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混浴になりましたなあ

「貸し切りのはずなのに」


 私は招かれざる客の到来に歯噛みする。

 脱衣所と浴場を仕切る扉が開かれた。

 脱衣所の扉から出てきたのは、どうみても堅気と言えない男衆だ。


 単なる男衆じゃない。

 重要な誰かを隠す壁になっている男衆三人と、彼らに守られている誰か。


 護衛役の体のあちこちに入れ墨がある三人の男は、騒々しく笑い声を立てているが、それこそ周囲に警戒警報と威嚇を発している行動だ。

 男達はがやがやとろくでもない会話を交わしながらも、風呂内の全てに危険が無いかと目を光らせているのである。守るべき人のために。


 対し、シリルこそすでに警戒警報発令中だ。

 彼は私とディオンの前に立ち、彼等から隠すべく壁になっている。

 静かに立つ彼は、完全なる岩か何かとして、私達の前に聳え立っているのだ。


「おう、兄ちゃん。この湯は俺達が貸し切りにしてたんだがねえ」


 シリルに声を上げたのは、三人のうち一番年かさそうな男だった。

 気さくそうな声でもあったが、空気がピリピリするような殺気を向けている。

 あからさま過ぎる殺気を出した相手に、三下が、と私は思ったが、そう言えばシリルの鍛え抜かれた体躯はそれだけで凶器だった。

 素手でも大量殺人できそうな肉体美を誇っているのだ。


「そっちこそ時間を間違えていないかな」


「どうかなあ。だあが、せっかくだ。お近づきになりましょうか」


「俺は余計な水はいらねえ感じですよ」


 私はブルりと震えた。

 シリルが、いらねえ、と言った瞬間、空気がシンと凍った気がしたのだ。

 動けば誰かが死ぬ、と誰もが感じてしまう凄まじい気の放出である。

 これこそが、剣鬼シリルが作り出す殺陣(たて)の場?


「ちちうえ。僕、あっつくて喉が渇きました」


「こ、こら、ディー」


 ディーが私の腕からシリルの背中に飛び移り、彼の肩から顔まで出した。

 賢い子がどうして、と私はディーを捕まえ直して口を塞ぐ。


「おう、ガキがいるのかい? 女もかい? 珍しいな」


 私こそ、しまった、だ。

 すまん、シリル!!

 だが今の危機などわからない(本当に?)ディオンは私の腕の中で暴れ出し、慌てた私はディオンの口から手を外してしまった。


「こ、こら」


「だっておふろあきたもの。お部屋かえりたい」


「ハハハ。ガキがいると大変だなあ」


「ええ。大変ですよ。俺はもう、へとへとで精いっぱいですよ」


「そうかい。お前さんは精いっぱいかい」


「精いっぱいですね。すぐに切れてしまうぐらいに」


 シリルは流石ディオンの父だ。

 ディオンと私がいる不利こそ利用して、相手に脅しかけている。


 余裕のない私は、ちょっかい出されたら何をするかわからないぞ。


「ハハハハ」


 その笑い声は、三人の護衛に守られている男からだった。

 ああ、あいつだった、とは。


「宿の手違いでお前さん方の家族旅行に水を差してしまったようだ。ここは私どもが一度上がろう。さあ、お前達」


「それには及びません。俺達は上がるとこですから」


「では、私どもは洗い場へと動こう」


 奴らは主の言葉を合図にシリルに向けていた緊張を解くと、入って来た時と同じようにして笑いさざめきながら洗い場へと進んでいった。


「行くよ」


「あいな。あんた」


 私は素直にシリルに従った。

 こいつはどこまでもやばい男だと感心しながら。

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