ずかしさを感じないでもないが、やりたいことを楽しんでやっているうちに、先へ、少しでもその先へと近づけたなら。
その時なら、もっと焦がれるものを見つけているだろうか。
輝くものを掴み取るために、血を吐くような努力を続けている姉のように。
わたしも、その身を焦がすほどの熱に焼かれながらも、懸命に手を伸ばし続けられる者になれるだろうか。